いじわるは出来心から
ほんの出来心だ。
彼らが進む先が分かるのであれば、私のハルは先回りなんて一瞬で出来る。
力を蓄えた今なのだから、尚更に体を動かしたいと思っているのだ。
そうして待ち構えていたのだが、機械がのけ反るとは思わなかった。
私達を見つけた、恐らく先鋒を歩くのは他の機体よりも偉いのだろうが、それはぎゅいいんっと体を反り返すようにして伸ばしたのだ。
そして、そのまま固まった。
あぁ、どうしよう、固まったこの子をつついて良いのかしら。
私がワクワクして見守る中、その機械は別の動きを見せた。
仲間を後退させてジャングルに戻すのは想定内だが、仲間達が緑の葉っぱに姿を消したとみるや、それは、なんと、私に向かって拡声マイクを使ったのだ。
「あー、あー。えぇと、聞こえていますか?」
若々しくもあるが、低く擦れる、聞いた事が無い程のとてもいい声だが、えぇと、あなたは何を考えていらっしゃるの?
私ったら、化け物よ。
でも私は頷いていたかもしれない。
私の頷きをハルに表現が出来ないだろうから、ハルはぐにゅんと頭頂部をほんの少しへこませただけかも、だが。
けれど、機械の中身の男性にはハルによる同意の印が解ったのかもしれない。
彼は言葉を続けたのだ。
「先ほどは助けていただいてありがとうございます。わたくしはアガレス星の機兵団の団長であるウォルター・カールツァイス少佐であります。」
うそおおおおおおおおお!
私は驚きのまま叫んでいた。
だが、それはハルを通しての声であるので、とてもとても野太く地獄の化け物の咆哮にしか聞こえなかったであろうと反省している。
なんと、ハルの声を聞いたからか、あの人と同じ名前を持つ人間が乗っている機械が、こてっと、ダンゴムシのようにその場に転がってしまったからである。
そして、そのまま動かなくなった。
こ、壊れてしまったのであろうか。
ハルの声には音響爆弾の威力があったかしら?
私は指先でチョイっとそれをつついた。
機体はごろっと転がってうつぶせになった。
なすがままの機体に可愛いと感じもしたのだが、この機体の動きは全て私の意識を逸らすのが目的だったらしい。
ジャングルから別の機体が、ぴょんっと私に向かって飛び出してきたのだ。
それは、この転がった機体が先ほどの戦闘で見せたと同じ銃を私に向けており、私に向かってそれを撃ち込んで来たのである。
私は敵ならば全て殲滅してきた女だと、残念なことだと溜息を吐いた。
しかし、それが撃ち込んで来た弾が私に当たる事は無く、私がカウンター攻撃をそれに対して起こす必要も無かった。
転がっていた機体が、飛び出して来た仲間の機体を押さえつけたのである。
「ちょっと待って、リンドン少尉。待って、これはクラーケンじゃない。ガーディアンだ。撃ってはいけない!」
「カッツェ少佐。何ですか?ガーディアンって!」
吃驚は連続するものだ。
オファニムが滅んで百年近く、かの星のクラーケン事情を知っている人間が存在していたなんて。
そして、カールツァイスを名乗る彼が、可愛らしく猫さん(カッツェ)と呼ばれているなんて。
あのハルベルトだったら、そんな名前で呼ばれたら、怒り狂って大暴れしていたはずだ。