世界の真実
公爵は私の本当の父だった。
彼は母と結ばれて、けれど、母の妊娠が明るみに出たところで私の父を騙ったベネディクトによって母が奪われてしまったのだ。
ベネディクトは公爵が待っていると母を王宮から連れ出し、そのまま結婚式を挙げてしまったというわけだ。
公爵は恋人を奪われただけでなく、人質となった娘の為に動けず、そして動かなかったがために自分の娘が自分の目の前で殺されたのだ。
公爵は殆ど自殺のようにナノを摂取し、彼は生き残ったが、永遠の命を生きる魔物としてこの世界をコントロールすることを考えたのだという。
公爵の行動を支えたのがハルベルトだ。
彼は私を愛していたから、私の父である公爵の手駒となったのだそうだ。
しかし、ワッツはそこで私には聞きたくもない事まで言い放った。
「ハルベルトは公爵と違い若かった。若ければ新しい恋をする。」
カッツェの私を抱く腕が緩み、私はもう少しで落ちるところだった。
そして、私はカッツェにしがみつき直したからか、聞きたくは無かったが傷ついていない自分の心に驚き、そして、私以上に目玉が飛び出そうなぐらい驚いている顔をしたカッツェの顔に純粋に驚いた。
「いや、だって、レティシアはハルベルトに嫌われているって。」
「嘘も方便。レティシアと子供を守る必要がありましたからね。」
「え?」
「少佐、ハルベルトに恋人が出来て子供が出来れば考え方も変わります。公爵がナノを部下達に与え始めたことがハルベルトには恐怖でしかなかったのです。いつか、我が子か、我が子の子孫が公爵達に喰われることになるだろうとね。」
「それで、ガラス玉か。」
「ええ。衛星で星々を管理していましたから、その通信手段を壊したのです。」
「ハルベルトが星々を転々としたのは。」
「通信手段という公爵の監視が無くなれば勝手をし始める部下が現れます。彼は自分の行動で生まれた化け物を退治して回っていただけですよ。公爵も部下の勝手は許せない行為ですからね、ハルベルトの行為を黙認していましたが、駆除される方が黙っているわけは無いでしょう。追い詰められた化け物は自分で勝手に仲間を増やし、そしてエノク星のような事態を引き起こしてしまったのです。」
「はぁ、ハルベルトはそれで星々を壊して回っていたのね。でも、そのせいで化け物がもっと増えてのこの世界と星間戦争なのね。凄いんだか浅はかすぎる男だったのか、知れば知るほど公爵よりも人類の敵で頭が痛いよ。」
「彼は普通の優しい人だったから。」
自分の祖先が英雄でもなかった事にがっかりしているだろうと口を挟んでしまったのだが、カッツェは私に感謝するどころか少々イラついた顔で見返して来ただけだった。
私はそんなカッツェにイラついて彼の腕から降りようとしたのだが、彼はもっと不機嫌そうな顔をして私を抱え直した。
「重たいでしょう。降りるわよ。」
「だめ。」
「え?」
「だめ。嘘つきワッツが君に本当に安全な男かどうかわかるまで、俺は君を離さない。俺が君のハルベルトでなくて申し訳ないけどね。」
「あら、カッツェさんの事は信じているわよ。」
彼はぼっと顔を赤らめたが、ありがとうではなくウォルターですと呟いた。
「えぇ、そうね。あなたはウォルターさんよね。カッツェさん。ってきゃあ。」
私はカッツェに乱暴に抱き直された。
一体どうしたというのだろう。
ワッツはぶふっと鼻から息を吹き出し、さぁ、始めましょう、と言った。
「始める?」
「えぇ、衛星と衛星を結び、姫君の歌を宇宙中に流してナノの活動を停止します。」
「それはだめだ!」
カッツェは叫んで私を隠すようにワッツから背を背けたが、彼がワッツの提案する行為から背いていられ続けるはずが無い。
感染したばかりの人間は、一先ず化け物では無くなるのだ。
今後手術で異物化した肉体の一部を取り除いたり、形成していくことは必要かもしれないが、人間の生活に戻ることは出来るのである。
「カッツェ、やるわ。やりたいの。私はもうたくさん生きて来たから、もういいのよ。沢山の人が助かるのよ。」
「俺は嫌です!」
私の頬にぽつっと水滴が落ち、彼は私が消えるからと泣いていた。
私は唇で彼の左頬を流れる涙をそっと吸い取り、彼の胸に頭を預けた。
ハルベルトにもした事が無い、初めての異性への親密な行為だ。
男性の身体に自分の体を預けることが、こんなにも温かく安心感と喜びを呼び起こすのであれば、レティシアがハルベルトを求め続けたのは当たり前だ。
「やめてください。」
親密過ぎたのかと頭を持ち上げようとしたら、カッツェの腕で再び彼の胸に押さえつけられた。
「俺が言っているのはワッツの言葉に従うことを止めてください、です。俺はあなたが死んでしまったら、一生一人者です。新しい恋なんか絶対にしません。いいですか?俺を寂しい人間にしたくなければ、絶対に止めてください。」
私は笑い出していた。
新しい恋をしないって、彼は私に恋をしているのだ。
こんなにも嬉しいと、幸せだと、私は大声で笑うことができるのだ。
そして、私はカッツェの腕を払いのけた。
私は女の姿をしているが、ナノを持つ化け物であり、すなわち、人間以上の力を持っているのである。
私の中にはクラーケンの遺伝子も混ざっているのだ。
「やるわ。さぁ、誘導しなさい。」
ワッツは恭しく、神様へするような態度で私に頭を下げた。




