人間でいるために
私は目の前で起きた展開に驚いていた。
敵兵に囲まれていた男が一瞬で敵を打ち払う上位者となり、そして、その彼はそのまま諸悪の根源とも言うべき王へ挑んでいったのだ。
階段を駆け上ろうとした男に、黒衣姿の副官は銀色の剣を放り投げた。
「少佐。ナノに銃は効きません。こちらで。」
カッツェは走りながらその剣を受け取り、そのまま階段を駆け上がり、階段上にいた男は顔を憤怒で歪めた。
「アアァァァレン。お前は何をしているのだ。」
「化け物退治ですよ、旦那様。私は人間ですから、人間の側につきます。」
「そうそう!彼は普通に職務に励んでいるだけさ。公爵さまとやら!」
駆け上がりきったカッツェはフォルブス目掛けて大きく剣を振るい、しかし、その剣はフォルブスにかすりもしなかった。
フォルブスは剣先を優美に避けると、手のひらからナノを固めて作った剣を引き出した。そしてそのまま、カッツェが再び振るった剣をそれで防いだのである。
まぁ!クラーケンがいないのにあんなことが出来るなんて。
彼らは数度打ち合い、結果は年の功となってしまった。
人間よりも力が強いらしきフォルブスによってカッツェの剣は折られ、彼の喉笛はフォルブスによって掴まれて、高く高く持ち上げられたのである。
「この人間が、が。」
カッツェはフォルブスの拘束から解放されて床に落ち、フォルブスは自分に受けた衝撃でカッツェを放した後に軽く足元をよろめかせた。
もう少しで骨を折られるところだった首をさするカッツェは、何度か咳き込みながら私に感謝どころか恨めしそうな眼差しをむけた。
「ひどい。君はどこまでも俺に良い格好をさせてくれない。」
「十分格好が良かったわよ。」
私はフォルブスの胸に差し込んだ銛を抜いた。
これでフォルブスが死ぬことは無いが、私は彼をこの世から消滅させるべきなのだと、数本の触手で彼を拘束すると、一気に自分の方へと引き寄せた。
「ファ……ビ……エンヌ。」
フォルブスが私を見返す目は、私が自分の死刑をここで宣言した時と同じような、悲しみと渇望が混じった眼差しだ。
「公爵。あなたは私をこうして何度も抱いてあやしてくれた。」
「ファ……ビエンヌ。い、一度でいい。もう、もう一度だけお前の顔を見せておくれ。最期の私のお願いだ。」
フォルブスは私の触手を掴み、懇願の言葉と違い、私がこの船に最初にしたように、私のナノに干渉してきたのだ。
干渉は自らを丸裸にもする行為だ。
彼の記憶も私にデータとして流れ込んで来た。
永遠の命を繋ぐために、人に不和と諍いを与えて支配してきた恐怖の王。
私を娘として愛してきたのは本当だという真実。
「ファビエンヌ。一緒にこの世界にあろう。」
「ごめんなさい。それは、できない。」
私はハルにいつものように命令を下してから、ハルと繋がるナノを断ち切った。
「このご飯を食べていいよ。」
周囲が真っ暗になった私には何も見えないが、私のハルがとてもとても強大な力を蓄えてしまった事は体で理解できた。
しかし、処理能力を超えたデータをダウンロードしてしまったがために、ハルは肉体を崩壊させてしまうことになった。
私もハルと一緒に砕けようと目を瞑り、けれど、金色の瞳をした男性が私に手を伸ばした姿が瞼に浮かび、私は死にたくないと息をのんだ




