フォルブス公爵
私を出迎えたのは、私の父ではなく、父の様だったフォルブス公爵であった。
毛皮の縁取りのある長いローブを肩にかけ、オファニム王家の王である白を基調とした軍服のような形の服を身に着けた彼はオファニムの王そのものであり、私の父には全くなかった威厳のある姿である。
私の中の幼い記憶を抱く私は彼の元に駆け寄りたいと叫んだが、あの日からもう百年以上も経っていると知っている私はそんな自分を押しとどめた。
しかし私はのしのしと重たい体を引きずりながら、王が見下ろす広間の中心、あの日の私が弾劾されたその場所へと向かった。
私はあの日にあの場所で実の父親を見限ったのだ。
あの日と変わらず私に温かい視線を向ける、あぁ、黒い瞳と黒い髪をした地獄の王様のような美貌の男性を、あの日の父にしたように見限らなければならないと、私はのそのそと歩いたのである。
「ファビエンヌ。その衣を脱いではくれまいか?私は愛しいお前の姿を見たい。」
「あの頃の私とは姿形が違います。公爵。貴方にお心があるのならば、見苦しいだけの姿を晒す事をどうか容赦してください。」
あの頃と全く変わっていないどころか、本来の姿、年を取らないその姿を晒しているフォルブスは若く、そして、体内には沢山のナノがひしめきナノそのものとなっているという彼に私は脅えていた。
私はあれに喰われてしまう、と。
私を守るものは、私が纏う、このハルという衣だけだ。
「見苦しいなどと。そなたは美しかった。我が玉座に一緒に並ぶにふさわしいほどに美しいものであった。」
フォルブスは笑顔のまま一歩だけ私の方へと踏み出した。
それでも彼は階段先の玉座という位置である。
衣を脱げと言いながら、彼のところまで私に上がってこいとも言わないという点で、彼が私に脅えているのかもしれないと何となく考えた。
あんな大量のナノを抱えて制御しているというのに、ほんの一握りのナノしか体にいない私が怖いというのだろうか。
「さあ、ファビエンヌ。」
私の目はフォルブスの美しい外見など映してはいない。
どんなにあの頃の私に向けた様な慈愛の笑みを作っていたのだとしても、今の私の目に映る彼は、銀色のナノが虫柱のように密集して蠢いているだけの人型でしかない。
「お許しください。この衣を脱いだ時、私はそこで死んでしまうのです。」
「死にはしない。お前に晩餐の用意はしてある。お前はそれを喰らい、女王となるのだ。あぁ、私の美しい幼子よ。さぁ、父の元においで。」
大勢の足音が広間へと向かって来た。
私は大勢の足音があの銃を持った衛士達だったのかと見返せば、彼らの銃は私にではなくカッツェに向けられており、彼らはカッツェを罪人のように追い立てていた。
彼は私の姿を見つけると、大丈夫だという風に笑顔を見せた。
私も彼に釣られて笑顔をかえしてしまったが、よく考えなくともカッツェさん、今のあなたは絶体絶命では無くて?




