虜囚
フォルネウス星の重苦しい空気は、専用の大気制御装置によって打ち払われて、俺達は数日ぶりに爽やかな大気というものに触れることが出来た。
イングジラル鉱石を独占するには、星を封印する必要があったという事だ。
小型機が降りてくると、俺は裏切り者のワッツによってそこに乗せ上げられ、空に大きな影を作っていた戦艦に連れ込まれた。
そこはフォルブス公爵の居城でもあるそうだ。
さて、裏切り者のエスペランザとニーアムも一緒に乗り込むと思ったが、彼らは俺の哀れな部下達とフォルネウスに留め置かれた。
エスペランザ達を残したからか、食料と水の供給もあった。
だがこれは、フォルネウスに残された部下達には幸いである。
その行為がワッツの恩情なのか、生かしておくことこそ俺への心理的拘束が出来ると踏んでなのかわからないが、とりあえず俺は目に見える抵抗をすることは諦めている。
戒めも無く簡易ホテル程度の設備のある個室に軟禁されているだけなのだから、無駄な行為をしてその恩恵を逃す必要は無いではないか。
俺はせっかくだからと、数日ぶりのシャワーを浴びてベットに横になった。
目を瞑れば、この状態が出兵前の日常に戻ったようでもある。
頭の中にある情報を整理する最後の時間だ。
この旧型の戦艦というよりも空母型、平べったいパズルピースの形のようなひし形の船は、元々は移民するための星の環境整備が終わるまでの居住基地として開発されたものである。
今や、移動型巨大基地として軍事でしか使われていないが。
しかし、これ一機で国一つ分の住人を収容できるという船を個人で所有しているとは、フォルブス公爵の財力と権力は計り知れないものである。
シュンと部屋のドアが開く音に視線を動かせば、予想通りにワッツが最後の晩餐らしき俺の食事を持って部屋に入ってきたところだった。
彼は仮の姿を全部脱ぎ去ることにしたのか、いつものカーキ色の下士官の制服ではなく、いまや仕立ての良い黒いスーツ姿である。
とても見栄えの良い姿に変わった彼だが、哀れなことに、髪の毛だけはいつでも真実であったようだ。
「がっかりだよ、君には。難攻不落の鬼のワッツ中尉の方が格好が良かったのに、権力に追従する小物に戻ってしまうなんて。」
「ホッとしましたよ。いつもの少佐の振る舞いで。」
「俺はぞっとしたけどね、君の反乱行動にはさ。」
彼はベッドサイドテーブルにトレイを置くと、壁に体を預ける様にしてよりかかった。
軍隊の鬼教官のきびきびとした動きではなく、のんびりとした彼の動作にも優美さもあり、俺は大きく溜息を吐きながら身を起こした。
「俺は君にずっと騙されていたんだね。」
「人は見たいものしか見ないものです。大体、第一印象が正しいというのが通説でしょう。」
「確かに。で、このご飯は食べていいのかな。君は俺に子供のように躾をしたね。いや、犬のように、かな。他所でご飯を食べてはいけませんってね。」
「気軽に食べ物を貰ってはいけません、を、守って下さって嬉しいですよ。ハルベルトのせいで世界はキメラばかりになってしまった。誰の身体に狂ったナノが入ってしまったのかもわからない。フォルブス公爵はまともな食事が出来なくなって十数年だ。あなたは久しぶりのごちそうなのです。」
「ハハハ。ごちそうか。憎いハルベルトへの意趣返しを考えての行動かと思ったが、飯か、俺は飯でしかないのか。」
彼は何も答えずに、俺に副官として選ばれた時の、俺に選ばれるために浮かべていた微笑を俺に見せてから、俺の牢獄を出て行った。
いや、彼は捨て台詞を吐いた。
「食料は数少ない資源です。残さずに活用してこそ、でしょう。」
俺は俺の最期の晩餐トレイにのっている、滅多に食べれない赤み肉のローストや、失敗したホワイトアスパラガスのような物を見下ろして鼻で笑った。
「俺はお前に騙されてばかりだ。」




