裏切り者
アシュレイによるリンドン少尉への殺害未遂行為は不問となった。
ワッツがアシュレイの肩を持ったからだ。
また、リンドン本人の希望もあり彼女が独居房へと隔離されたことで、部下達にはアシュレイの言い分と行為を認めるしかなかったことだろう。
俺達、船の修理をしている機械工三人以外の全員は、岩のように聳え立つくガーディアンの目の前となる埠頭に集まり、傍目にはサボっているようにしか見えない様相で、思い思いに腰かけて話し合っていた。
「がっかりですよ。少佐。少尉がエノクになっちまうなんて。もったいない。一度でもお願いしておけば良かった。」
俺はイアン・マクベスも独居房へと入れたくなったが、ガーディアンが触手でイアンを突き飛ばして転がしたので彼に対応することは止めた。
「アシュレイ。体に異変があったとしても、リンドン少尉はそんなことをしないと俺は思うよ。」
「ではどうして自殺を図ろうとしたのです。」
俺はアシュレイではなく言い返して来たワッツに言い返せず、そして俺が黙り込んだことによって俺がリンドンを裏切り者として肯定したも同然となった。
リンドンの恋人だったトール・エマーソンが顔を覆って泣き出し、彼女を慰めていたジェニーン・ヴィグが役立たずを見る目で俺を射貫いた。
アシュレイの行き過ぎるアピールから俺を時々助けてくれるヴィグは、今後一生俺を助けないと目で語っている。
「ねぇ、私は世界がナノだらけになっている事さえ初耳なの。オファニム星ではナノを体に入れることはおぞましい行為として見做されていたわ。人以下になる行為だからこそ、罪人の縁者は恩赦を受けることが出来たのよ。」
「姫様、それは違います。人ならざるものとなるからこそ、縁者と縁を切らせたのですよ。」
俺はワッツの言葉に驚き、そして、オファニムの事を誰よりも知っているだろう姫君の方が驚いていた。
ガーディアンの頭といえる上部の中心部分がポコリとへこみ、それはまるで人が驚いた時のオーという口の形のようでもある。
こんな場面で無ければ笑い出したくなるほどの間抜けさだ。
お調子者のマクベスやドローがくだらない事ばかりを彼女に色々と話しかけていたのは、彼女の素振りが面白いからなのだと俺は気が付いた。
こんな場面で、俺は気持ちが解されてしまっているのだ。
しかし、ここはリンドン少尉という戦友の身の振り方を考える場面なのだ。
「……すいません。出てきてください、ガーディアン様。」
「いや。」
「どうしてですか?」
「だって、思わず口を挟んでしまったけれど、わたくしはあなた方の話し合いに参加するべきじゃ無いもの。どうして私の目の前で話し合いを始めたのかも疑問ですけれども。」
「えぇ!ガラテアさん、それは無いでしょう!俺達はもう家族じゃないか。」
「ドロー黙れ。俺が横道にそれて悪かった。ワッツ。オファニムとナノで知っている事を洗いざらい話してくれ。」
「何が知りたいですか?」
「誰がナノを広めたのか、でもいいよ。」
彼はにんまりと笑い、ハルベルトですよ、と言い切った。
俺が二の句が継げなくなったその時、大きな筒が空から降って来た。
それが、ファビエンヌを飲み込んだのだ。
俺達の目の前にあった大きなぶよっとした白い岩礁が消え、代わりに黒光りのする機械でつぎはぎされたような巨大な煙突が聳え立っている。
「ファビエンヌ!」
「心配されることはありません。ただのお迎えです。」
「ワッツ。」
筒の上には大きな戦艦が上空で漂っている。
戦艦の底部に大きな真っ黒な輪っかができ、すると、しゅぽんと煙突の先からファビエンヌ入りのクラーケンが飛び出していき、なんと、その黒い輪の中に吸い込まれていったのだ。
「ファビエンヌ!」
俺はワッツを取り押さえようとして、エスペランザに拘束されていた。
「安心してください。公爵からの招待はあなたもです。この星を出たいのでしょう。さぁ、一緒に行きましょうよ。」
俺は周囲を見回して、裏切り者が誰かを知った。
仲間達に銃を向けて威嚇しているのは、曹長待遇のニーアムだ。
「ははは。嘘つきだな、ニーアム。浮気した女房がいたってのも嘘かい?」
彼は純朴そうないつもの顔を俺に向けたが、口を歪めた表情は若くもない男の倦んだ顔だった。
「それは本当ですよ。俺は裏切り者の女房をぶち殺しちまった。曹長待遇の士官候補生が嘘って奴です。」
「そうか、よくわかったよ。」
俺は大きく溜息を吐き出すと、間抜けな上官の俺のせいで苦難に立たされている部下達を見返した。
元はリンドンの部下だった女性兵達は、裏切り者続出という俺の隊の結束の脆さに呆れ顔だ。
「えーと、ごめんって、リンドンにも伝えておいてくれるかな。俺のガラテアの面倒をお願いって。」
「ハハハ。少佐のバーガスは俺が貰いますよ。」
「おや、あの子は俺を知っているからさぁ、君では満足できないと思うよ。」
当たり前だがニーアムは俺を殴りつけ、俺はありがたく奴の拳を受け入れた。




