互いに立てた誓い
「どうなさったの。ごめんなさいって、一体。」
カッツェの頬に手を当てると、彼は私の手を掴んでこんな資格は無いと意味の解らないことを言い出した。
「それはわたくしという化け物が、あなたという人間を慰める資格が無いということかしら。」
「その逆だと分かっていて言わないでください。」
「では、お馬鹿さん。あなたが私に慰められる資格が無いというのは全く問題が無くてよ!私という存在があなたより上と言っていると同じですもの。よって、私はあなたを慰めることが出来る。あなたは上位者の私の気持ちを受け入れればいいのよ。」
私の腕の中でカッツェが吹き出した。
吹き出して、そのような資格が無いと再び言うのである。
「その資格がない理由を話しなさい。私は面倒なのが嫌いなの。」
彼は泣き笑いのような表情で私を見返すと、あなたを裏切ったからです、と言い出した。
「あの。あなたは私が人間だった時代には影も形も無いはずですわ。」
「――レティシアという女はいました。俺は彼女の子孫です。彼女はあなたを死刑台に送った女です。この、このガラス玉も、彼女がハルベルトから盗んだものでした。」
「――あなたはハルベルトの血は引いていないのかしら?」
彼は首を横に振った。
そして、がくりと膝を折った。
私は大きく溜息を吐くと、彼を再び抱きしめた。
彼は完全に無防備で私になすがままで、私はいい機会ではないかと、彼の真っ黒の髪に何度も指を通してしまったくらいだ。
「ふふ。あのね、このガラス玉は、ハルベルトの子供に贈ったものなの。だから、あなたが持っていておかしくはないの。盗まれたのだとしても、彼の子孫が持っているならばかまわないのよ。」
「――レティシアは、ハルベルトに憎まれていたはずです。彼はあなただけで、一生独身だった男です。」
私の心の中でぽうっと炎が灯ったようだった。
人間だった私の苦しみが一瞬で昇華してしまった程の、喜びを伴った炎だ。
「あぁ、あぁ。知らなかったわ。そして、私はその事実が死ぬほどに嬉しい。あなたは私にその大事なメッセージを贈ってくれた。だから、あなたが苦しむ必要なんて無いと思うわ。私は納得しているのよ、この生活に。この人生に。」
私を抱きしめて私に抱きしめられて、私の肩に頭を乗せて泣いている彼は、私にとってはとても幼子で、でも、誰かにこんなに親密に抱きしめられた事が無かった私には、とてもとても温かくて、ずっと彼を抱きしめ続けられる時間が続けばいいと望んだほどのものだった。
「泣かないで。いいえ。ずっと泣いていていい。私はあなたを抱きしめられて、今はとても幸せなのよ。」
彼は私を抱きしめる腕に力を籠め、守ります、と私に囁いた。
「俺はあなたを守ります。部下を空に帰しても、俺はあなたの元に残ります。」
私は彼に返事はせずに、ただ彼を抱きしめ返した。
彼がここに残ったら、一年持たずに死ぬだろう。
私は彼を空に帰すと心に決めたが、口に出して誓う程には私は自分の心が信じられないのである。
彼を離したくないと、この今でさえ考えているのだから。




