怖い人間
カッツェはあっという間に港を制圧した。
敵の兵器をそのまま敵に返して制圧の道具にしてしまうなんて、なんて人でなしな男なのか。
童顔でハルベルトよりも純粋そうな男であったのに、ハルベルトにはできないだろう陰険な戦法を使えるだなんて、私は彼に脅えるだけである。
ただし、ここに住んでいた者達があの目玉の餌にされていたと聞いて、私はカッツェをよくやったと心の中で褒め称えた。
さて、再会しての彼が開口一番、ありがとうでなく、私へ大丈夫と聞いて来たのは、私の砲台壊しを私の手先が狂ったからと彼が思い込んでいたからだった。
「昨夜はすまなかった。でも、君が生きていてくれて良かったよ。少佐がかなり心配して腑抜けになるくらいでね。もちろん、僕もだよ。君のような華奢な可愛い子が大怪我をしたのではと、気が気でもなかった。ねぇ、お願いだ。頼むから今度からあんな危険な事をしないでくれ。」
私の手を握って懇願するのは、飛行機乗りだというジョッシュ・ドローである。
カッツェはどうしたのかというと、私が大丈夫と答えると、さっさと建物の中に入ってしまって姿を消してしまったのだ。
私は彼らが埠頭に立ててくれたテントのお陰で、こうして素顔になった彼の部下達と邂逅は出来るのだが、私はカッツェとこそ話したいのである。
いや、話せたとして聞けるだろうか。
ハルベルトの最期を。
子孫がいるのだから、彼が家族に囲まれて幸せだったのはわかり切っている。
私の渡した魔よけを子孫に与えたのだから、彼が私を忘れなかったのも事実であろう。
では、私は何を聞きたいのか。
あるいは、それにかこつけて話したいだけの、人寂しいだけなのか。
「ガーディアン、いえ、ガラテアさん。」
「え?」
私はドローの言葉に驚いて彼を見返した。
「本当にきれいだ。」
「はい?」
「あなたは男の見る夢のガラテアそのものです。」
「あの、わたくしは化け物ですのよ。あなたよりもかなり年寄りですの。」
「美しければ年の差なんて僕は気にしません。」
ハルベルトのように金色に輝く男は、ハルベルトと違って外見通りに華やかな言葉をいくらでも女性にかけれる様だ。
私はそろそろ彼の手を振り払おうかと考えたその時、建物からカッツェがようやく姿を現した。
彼の右腕にはブロンドの髪を肩先に揺らしている可愛らしいアシュレイがぶら下っていて、彼は彼女に気さくそうな笑顔を見せて見下ろしている。
目元の笑い皺がなんてセクシーなんだと思ってしまった私も品が無いが、そんな私の視線に気が付いたのか、笑顔だった彼は顔をはっとした表情に変えた。
恋人とのひと時を邪魔されたと感じたのかしら。
私はドローに視線を戻すと、そのハンサムな彼にさようならと言った。
「さようならって。」
「もう家に帰る時間。今夜こそ虫を気にせずに眠りたいのでは無くて?」
「え、昨夜あなたが全部殺されたのでは。」
「あれはそこらじゅうにいるわよ。駆除しきれないくらい大量に。だから、虫って呼ばれて嫌がられているの。おやすみなさい。」
脅えた顔をしたドローはするっと私から手を離し、彼から解放された私はガーディアンの体の中に戻った。
嘘は言っていない。
あれはどこにでもいる。
湿った土のある所には。




