とある罪人の記憶
誰もが私の死刑を望んでいた。
私はこの星の王女でありながら、王への謀反を企てた反逆者だという罪状だ。
全く身に覚えが無いが、私の近衛兵や侍従や侍女達が牢に入れられて裁定を待つというのであれば、私が主犯で間違いは無いだろう。
私は、いいよ、もうそれで、という投げやりな気持ちだった。
父は王家の血を引いてはいるが、厳密には王族の者ではない。
先王の従弟の息子という、王座に近いようで王位には程遠い身分の侯爵だ。
公爵でもないのだ。
ただし、姦計にはかなり優れている男だったとも言える。
何しろ、正当な王位継承権者である私を罪人に仕立てることに成功したのだ。
これは、名君と名高い先王、まぁ私の祖父だが、彼が愛人も囲わず祖母一筋で母一人しか子をなさなかった事が敗因だ。
母は周囲の圧力によって父と婚姻を結び、そして私を生むや殺されたのだ。
そして赤子の私は、母が先王から与えられていた騎士や侍女や侍従達に養育を任される事となり、これこそ父に残っていた人の情なのかと私も他の者も思っていたが、それはとんだ間違いだった。
彼は私の成長を待って、自分の王位に邪魔な私達を一網打尽にしようと考えたのである。
「ファビエンヌよ。私は幼いそなたが周囲のものにかどわかされただけだと信じている。そなたが父である私に弓引くことは無いだろう。そなたは何も知らず、そして、全てを企んだのは、近衛騎士ハルベルト・カールツァイスおよび、フォルブス公爵に違いないな?」
私は父の言葉に顔を上げた。
私を見守る男の表情は、私が欲しいと願った慈愛に満ちた目をした父親の顔であったが、私はそれがただの仮面だと断定し、そして血を分けた父親を斬り捨てられるほどに成長はしていた。
本当の父親のような男と、初恋の相手の首を血の皿にのせてはいけない。
そして、私は十代という年齢の幼さから、自殺という自己を終焉に導く行為にも憧れてもいたのである。
いや、それこそ永遠の安らぎを得られると渇望していたと言ってもよい。
けれど、私にも姫としての意地はある。
目の前の男の面目を丸つぶれにしてやりたいとの怒りもある。
私はごくりと唾をのむと、自分の死刑執行を宣言した。
「私が全て仕組んだ事です。彼らこそ何も知りません。私はこの星の最悪刑、フォルネウス星の流刑に甘んじ、イングジラル鉱石を採取して永遠の罪を償おうと考えております。」
フォルネウス星には一欠けらで一光年は戦艦を動かせるエネルギーを持つイングジラル鉱石が埋蔵されている。
しかし、フォルネウス星は緑と水の豊かな命の星と見える星であるが、実はねっとりとした空気と重金属の解けた海という、人の住めない死の星だ。
この星への流刑の実行は、この星で生きていける様に罪人の身体にナノマシンを入れて人では無いものにしてからでないといけない。
ただし、変化を待ってからの投下ではない。
ナノマシンを体内に入れてすぐの投下だ。
ここで八割の人間が耐えきれずに死ぬと聞いた。
私も星に落とされるカプセルの中で死ぬだろう。
けれど、処刑場で死にたくないと無様に泣き叫んで、祖父や母の名を汚す事からは救われる。
私だって怖くて仕方が無いのだ。
でも、ハルベルトを助けることが出来るかもしれない。
フォルネウス星への流刑は、罰を受けた罪人に連なる全ての者への恩赦も約束されているという決りがあるのだから。
ざまあみろ。
お前は絶対にハルベルトやフォルブス公爵にその座を蹴落とされる筈だ。