目的地に向かうだけ
ハルベルトは姫君のお陰で恩赦を得たが、彼は死刑になることこそ望んでおり、彼女に裏切られたとさえ考えていた。
全てが憎く、姫との記憶を全てを消し去りたいと望み、彼は毎朝街頭で流される姫の歌声が耐えきれないと放送施設を破壊した。
彼は浅はかだった。
浅はかすぎて守るはずの姫君を殺してしまったように、彼は今度は自分の故郷星を壊してしまったのだ。
処刑された姫の歌声を毎朝決まった時間に流すのは、オファニム星の天候管理衛星の制御のためであったのだ。
自分の王位を奪われる事に脅えて娘を処刑してしまった王が、殺した娘の歌声を流し続けていたのは、決して後悔と懺悔の気持ちでは無かったのである。
星の天候は人が住めない程に乱れ、オファニム星はここで終焉する。
ハルベルトは星を捨て、金で動く傭兵となって戦場で死んだ。
「俺も同じように死ぬんだな。」
考え無しに自分の安全のために無理矢理な契約を持ち掛け、あんなにも幼い少女を殺してしまったのである。
「あぁ、機械化手術を受けとけば、俺はもう少し賢かったかな。」
「カッツェさん。エノクの奴らみたいになりたいのですか?俺達はそれが嫌だから戦って、こうしてこんなところまで落ちてしまったのでしょうが。」
「俺の一人ごとを勝手に聞くなよ。大体、通話は切っているでしょう。」
俺はドローに言い返しながら、通話を切っておらずに今までのぼやきが部下全員に聞かれていたらと焦りながらコントロールパネルの確認をしていた。
「あ、少佐の機体にはこちらから回線を開けるようにしてあります。」
冷静に割り込んで来たワッツ少尉の声に、俺はどうして彼を部下にしているのだろうと、どうして第一印象だけで彼を選んでしまったのだろうと、過去の自分を大いに責めた。
副官候補として並べられた数人の男達の中で、彼だけが好意的で、それどころか温かな微笑でカッツェを見つめてくれていたのである。
他は「不幸を呼ぶのカールツァイス」の部下になどなりたくないと、解り易く顔に書いてあった。
ハルベルトはオファニム星を滅ぼした事で賞金首となるどころか、イングジラル鉱石の利権を他の星が手にできるきっかけが出来たからか持て囃されもしたのだが、彼はその後も傭兵として敵星に、あるいは金払いの悪い星に、多大な損害を与えたので、星潰しというあだ名を持つのである。
彼に捨てられながらも彼の妻だと主張し続け、死んだ彼の遺品を大事にしまい込んでいたひいひいばあ様には自慢でしかないだろうが、彼女の息子からそこに続く子孫達にはかなり迷惑な悪評でしかない。
よって、品行方正で士官学校出のリンドンと上記の縁で副官となったワッツ以外、俺の隊は全員がどこかの星からの亡命者である者ばかりだ。
亡命者というよりは元難民と言った方が正しく、捕虜となった場合は収容所では仲間内から下に扱われ、捕虜とした星が以前の故郷だった場合は最初に絞首台に乗るという運命を持った者達ばかりなのである。
金持ちのエスペランザ・グレースが軍隊にいるのも、彼の一族が亡命者であるという事が理由だ。
成功しているからこそ元々のアガレス星の住民達から白眼視されやすく、客商売であるからこそ、息子の一人を軍隊に入れてアガレス星に尽くしているという判り易い見た目も必要なのである。
「ワッツ。君は俺の動向をどうしてそんなに知りたがるんだ。俺に逃げられるのを心配しているのか?」
「時々ろくでもないことを考えなさるから、そのことを心配しているだけですよ。」
「うわぁ、ワッツさん。時々ですか?優しいですねぇ。」
俺はドローとワッツの掛け合いに大きく舌打ちをして聞かせると、乱暴に通話を切るスイッチを叩いた。
畜生。
切れやしない。
「俺はまるで観察される実験動物のようだ。」
「クラーケンにうつつを抜かしている人なんて、危なっかしくて目が離せませんよ。昨夜のあなたは海に飛び込むつもりでしたか?」
俺は飛び込みたかった。
重金属の海に一緒に飛び込んで、沈んでいく彼女を抱きしめたかった。
けれど、俺は飛び込んでもいないし、ガーディアンは一人だけで死んだ。
「おい。守りが消えたんだ。周囲を警戒しつつ、出来る限り早く目的地に着けるよう、全員ピッチをあげろ。」
「その命令こそ待っていました。通話を切ります。」
俺は操縦席の床をワッツに見立て、憤りのまま大きく蹴っていた。




