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野営

 俺の追立のお陰か、俺達は命綱ともいえるテントを何とか張り終えた。

 テントと言っても布によるものでなく、軸となる支柱を地中深く埋めると、支柱の天辺から防御シールドが周囲に張り巡らされるというものだ。

 また、支柱の周りに設置される気圧安定機と空気清浄機が稼働すれば、防御シールド内の空気は人間に適したものと変化され、俺達は防御の装備なしにバーガスから降りて羽を伸ばせるのである。


 だが、さあテントに入るかというその時に、一気に辺りが真っ暗になってしまった事には驚いた。


 この星は徐々に暗くではなく、夕焼けも無く電池が切れたように真っ暗になるらしい。

 その事象は、日没頃に滅び去った衛星オファニムの影に入るからだろうか。

 人が住むことが出来て星域名にまで使われているオファニム星であるが、オファニム星が惑星フォルネウスの衛星でしかないのは皮肉なことだ。

 俺はバーガスの操縦席を開け放つと身を乗り出し、恒星ニョルムの光を受けて、今では影ではなく月として輝いているオファニムを見上げた。

 正当な王位継承者を失った事で滅んだ星は、亡霊のように青白く輝いている。


「少佐。」


 バーガスの足元で呼びかけられて見下ろすと、どうしよう、俺の天敵がいた。

 まだ十代のような雰囲気のアシュレイ・キアは、栗色の髪に緑色の瞳を煌かせてはにかんだ様子で俺を見上げているが、俺は彼女が全くはにかんでもいないどころか俺に恋をしてもいないことを知っている。


「どうしたの?何か問題が?」


「いえ。あの、お疲れさまでした。今日はずっとバーガスに乗りっぱなしだったでしょう。マッサージはいかがですか?」


「あぁ、マッサージか。ワッツが喜びそうだ。彼を呼ぼう。」


「い、いえ。あの。あ、そうだ。私はチョコを持っていたのですよ。いかがですか?みんなには分けれる量でないので、あの少佐にだけ。」


「ありがとう。今は良いよ。それからね、それは隠しておきなさい。これからどんな情勢になるかわからないからね、いざという時にそれをリンドン少尉に分けるんだ。君の生存確率はぐーんと伸びるぞ。」


「ふふふ。少佐って面白い。あの、私が誰からかまわず媚を売っているとお考えですか?私は少佐が好きな、ええと、尊敬しているだけです!」


 アシュレイは叫ぶと、そのまま自分の機体の方へと駆けて行った。

 俺はその後ろ姿を見送ると、バーガスの操縦席から飛び降りた。


「あ、いつもの癖で。乗る時どうしよう。」


「何をやってんですか。四メートルもあるとこらか飛び降りたら、いつか大怪我をしますよ。もうすぐ三十路でしょう。」


 褐色の肌に黒髪の青年が俺に軽口を叩き、彼の隣にいる金髪男は口元に拳を当てて笑いをこらえている。


「失礼だなマクベス。それから、ドロー。ワッツの世話は良いのか?君はワッツの助手席に乗ったんだろう。」


「いえいえ、カッツェ様。俺はいつだって運転席です。俺の今日の女房になってくれたワッツ中尉が、少佐をご希望ですのでお迎えに上がりましよ。」


「ははは。尻に敷かれた亭主役か。」


 俺は笑いながらテント内を見渡した。

 部下達はバーガスから全員が降りており、思い思いに寛いでしまっていた。


「あ、しまった。歩哨を立てるのを忘れていた。」


「いつもは立てないじゃ無いですか。このテントには索敵機能も付いていますし。大丈夫でしょう。」


 ドローの言葉が丁度終わったその時、テントの索敵機能がインカミングを俺達に知らせた。


「あぁ、ごめんなさい。このサイレンは私のせいね。」


 俺のガーディアンが戻って来てくれたらしい。

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