ガーディアンとの契約
それは俺達を守るつもりはないと、それはそれは恐ろしい声で語った。
戦力的に神様と鼠ぐらいの差があるガーディアンが特定の人間に力添えをすることは、この世界のバランスを崩す行為なのだと主張もした。
「フェアじゃないでしょう。」
俺はそうですね、としか答えられないが、俺は部下の命も背中に責任として括りつけられている鼠さんだ。
「では、では、わたくしと契約をしませんか!」
「何を差し出すおつもりです。」
俺は差し出すものが無かった。
どうしようかな、と考えて、いつもの癖で軍服の右の肩章に右手の指を添えていた。
そこには何も財産を持たないカールツァイス家に伝わるお守り、ハルベルトがかの姫君から貰ったという、糸を通された目玉のような模様のある丸くて青いビーズが揺れているのである。
生まれたばかりの子供への魔よけの品なのだそうだが、当時のハルベルトは妻どころか恋人もいなかったので、貰ってかなり首を傾げていたという謎の品だ。
ハルベルトを思い出したことで、俺はクラーケンが人を襲う理由も思い出した。
「では、俺が死んだ場合は俺の死骸をあなたのガーディアンに捧げます。」
ガーディアンは硬質感を解いたへろっとした触手の一本を、恐らくは人間だったら顔か頭の部分にちょこんと当てた。
おやぁ、という言葉を当てたら嵌る動作に、俺は少しどころか絶対に小馬鹿にされている気がして少々イラっと来た。
俺がかなりの覚悟を持って放った言葉なのだ。
自分が死んでいる状態だとしても、食べられるなんてぞっとする行為ではないか。
「どうしたのです。クラーケンは力の為に人の遺伝子が必要なのでしょう。」
「うーん。そうですわよね。だったら、助けずに見殺しにした方が早くあなたの肉が食べれるのでは?助けたあなたがこの星を逃げたら、私はあなたを食べれませんよね。」
俺とガーディアンの交流を部下達はモニターで見守っているのであるが、ダニエルは確かにという呟き声を、ワッツはこれ見よがしな溜息の音を俺に聞かせてくれた。
俺はもう必死に声を上げていた。
「その場合、俺の死体はこの星に郵送させていただきます。」
「どうやって私が確実にあなたの死体を受け取るのかしら。」
俺は素晴らしきガーディアンを諦めるしかなかった。
「もういいです。では、俺達は人里を目指さなくてはいけないので。」
ぶふぉっと化け物から空気が漏れる音がしたが、それは絶対に俺を笑ったのに違いない。
それを証拠に、なんと、大きな化け物は一本の触手を人間だったら口元の位置に当てて、その対となる位置の触手を使って俺にバイバイと触手の先を振っているのだ。
俺はその光景を目にして頭のどこかがぶつりと音を立てて切れ、そして、部下への面子などどうでもよくなっていた。
気が付けば子供のようにガーディアンに怒鳴っていたのである。
「あげませんからね。絶対に俺の死体はあなたには上げません!欲しいったって、もう遅い。がっかりしてください。では、さようなら!」
グワハハハハハ、と世界を震わせる笑い声が俺のガラテアを襲い、ぐらぐらと機体を揺らしたせいで俺の足は止まった。
「わかった。見守ってあげる。クラーケン限定で。それならば良いでしょう。人間相手には手を出しません。それは人間同士で頑張ってくださいね。」
「俺の死体はいらなかったという事ですか!」
俺は自分がいらないと言われているようで、なぜか必死になっていた。
「いいえ。欲しいから考えを柔軟にしてみたのよ。」
化け物に欲しいと言われて、恐怖ではないぞくっという感覚が俺の体に走ったのは、部下には絶対に内緒にしなければ。




