序章
2020/9/21 大昔にプロットを思いついたが文章にできなかった作品で、思い入れがあるために今回空白注入とウェットすぎるところは削って改訂出来たら、と思っています。
考え付いた当時は、ナノマシン化したお姫様が宇宙に飛び出して、好きな男の人を守るために次々と戦艦を落としたりの展開でしたのですが、恋愛物語で終結してしまいました。
以前に投稿した時に読んでくださり、また、評価を頂けたこと、まことに感謝しています。
俺は今すぐ判断をせねばならないようだ。
「軍人になんてなるんじゃなかったな。」
「今更、それ、ですか?早くご指示をお願いします。」
俺の呟きに殺気も込めて言い返して来た中年男、俺の副官であるワッツ中尉を見返せば、薄くなった栗色の頭髪から湯気も出る程に真っ赤になって怒っている。
俺は怖い彼から目を逸らしてから艦橋の部下を見回し、彼らが中尉と違わない必死な目で俺を注視していたことを知った。
俺こそ今すぐ逃げ出す指示が欲しい位だというのに。
たくっ、誰だ乗員を全員艦橋に集めた間抜けは。
いや、全員ではない。
大事な俺達の鎧兜を守っているクローク係と船の根幹でもある機械室、そして軽戦闘機乗りの合わせて六人は持ち場に残って、俺の目の前の分割スクリーンに他の乗員と同じ顔をして映っている。
俺を煽るがごとくの顔つきで、だ。
全く忌々しいことだ。
さて、追い詰められつつある俺達が乗っているのは、連続したワープ走行の航海が出来る程の戦艦ではなく、単なる作戦行動用輸送機という、日に一、二度のワープができるかどうかの短距離船でしかない。
俺達はお偉い大佐様の命令で、とある星の都市への降下強襲の秘密行動を取っていただけなのだ。
それが敵に捕捉されまいと宙域を必死に逃げ回っているのは、お偉い方々の作戦が敵に全て筒抜けの上、俺達の星が降伏宣言を上げたからである。
普通であれば、敗残兵は敵に白旗を上げればいいだけだ。
しかし、この船の乗員十六名である俺達にはそれが出来ない理由がある。
「どうしますか?カッツェ少佐。」
「うーん。俺達は亡命しての兵士だからね。白旗を上げて拿捕されて、その後に捕虜収容所に行ければ御の字って奴だ。どうするか。ここは民主主義で行こう。白旗上げずに逃げたい奴は手を上げて。」
解り易く俺の部下達は俺の人任せな物言いに明らかにがっかりと落ち込んだが、それでも全員が手を上げてくれたことに俺は満足した。
「よし。それでは最初に最後のワープをする。行き先は元オファニム星宙域だ。そこにあるフォルネウス星に一先ず逃げよう。あそこは現在中立星だ。」
「死にますって!」
「着陸なんかできませんよ!大気圏入った途端に落ちるって、あそこは!」
艦橋では部下達が叫んだ俺への罵りの数々が響き、しかし、俺達の船のすぐそばに敵船が現れて、俺達に降伏を求めることなしに魚雷が飛んできたことで彼らは一斉に黙り込み、操縦席の部下達は神業にも近い作業で船をオファニム星宙域へと移動させた。
真っ青な美しい惑星が俺達を出迎えたが、そこは大昔には罪人を落としていたというただの流刑星だ。
今の身の上の俺達には、お似合いとも言える星である。
「さぁ、みんな!墜ちるぞ!」
「縁起でもない号令はやめて下さい!」