09
短めです。
「クー!」
コンコン、コンコン、
いつのまにか寝てたみたいだ。玄関からノックの音と声が聞こえる。アランからまた何か言われたんだろうなぁ。不器用だけど、お節介焼きだから。
鈍く痛む頭を揺らさないようにして、ゆっくり玄関に向かう。
ドアを開けると想像通りの人物がいた。
「クー!良かった、出てきてくれて。これ…」
しかし想定外の物を持っていて、かつ渡されて驚いた。それも一瞬だったけれど。
「バラの、花束。大きいね、何本あるの?」
「108本。『結婚して下さい』」
「ふふっ…いい匂い。アランから、何言われたの?」
「プロポーズにはバラの花束が必要だって。
クー、遅くなってごめん。俺、責任とる。給料は、割ともらっている方だし、あんまり使ってないからいくらかわかんないけど貯金もあるんだ。
だから大丈夫だよ。
俺、全然気付かなくてダメで。ごめん。」
「ありがとう…」
私はそれ以上言えなくて泣いた。涙は後から後から滴り落ちて、花束に雨粒のように降り注いだ。
「ラル…」
やっとの思いで名前を呼び、返事をしようとしたところで目が覚めた。
起きても私は泣いていて、でも自分のベッドに横たわっていて、夢と現実が入り混じってひどく混乱した。
「夢…」
口に出して自分に言い聞かせる。変な時間に寝ると変な夢を見る気がする。
夢は『よかった』と思うために見るらしい。幸せな夢は『見れてよかった』、悪い夢は『夢でよかった』と。
「夢でよかった。」
だって、プロポーズに断りの返事をしなくてもよかった。
あれが現実だったならば、私はあれから義務感とお金だけでは子供を育てられないこと、あと興味だけでも。あるいは興味がなくなっても義務とお金と時間がかかること。
そして…愛する人に愛されない結婚は辛すぎるということを自分の口から懇切丁寧に説明しなければいけないところだった。
それにしても、どうせ夢ならば思いっきり幸せな夢であったならよかったのに。
夢の中でも幸せにひたりきれない私に自嘲が漏れた。
起きても鈍く痛む頭は変わらず、さらに悪阻のせいで口の中に砂を噛むような苦味が広がっていた。