05
よろしくお願いします。
それから私達は私の家に移動した。
ラルの魔法の塔の部屋にもベッドはあるし、部屋ごとに防音の魔法もかかっているけど、やっぱり職場だし。
「おじさんとおばさんは?」
家に着いてから初めて気付いたようで、ラルはウチの両親の不在を尋ねた。
「お父さんの仕事の事で港町に今行ってるの。
お母さんもせっかくだからついてった。
そこでの仕事が終わったら、実家にもしばらく滞在してから帰ってくるって。」
数日前から両親はそうして不在になっていた。
年頃の娘1人になるが、私にも仕事があるしついては行けなかった。それに生まれてこのかたずっと住んでいたこの町では困った事があったらみんな助けてくれるし、なんなら『寂しくなったら家においで』とラルのお父さんも言ってくれていた。
日程的には1ヶ月と+αくらい。私は「これは最早運命か!」とタイミングの良さに打ち震えていた。
10年ぶりくらいに自分の部屋にラルを招き入れる。
ラルはキョロキョロとめずらしそうに部屋の中を見まわしたが、ベッドを見るとジッと視線を固定した。
その顔が薄暗い室内でもわかるくらいに真っ赤になっているのを見て、私は少し満足した。
シャワーは私はラルの所に出向く前に浴びたし、ラルも…うん、気にしないだろう。今はきっと頭の中パーン!になってそんなこと考えたりしないに決まってる。
ちなみにお風呂とかの水周りは区域毎にお湯を沸かして、それが水道から流れてくる。熱が冷めない水道管を使っているのでいつも温かい。まぁ水でぬるめることはできても、それ以上に熱くは調整できないんだけど。
「ラル、こっち来て。」
そう言って手に触れるとビクッとされた。
彼から漂ってくるのが興味だけでなく、緊張感もあることに私は再び満足する。くすりと笑ってとった手を引いてベッドに促すと、彼はちょっと苦い顔をして聞いてきた。
「したことあるの?」
「ないけど。」
「俺もない。どうしよう。」
私だけしたことがあるのには不満顔だったのに、二人ともしたことがないとわかると今度は不安そうな情けない顔になった。
ベッドの上で向かい合って座ったまま動かなくなってしまった。
どうするのかなぁと見ていてもウロウロと視線を動かすだけでどうもしない。長丁場になりそうな予感がし、正座はベッドの上と言えど足が痺れそうなのでちょっと腰を浮かして座り直そうとすると素早く手首を掴まれた。
強い視線と、握られる力にやめる気はないんだなぁと嬉しくなる。もちろん私もそんな気はさらさらない。
「『好き』とか『愛してる』って言ってからくちづけて始めるのよ」
「『好き、愛してる』」
そうして私たちは初めてくちづけをした。