04
その日ラルに会いに行くと、彼のスライムブームは終わっていたようだった。
ようだというのは、普段ブームが終わるとすごい勢いでそのハマっていた物全てを捨てて掃除をするので、掃除まで終わっているのにスライム1匹(でいいのか?)だけ残して眺めている状況に違和感を感じたのだ。
「ラル、調子どう?」
「あぁ、クーか。」
挨拶が届かないほどではないが、反応は鈍い。
「スライム、研究終わったの?その1匹は?」
「終わった。けど…」
『けど…』の続きが気になったが、しばらく待っても続きは聞こえてこなかったのでテーブルの上に夕飯を用意し始めた。まだ途中かもと思っていたので片手で食べやすいサンドイッチと果物類だけだったため、すぐにセッティングし終わった。せっかくなのでお湯を沸かしてお茶も淹れた。
魔法の塔のラルの部屋は、今は広い。
2部屋あって、奥は一体何冊?と思っても数えてみる気になれない蔵書と穴蔵のような寝床がある。一度その寝床に小蝿がたかり、私がガチ切れしたところ、彼も本が虫に汚れるのは困ると清浄魔法を開発した。
おかげで大物を洗濯しなくてもそこは定期的に綺麗になっている。
一方本には塔に古来から伝わる保存魔法なるものがかけられていて、媒体に魔力の続く限りオートループで状態が最初の状態に戻るらしい。
ウジ湧く寝床よりも本優先…意識が飛びかけたが、まぁ環境は良くなった。
物を片付けなくてもホコリや汚れが綺麗になるのは素晴らしい。格段に掃除の手間が減ったし、ラルのブームによっては触るのも躊躇われる汚れがつくのでありがたかった。
ラルは他の魔法使い達に比べて興味の対象の回転が速いらしい。長くて1ヶ月、短くて数日。そしてその間に間欠期とでも言うべき隙間が空いていて、その間は普通に生活している。
興味の対象も日常生活に直結しているものが多く、ブームが終わった後に、結構便利な物や魔法が出来ていたりする。
そんなラルは使い勝手がいいので、企業からの依頼を受けることも多く、臨時収入も結構あるのだと言う。
そりゃあ20年もカタツムリのブームの魔法使いとかよりは、会話も普通にできるし、仕事もできるだろう。
清浄魔法とセットになっていそうだが、片付けは本人が苦手なのもあり、どう条件付けしていいのかわからないから魔法にできないらしい。なのでそこは私がやっている。
ラルのブーム時はそれ関連で部屋は足の踏み場もないくらいだが、間欠期には広く使える。
「ラル、食べよう。いただきます。」
「いただきます。」
そう言うとスライムを見ながら食事を始めた。
「そのスライム、飼うの?」
スライムって何食べるんだろう?というかラルが研究してたやつだから、普通のスライムじゃないのかもしれない。今回は趣味じゃなくて仕事だったみたいだから。
勝手にゴミを食べてくれるスライムとかいいなぁ。私には魔力がないから清浄魔法も使えないので、掃除も手作業だ。そして魔力持ちの方がこの世界少ないし、絶対需要あると思う。
先程お湯を沸かした魔道具は魔力なしでも使えるような設計になっていて、エンプティランプがついたら補充するタイプだ。近頃のは省エネになっていて、数年使える物もある。
「いや!そんなの俺はっ!」
はじかれたように強く否定するラルの顔がすごく真っ赤になっていて、なんとなくピンときた。
あーこれピンクなヤツだ。
いや、目の前のスライムはうっすらと水色なんだけど、ね。
基本仕事に関することは世間に知られるまで守秘義務があるから内容はどんなにくだらなくても言えないんだけど、察したものは口に出さなければよいだけだ。
結構魔法の塔への研究依頼ってお金たくさんかかりそうだけど、好き者な大金持ちが妄想小説の実現に頑張ってしまったのかな。
「ふーん。」
「だから違う!俺はただ!」
ラルは必死だ。必死になればなるほどこちらは生温い対応するしかなくなるのに。
「私何にも言ってないヨー」
「違うってば!」
「だったら何よ。」
それからまたラルは真っ赤な顔のまま黙ってしまった。
からかいすぎたかなぁ?
いやでも、私は流そうとしたのに過剰に反応してたのはラルの方だし。ここは強引に違う話題を私が振るべき?
とりあえず黙って食べていたが、食べ終わってもフリーズが解けない彼にしばし逡巡する。すると彼は唐突に言った。
「セックスってどんなんだろう?」
「…してみる?」
普段であれば、「だから頭の中で考えてたこといきなり口に出すな!」って注意するところだったけど、私の口から咄嗟に出たのはそんな言葉だった。




