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明日からは1日1話ずつ更新予定です。
ラルと私は単なる幼馴染で、今までも何度か離れそうになったことはある。でもその度に何度でも近くに戻っていた。あの時もそうだった。
私が偶然風邪をひいて数日様子を見に行けなかった時、彼は寒い部屋でひたすら寝食を忘れて氷を作り続けていたらしい。お父さんが気付いた時には高熱を出してグッタリしていて、肺炎になっていた。
彼のお父さんは彼のことを大事には思っているのだ。
しかしその頃から彼は彼のブームを邪魔されることを酷く厭うようになっていて、普段は変わらず気立てがいいのだが、一度でもヘソを曲げると収拾がつかないほど不機嫌になるようになっていた。
お父さんは息子と相対する時間が足りないために、彼に合わせてなかなか満足に食事やなんやと世話を焼くことができなかった。そのため私にわざわざ頭を下げて、彼の面倒を見てくれるようにと改めて頼まれた。
ついでにその氷事件でラルには魔法の適性があることがわかった。
いくら冬でも家の中でそう易々と氷ができて、溶けないわけがない。彼は偶然できた氷をずっと見ていたいと思うあまりに無意識のうちに氷魔法を発動させ、更に自分の周囲の気温を下げてまでいたのだ。自分の防寒には気を向けないまま。
肺炎が治ってからは彼は通称魔法の塔と呼ばれる所に行き始めた。そこは彼のような人々がいて、途端に彼はそこから出てこなくなった。
彼のようなとは魔力があるというだけではない。
魔法使いというそれこそ何かに寝食を忘れて没頭する人々がいて、定期的な掃除や洗濯やいつでも食べに行ける食堂などがあり、普通は文化的で最低限度の生活は保障されるのだが…彼にはそれにも問題があって、数ヶ月後からはまた私が定期的に彼の元に通うようになった。
元々魔法使いとは魔力があり、職業として魔法を使う人の事を言う。魔力がある者は正直どの程度いるのかはわからない。ラルのように、偶然何かの拍子に見つかることしかないからだ。
そしてその中で魔法使いになれる人は人口1万人に対して1人くらいといったところだ。お伽話のように天を焼き地を割り海を干上がらせるようなことをできる人はいない。少し自然の力を増幅させたり、ある種の計算式のような物を開発して一定の効果が現れる事を利用する。そんなのが魔法使いだ。
そして彼らは例外はあるものの、ほぼ魔法の魅力に取り憑かれ、魔法の塔の中で日々色々な魔法の開発や研究をしている。
魔法の塔は国の管轄だが、彼らにノルマを与え、彼らの生活を保障し、彼らに給与を与え、そして彼らの行き過ぎがないように方向性を管理する。
彼らは自分の興味の赴くまま自由に研究するため、ある程度文化や生活の発展に貢献するようなことをやらせるようにするのだ。
また国の管理といえども、民間からもお金を払って魔法を開発してもらうこともできる。魔法使い1人を雇っても期待通りの研究をしてくれるかはわからないし、魔法の塔に依頼すれば似た方向の研究をしているものや向いているものに仕事として回して成果を得られやすい。
それに国としても民間で勝手に危険なことをしないか監視しやすいので、このシステムは諸外国にも好評を博している。
彼の文化的で最低限度の生活が立ち行かない理由。それは彼の容姿と、内面のポンコツさにあった。
小さい頃から可愛い顔立ちをしていた彼は、長ずるにつれある種人形めいた美貌と雰囲気を醸し出し始めた。
彼のお母さんも綺麗な人だったという。
そして没頭している時の彼はひたすら感情を波立たせることなく、同じ動作を繰り返したり、逆に微動だにしなかったりする。その不思議な魅力は老若男女問わず惑わし、特にちょっとコミュ障気味のストーカー体質の人にはたまらないようだった。
そんな人々に集中してる時に話しかけられたり、世話を焼こうとされたり、中には『私を見て!』と直接的に研究を邪魔されたりすることが続くと、ついには怪我人が出る始末だった。
そして彼はポンコツなので、「この人ヤバイ」的な危機回避能力が非常に薄かった。ストーカー行為をされても、いざ彼の最終防衛ラインに入るまでノーガード。そして一気に逆鱗に触れて撃沈。
これが洗濯婦や掃除人、給仕係が彼に執着しすぎて何人も辞めさせられ、彼に関してだけは再び私が世話を焼くことになったということの顛末だ。
ある程度彼がなぜ自分が邪魔されるのかなどを把握すると、彼によって部屋には個人認証付きの結界魔法が施された。
通れるのは彼と私と、あと片手の数にも満たない同僚や上司だけだった。