夏の夜の夢02 真実の恋は滑らかに運んだためしがない
なんだか現実感を伴わないままクーの家に来た。
久しぶりのクーの部屋は、場所は変わっていないのに、なんだか雰囲気が女の子らしくなっていて落ち着かなかった。
あ、ウエディングベール。
あれは昔から変わらない。
いや、ずっと同じなんじゃなくてすごくキレイになってるけど、ずっと作り続けている。
他には…と変わらない所を探そうとして、ベッドに釘づけになった。
え?本当に?
俺、クーと、本当に?
「ラル、こっち来て。」
そう言って手に触れられると思わずビクッとしてしまった。
くすりと笑われて凹む。マジ凹む。
もしかしてクーは経験があるんだろうか?
「したことあるの?」
また考えずに思ったことを聞いてしまった。『ある』なんて言われたらどうしよう。
「ないけど。」
「俺もない。どうしよう。」
答えにホッとすると同時に、俺も経験がないのでまた違った意味でどうしようかと思った。どう答えられても困る質問なんてするもんじゃない。
今までなんだかふわふわとした感じできていたのに、一気に緊張して動けなくなった。
触りたい。
クーに触りたい。
でも触れたら何か本当に壊れてしまいそうで、動けなくなってしまった。
そうこうしているうちにクーは小さく息を漏らしてベッドの上から立ち上がろうとした。
脊髄反射のレベルでその手を捕まえる。
逃がさない。
一瞬驚いて目を大きく見開いたクーは、でもその後いつもみたいに優しげに目を細めて言った。
「『好き』とか『愛してる』って言ってからくちづけて始めるのよ」
「『好き、愛してる』」
そう言ってくちづけると、もう後は止まらなかった。
その言葉は俺の口から出たはずなのに、むしろ俺の身体の隅々まで染み渡って、「ああ、そうか」と実感した。
散々「ポンコツ」だとバカにされていたが、致し方ない。
認めよう、俺はポンコツだ。
言ったが最後、なぜ今までこの気持ちを意識せずにいられたのか自分で自分が信じられなかった。
そしてやっぱりクーはスゴイと思った。
こんな気持ちを知り得たことを、神ではない、クーに感謝したい。
✳︎✳︎✳︎
俺はクーの身体を心ゆくまで探ったが、結果としては全然足りなかった。
不満なのではない。
満足する一方で、もっともっとと欲しくなるんだ。
朝追い出されるので昼間は塔で過ごし、夜はいつもクーと過ごした。おじさんおばさんがいなかったから、毎日会いに行けた。
クーと始めたそれはまるで夢のように素晴らしい日々だった。
そんな日々を経て、
「ヤバい。終わらない。」
仕事の締め切りが迫っていたが、終わる目処がたたなかった。
最近夜は仕事をしてなかったし、昼はアレコレ反芻しては作業効率が落ちていた感はあった。
元々ギリギリのラインでもあったので、このままでは終わらない予感がしてきた。
それから俺は不眠不休で仕事をした。
やっと終わったのはクーに最後に会ってから10日後のことだった。
報告書を書き上げ、提出。明朝には上司の手元に届くだろう。
もう夜中だ。
後数時間で朝になるし、もう何日寝てないかも覚えていない。
でもこれ以上クーに会いたい気持ちを自分だけで抑えることなんてできなかった。
急いで家まで行き、玄関をノックする。
寝ているのだろうと頭のどこかではわかっているのに、叩き続けることをやめられなかった。
熱に浮かされたようにボワンとした頭で、奥から足音が聞こえてドアが開けられるのを待っていた。
やっと会えたクーに抱きつきたい衝動は、クーの冷めた視線に凍りついた。
眠いところを起こされて怒ってる?
あ!もしかしておじさん達が帰って来てるから夜中に来るなんてダメだったんだろうか?
「クーこんばんは。中、入ってもいい?」
恐る恐る聞いてみると、クーはなんだか投げやりな雰囲気で言った。
「セックスはしないけど、上がるだけならいいよ。」
会いたい。その思いだけで来た。
したくないわけなんてないけど、でもそれだけが目当てで来たのでは本当になかった。
クーは言葉ではいいよと言いながら、全然いいなんて思ってなかった。
全部で俺を拒絶していた。
クーにそんな風にされたことなんてなくて、意味がわからなかった。
「な、なんで?」
ついこの前まであんなに抱き合ったのに。
俺に笑いかけて、好きって言ってくれたのに。
何か途轍もなく怒らせることをしたのかと、必死でこないだ会ったときのことを思い返してみたけど、別れ際まで普通だったはずだ。
なぜ?
「子供が出来たから。」
え?
「だからセックスできない。
あ、あと私は子供のことで手一杯になるから、もうラルのところに行けない。
ご飯と睡眠とって、体に気をつけてね。
さようなら。」
目の前で扉が閉まる。
もうクーの姿は見えない。クーの声は聞こえない。
なんで?なんで俺は…?
子供ができたらもう俺はいらなくなった?




