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僕の彼女の鞄の中は  作者: やゆよ
隠し事
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何も考えずに鞄に手を伸ばして、開けてみる。と…そこには…


「クリアファイルだ。」


クリアファイルの中に、紙が入っている。紙の束は3センチほどの厚みがあって、すぐにでもファイルから飛び出してしまいそうだ。


紙を取り出して漁る。


『報告書』と書いてある紙がある。そこには、ぐちゃぐちゃになった母さんの写真が体のパーツごとに丁寧にまとめてあった。

ほとんどの紙が写真ばかりだ。それも、母さんの飛び降り死体ばかり…


一枚、また一枚めくるごとに、僕がどういう人間なのか、家族構成が細かく書かれた紙が出てくる。学校の先生や友達、僕に関わりがある人に聞いた話が細かくまとめてある…


りせちゃん、こんなに僕のこと、調べ上げてたのか…


僕の彼女の鞄の中は、僕が必死に隠してきた秘密で一杯だった。僕という人間の特徴、思考、人間関係…ほぼ全ての情報がこの鞄の中に詰め込まれている。


〜〜〜


『星賀くん、いい?本当にお兄ちゃんを貶めたかったらね…』


『私くらいしっかり準備して、ゆっくり、ゆっくり思い出させること。あなたは間違ってない。でもあなたは何も心配しなくていいの。彼、もう私のものだから…』


〜〜〜


りせちゃんはあの時、星賀にそんなことを耳打ちしたのかもしれない。それ程までに、何年もかけてじっくりと僕を調べ上げていた。


りせちゃんの鞄は、りせちゃんが隠したいものを常に持ち歩くものだと思っていた。でもそれは、『りせちゃん』という人間が生まれてからの全てをいつも、持ち歩くためのものだった。


そしてそれは、僕の秘密そのもの。


りせちゃんは僕の秘密を知った。だから、もう鞄なんていらなかったのだ。僕が、りせちゃんを、好きだから。『僕』というりせちゃんを作った秘密の一部を、彼女の思想の一部を、りせちゃんは遂に手に入れたのだ。


ーーーーーーーーーー


「お父さん、いる?いるんでしょ?」


りせは家のドアを開く。家の中は真っ暗だ。まだ夕方だが、きっちり閉められたカーテンは、わずかな光を絡めて淡い赤色に光っていた。


りせはリビングに入る。


りせの父は、ソファの片隅に座って項垂れていた。


「ねえ、お父さん。自首して。」


りせの語りは機械的だ。人間味が無く、単調だった。りせは父に少しずつ近づいていく。


「お父さん。あなたがいなくても、もう私は欲しかったものを手に入れた。彼の秘密。私の始まり。全部手に入れた。もう模型なんていらない。」


りせは急に話すスピードを緩めて、父の耳元で言った。


「だから、あ な た も い ら な い。」


にぃっと笑う。歪に横に伸びた笑顔で、頬が千切れそうだ。

父は急に顔をりせに向けた。


「りせ、そんなことしたってお母さんは喜ばない。」


りせは急にカッとなって声を荒げる。


「お母さんの名前を出さないで!!あんたにあの人の名前を口にする権利は無いの。わかる?

あなたは私をゴミみたいに扱う。異常な興味関心を持て余した化け物。あなたは私の本性がわかった時、そう言った。私を殺そうとした。

でもお母さんは違う。私を受け入れてくれた…他の誰よりも素晴らしい、いい子だって。お父さんは私のことを全くわかってない、最低な存在。早く消えちゃえばいいのに。お母さんはいつもそう言ってた。まあ今までは模型を作って私の欲求を逃すのに必要だったけど、もう、いらないや。」


りせはふふふ、と笑った。


「りせ…お前はお母さんに洗脳されてる…せっかくお母さんと引き離したのに…私はお前を愛している。だからこそ、お前に真っ当な人生を歩んで欲しかった。

一歩間違えば人を殺しかねない…そんな娘を、黙って生かしておくなんて危険すぎる…!ましてや人殺しの彼氏と!!一緒にいるなんて危険すぎる…」


「ねえ、いつまで私のこと受け入れないの?本当にどこまでも、父親失格ね。」


りせは父の左手の中指に包丁を突き立てた。


「お父さん、自首して。私は人を殺したりなんてしない。また指、切られたいの?」


りせは少し笑いながらナイフを当てる力を少しずつ強くする。


「やめなさい…りせ…自首すれば、父さんはすぐには戻ってこれない。お前を止めてやれない…お母さんはお前を止める気もない…


お前が小学生の時、鞄の中から死体の一部を取り出した時…あれを隠蔽したのは私だ。

白蛾かのはさんがお母さんを襲ったのを、隠蔽したのも私だ。あの時もお前に脅されて…自分の指と引き換えに刑事としての誇りを失った…


もう、お前の言う通りには動かない…父さんは刑事として、親として、お前からみんなを守らなきゃいけない。」


りせは舌打ちをして、父の頬を勢いよくぶった。


「お母さんがあなたに暴力を振るう理由がよくわかる。私はお母さんの子。誰よりもお母さんに従う。愛してるから。」


りせはキッチンからフライパンを持ってきて、父を力任せに叩く。


が、父は決してやり返したりしない。それは子どもを殴ることに抵抗があるからだ。刑事として事件に関わっていれば、当然そのような事件に関わることになる。


父は父なりにりせを愛していた。

そして、自分がこんな子どもを作ってしまったことに関して、責任を感じていた。


りせは父がやり返さないのをいいことに、どんどん激しくなった。まるで今まで父によって、父に言われた模型作りによって押し殺されていた残虐性を昇華するかのように、激しく暴力を振るう。しまいには机に置いてあったガラスのコップやお皿に手を出して打ち付けた。


「消えろ消えろ消えろ消えろ…!!私の前から消えて!!!!好きに生きさせてよ!!!!」


りせは段々、怒りより楽しさを覚えてきた。顔にどんどん笑顔が貼り付けられる。


父は、皮膚から流れる血を拭って言った。


「落ち着け…落ち着けりせ…この、化け物め…!!!!落ち着けと言っているだろう…!!!!お前を生んだのが間違いだった…!!!!!!」

いつも読んでくださっている方も、初めての方も、この作品を見てくださりありがとうございます。


タイトルを回収しましたが、このお話はあと2話で完結です。


彼女の鞄は秘密の象徴です。僕や彼女の秘密の量によって、鞄の密度も違います。最終話に向けて意識して読むと、ちょっと面白いかもしれません。


引き続き、「僕の彼女の鞄の中は」をよろしくお願いします!

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