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父と子

「ねえ、刑事さん。火高さんって言ったっけ?ついでに私のお父さんも連れて行ってね。

私のお父さん、今捜査している事件だよ、とか言って、私に死体の写真をいっぱい見せつけてきたの。事件の解決のために、これを作れって命令してきたの。」


りせちゃんのお父さんが、目を丸くしてりせちゃんを見つめる。

あれ?りせちゃん、捜査資料をお父さんに頼んで見せてもらってたんじゃないの?死体見ながらあんなに喜んでたのに…それに、事件ちゃんだってお父さんがいなくちゃ作れないはずだ…


「り、りせ…?どういうことだ…」


りせちゃんのお父さんは声を震わせながらりせちゃんに問いかける。強面だと思っていたけど、今は弱った小動物みたいに見える。


「は?何言ってるの?いくら捜査のためだからって、娘にこんなの作らせるなんて、最低。」


りせちゃんは少し笑いながらそう吐き捨てて、鞄を閉じる。模型は地面に転がったままだ。腕、お腹、太もも、足首、手首…辺りはまるで、ここで殺人事件が起こったかのようだ。血の匂いが段々濃くなっている。


「さ、帰ろ。犯罪者に用は無いよ。」


そう言って、りせちゃんは空になった鞄を背負った。いつもパンパンに膨れていた鞄は、力なく中心に向かって陥没している。


『え…?りせちゃん…これ、そのままでいいの…?』


聞きたかったけど聞けなかった。

刑事さんもいるし、今はりせちゃんがお父さんに言われて模型作りをさせられていたと、うまく勘違いしているかもしれない。りせちゃんのお父さんには悪いけど、この時はりせちゃんが警察に連れて行かれないことにほっとしていた。


そのまま僕たちはその場を後にした。


ーーーーーーーーーー


「ぶ、部長…あなたを…署に連れて行きます…」


2人が去った後、火高は激しく痛む腹部を必死に抑えながら言った。が、部長は動かない。


「部長…自分で行ってください…僕は…あなたの不正を許せない…から…せめて自首してくだ…さい…」


すると、部長は固まったまま、目線を変えずに、


「りせが…模型を…捨てた……あの少年が………そうだったのか…」


と言うと、ふと、火高の方を振り返って、


「悪い、火高。妻に謝りに行ってから、自首させてもらう。悪いのは私だ。本当にすまなかった。」


と言った。携帯電話を取り出すと、自ら警察に連絡し、救急車を呼んだ。泣いている山界に手錠をかけて、そのままどこかへ消えてしまった。


火高は痛みと悲しみで気が狂いそうだ。

火高は部長のことが好きだったのだ。信頼していないように見せかけて、実は心の底から尊敬していた。それは面倒見の良い部長の性格が、不器用な火高の心にも響いたからだろう。だからこそ、誰よりも部長を疑った。

自分の好きな部長の潔白を証明したい。そんな気持ちが火高を動かしていた。


火高は這いずりながら、地面に落ちた模型を手に取る。


「に…偽物だ…」


やはり部長がりせに指図して作らせたのだろうか…火高は悲しかった。とにかく悲しかった。警察の仲間ももうじき来るだろう…

ポケットから携帯電話を取り出す。


「火高です。水肩さん…熱大丈夫ですか…部長が…部長が…」


火高は模型を片手に持ち、泣きながら留守番電話を入れる。


ふと、模型の手のひらに指をかけると、指の部分だけが少し硬いことに気がつく。


それは、左手の模型。


薬指と、小指。


違和感を感じた火高は、電話を地面に置き、小指を千切った。


「骨…?」

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