奇妙な4人
りせちゃんと僕は、電話越しに指示された場所へ到着する。なんだか湿気が多くて暗い。周りは高い建物に囲われていて、人気が無い。
りせちゃんは大きくてゴツゴツした鞄を地面に置き、まだかなぁと空を見上げた。
待つこと5分。黒い車が到着して、中から出てきたのは…
「父さん…?」
僕の父さん、りせちゃんのお父さん、もう1人、腹部から血を流している刑事さんらしき人が車から出てくる。
「お、おい…お前…なんでここにいるんだ…」
父さんは僕を見つめて弱々しい声で言った。が、すぐに緊迫した様子に戻って、早く降りろ、とりせちゃんのお父さんの首に血のついたナイフを突き立てている。
「ちょっと!!!父さん!!何やってるんだ!!!!」
「お前は黙っとけぇ!!!!」
はっと構える。だめだ、父さんはこうなると、どんなことをするかわからない…恐らくもう1人の刑事さんも、父さんがやったんだろう…
「お前ら全員、地面に座れ!!!この糸で縛る!!!」
「や、山界さん…そんなことしても、私たちはあなたの顔を見ていますし…大人しく、星賀くんのところへ行きましょう…?火高も怪我をしていますし…」
りせちゃんのお父さんは父さんを宥めるが、全く聞く耳を持たない。やはり一人で逃げるつもりなのだろうか。
父さんは、星賀…星賀…!星賀ぁぁぁぁぁぁぁ!!!!と叫び始め、ナイフを振り回す。突然、僕に向かって、
「全部!!!!全部お前のせいだからなぁぁぁぁ!!!!」
と叫びながらこちらに向かってくる。まずい…!刃物が…!!
ぼとっ。
父さんの足がりせちゃんの鞄に引っかかって、鞄が倒れる。
あ…ロクなことにならない音…
父さんの動きがピタッと止まる。目の前に転がる血まみれの腕。
驚きで開いた口が塞がらない火高さんと父さん。やってしまったという思いで口が塞がらない僕とりせちゃんのお父さん。そして、1人笑うりせちゃん。
「な…なんだこれ…」
「どういうことだ…」
今まで模型を見た人が混乱してきたように、火高さんと父さんは凍りつく。その顔が面白かったのか、りせちゃんは笑いながら言った。
「うふふ…うふふふふ…バレちゃった…♪」
これは何度か見た光景だけど、僕はなぜかこの時、りせちゃんの模型に違和感を感じていた。
事件ちゃんって、あんな色だっけ?
血の色が前より、褐色になっている気がする。それに、何か、匂いがする…刺激臭…
最初に見た時から比べて、衝撃的な体験をし過ぎて、自然に見る目が変わったのかな…
火高さんがりせちゃんを睨みつけて言った。
「お前…やっぱり何かの事件に関わっていたのか…俺は随分お前を調べた…刑事部長、すみません。僕はずっと彼女を疑ってたんです。何か、怪しいと…あまりにも彼女の周りで事件が起きすぎている。」
「おおっ!刑事さんすごい!あなた、まだ若いのに良い洞察力してるね♪褒めてあげるよ。これはね、女の人が木に吊るされていた事件の腕だよ。残りはぐちゃぐちゃにしてドラム缶の中に詰めておいたの。私がひとつだけ持って帰ったの、バレないように…」
1番最初の事件…確か、女の人の体のパーツが、たくさん木に吊るされていたという事件。
木に吊るしきれなかった遺体は同じ公園のドラム缶の中で見つかったんだっけ…それも体はぐちゃぐちゃで、DNA鑑定をしてやっと同じ人のものだとわかったそうだ。
ただ、容疑者の男性の家からも遺体のパーツは見つかった。そこに無かった、右腕…
刑事さんはりせちゃんに向けて話を続ける。
「お前…どういうつもりだ…いや、聞かなくてもわかる…お前は死体に関しておかしなくらい興味があるんだろ?小学校の先生から、若い頃の刑事部長のことも、聞いた。根っからの異常者…それがお前の正体…
部長から捜査資料をもらったりしてたんだろ?通りで先日の事件も、部長は報告をもらった時落ち着いてたわけだ。前から知っていたんだろ…事件のこと…」
「あら、異常者なんて、ありがとう♪その通り!私は死体が大好き。だめ?」
りせちゃんのお父さんはゆっくり目をそらす。りせちゃん、火高さんを騙して、山界の気をそらすつもりかな。それにしても迫真の演技だ。嘘かわからないくらいだ。
と、りせちゃんが鞄をまた漁りだした。
「これは、木下さんの足の付け根、これは、ゆみさんの太もも…うふふふっ…私の可愛い体たち…」
りせちゃんは鞄から次々模型を取り出すと、元から持っていた模型を、父さんに向かって投げた。
ぐちゃ。
え?
今ぐちゃって言わなかった?
模型は父さんのお腹にあたって、赤黒いシミをつくった。下に落ちた腕が少し潰れて、地面が汚れる。
そこからなんとも言えない腐った匂いが、ふわっと香った。
え?これ?え?
ほ ん も の ?
…りせちゃんがこちらを振り返って、にぃっと笑った。




