白状
「はぁ。全部お見通しですか。笑っちゃいますね。そうですよ。僕は兄さんに来て欲しかったんです。兄さんにこの景色を見せたかった。」
星賀は僕の方を見てにこにこと笑っている。なにを言ってるのかさっぱりわからない。僕に殺人現場を見せたい?どういうこと?
「やっぱりそうだったんだね。前君の家に行った時、私たちは死体を見せられた。その時の星賀くん、お兄ちゃんのことしか見てなかったよね?死体じゃなくて、お兄ちゃんのことを見て笑ってた。そんなにお兄ちゃんのことが好きなの?」
りせちゃんの話すスピードが段々早く、声は低くなっていく。りせちゃん…怒っているけれど、どこか少し、楽しそうだ…
「あっはははは。さっすが!死体を見慣れてる人は着眼点が違いますねぇ!!兄さん、こんな洞察力のある女と付き合ったら、浮気なんかできたもんじゃないね。模型みたいに切り刻まれちゃうよ!!
それに僕はね、兄さんのことが好きだからこんなことしてるんじゃ無いんです。兄さん、早く化けの皮剥いで出てきてよ。いつまで普通の人間のふりしてるの?」
え?
どういうこと?
縛られたたくや、蹴られて痛そうなかのはさん、奥の方で震えているゆめさん。みんなが僕の方を振り向いた。
「それは、どういう意味だ…?」
「兄さん、いつまでとぼけてるんだよ…!いつまで俺を待たせるの?ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねえ…!!!!僕は散々待ったよ!!」
「ごめん、星賀。なんのことかさっぱりわからない…」
その言葉を境に、星賀は壊れはじめた。
「あーーーーーーーーー!!!!兄っさん!もういいんだよ?俺は知ってるんだ。兄さんが自分から言わないなら自分で言うよ!いいの?!母さんを殺したのはあんただろ?」
最後の一文だけ、静かな、綺麗な声で話した。本当に殺意が籠っていた。
みんながまた、一斉に僕の方を振り向く。
「星賀、何言ってるんだ…母さんを殺したのは父さんだって、あれほど…」
「嘘つくな!!!!!
俺は本当のことを知ってる。あの日、母さんが自殺した日、ベランダから飛び降りた時…
確かに事件が起きる前、父さんと母さんはいつもみたいに喧嘩してた。父さんが母さんを殴る音が僕の部屋まで響いてたよ。それで。ベランダの引き戸を開ける音がして、突然ガタンッバタンッって。それから悲鳴が聞こえて…それで…何かおかしいと思った僕は急いで部屋から出た。
そしたら…兄さんが、ベランダから下を覗いてたんだ…父さんはそこにいなかった…
確かに、警察と父さんは、母さんは自殺したって言ったよ。でも見たんだ…ベランダから振り返った兄さん………笑ってた…
兄さん、兄さんが怖かった…僕は怖かった…兄さんを見ると、不思議とあの時の笑顔が蘇ってくる…そのせいで、いつも怯えた時には笑ってしまう…家族がばらばらになったのも…全部、お前のせいだ…」
「違う!!星賀!!お前は父さんに洗脳されてるんだ!!!あいつに散々暴力振るわれて、おかしくなってるんだよ!!!僕は母さんを殺したりなんてしてない!!!」
気がつくと僕も星賀も泣きながら叫んでいた。
寒い部屋…全部空いたリビングの窓から、外の景色が見える…夜の綺麗な景色だ。少しずつ、思い出が蘇ってくる…
「嘘つくな!!家族がこんな事になったのも全部兄さん…お前のせいだ…なのにお前は何にも覚えてなかった…!!!!
だからね、僕は用意したんだよ。たくさん殺しの現場を見れば、兄さんも昔のことを思い出してくれるんじゃないかって。でもグロいのが駄目とか言うから…小さい頃はむしろそういうのが好きだったのにね…
でも自分で手を汚すのは嫌だった。僕は人に暴力は震えるけど、殺すのはできなかった…怖かったんだよ…兄さんと父さんを残してしまうのは…
そこで見つけた。かのは。お前は最高のおもちゃだった…ちょっと昔の事件のことを言えば、誰にも言わないでって…なんでも協力してくれた。それで殺させた。なるべく綺麗な死体になるように。そうじゃないと兄さん見れないもんね。せっかく殺したのに見れないんじゃ意味無いもの。」
「どうしてゆめさんのお姉さんを殺したの?」
「ははっ。りせさん、ズバズバいきますね。
まず、兄さんに近い人っていうのが絶対条件だった。その方が、身近な人が死んだっていう衝撃が大きいからね。でもセンシティブな兄さんには、いきなり身近な人が死ぬのはきつすぎるかなって。それで、SNSで兄さんに関わりのある人を徹底的に調べた。
そしたら、ゆめっていう人が出てきてね。彼女さんと同じ研究室っていうから、丁度いい距離感かなって。なんでもSNSに載せちゃうから、色んな情報貰えたよ。ありがとう、ゆめさん。あなたが馬鹿でよかった。」
星賀がゆめさんを見ながら軽くお辞儀をした。ゆめさんは固まってしまっている。
「で、最初はゆめさんにしようと思ってしばらくつけてたんだけど、中々1人になる所に巡り会えなくて。その内に、ゆめさんがお姉さんらしき人と会いに行くのを見かけた。お姉さんの方は社会人で、割と夜遅くまで出歩いたりしてるみたいだから丁度いいなって思って。そっちに変えさせてもらったよ。」
星賀は僕たちのピリピリした空気も御構い無しに、今まで自分がしてきた事についてすらすらと語る…
やっと星賀くんがおかしくなってくれました。
星賀が僕と話すときは必ずにやにやさせるようにしてきましたが、一場面だけ「僕」がいないのににやにやしている場面があります。実はこれは…
おっと、あんまり言うと最後のネタバレになってしまうのでここら辺にしておきます。
これからも「僕の彼女の鞄の中は」をよろしくお願いします。




