脅し
「私が思うに、誰かに脅されたんだと思う。」
「誰かに脅迫されながら、殺人をしたってこと?」
僕たちは○×保育園の園児、頃川みどりくんを殺害した人物について考察していた。
「それはゆみさん殺しも同じ。ゆみさんは多分かのはに殺されてるけど、かのはも頃川くんを殺した人物も、誰かに脅迫されての行動だと思うの。
きっと同じ人物に脅迫されて、渋々殺してる。」
「ということは、直接手を下さずに殺しを命令した人がいるってことだよね…?」
いや、鬼畜すぎないか?何のためにそんなことしてるんだろう…
「頃川くんを殺したのは、切り方からして多分殺人に詳しくない一般人だと思う。でも普通の人間が何の動機もなく人を殺すなんて難しい。
それに、今回みたいに変な事件を起こすならなおさら。急に頭がおかしくなったか、誰かにやれと言われてやったか…その辺が妥当だと思う。昨日まで普通だった人が警察署に血だらけのお腹とか耳とか手とか送るなんて考えないでしょ。」
確かにそうだ。そんなことが急にできるようになるなんてサイコパスすぎる。だけどちょっと疑問に思うところもある。
「元からのサイコパスが急に覚醒した…とかはないの?」
前回の、すみたくんが央太くんを殺した事件を思い出す。日々のストレスは人格をも曲げてしまうこと、時として人を殺人鬼にしてしまうことを思い知った。
「うーん…これは直感なんだけど、私みたいに死体とか殺しが好きな人間は、こんなことしないと思うんだよね。もっと、派手に、楽しみながら殺したい。こんなにこそこそ、怖がるような切り方はしたく無いと思うの。
頃川くんを殺した人は、恐らく遺体を直視できなかったんだと思う。それに、頃川くんに多少なりとも情があったんじゃないかな。
わざわざ致命傷にならない所を切ってるし、なんかもう、切ってるというより早く千切って終わらせよう!みたいな感じなんだよね。
私とかなら、わざと神経とか血管が多い所を狙って、もっとこう、全身の組織を、細胞から小さな組織まで舐め回すように…」
『舐め回すように…』
前にも聞いた気がしなくもない。
りせちゃんが段々とにやけてくる。いけないいけない。これ以上殺しのことを考えさせるとよくない。何か、違う話題にしよう…
「で、殺人鬼を脅していたのは、誰なの?」
りせちゃんがにぃっと笑う。せっかく話題を変えたのに…
「それがこの章の重要人物、山界星賀くんだと思ってる。あくまで推測だけどね。
いやぁ、わざわざ会いに行った甲斐があったよぉ。ふふふっ…かのは、めちゃくちゃ怯えてたしね。あの、かのはが。
かのははね、私みたいに、ちょっとおかしい人なの。死体とか、事件とか、殺しに興味がある。社会とは、ちょっと違う段にいる人間。」
やっぱり星賀か…
と同時に、かのはさんについてりせちゃんが詳しく教えてくれた。
「かのはとは、中学と高校が同じだったの。中学1年生の時かな、初めて同じクラスになった。私たちはお互いに、ちょっと変わったものについて興味があること隠してたんだけど、なぜかばれちゃったよね。言わなくても気付くっていうか。やっぱりおんなじ匂いがするの。
それで、すごく仲良くなった。こんな、おかしなものが好きなんて普段の人に言えなかったから、すぐ仲良くなった。それに、2人とも同じようなものが好きだったの。
人の体、殺され方、殺害動機…話せば話すほど分かり合えた。
でもね…かのはは一線を越えちゃったの。
中学3年生の時。受験のストレスに耐えられなかったんだろうね。かのはのお父さんは、有名なお医者さんでしょう?かのはもすごく優秀だったんだけど、それでも足りないって、いつも泣いてた。それで…殺しちゃったの…」
「ころ…しちゃった…?なに…を…?」
りせちゃんは僕の目を見て、どこか恍惚な表情を浮かべた。こんな顔をするりせちゃん、初めて見たかも…なんというか…物凄く…しおらしい…
りせちゃんは僕の唇にそっと、人差し指を触れさせる。指の果肉からふわっと、柔らかい匂いがする。そのまま静かに、というジェスチャーをした。
「それは…また、今度…♪」
僕の顔は思わず赤くなる。見なくてもわかる。赤くなっている。
「ま、かのははそんなんだから、元々人間の体を切るのがすごく好きだし、上手なの。だから、脅されれば今まで必死で抑えていた好奇心に耐えられなくて、殺しちゃう可能性は十分ある。
脅されるっていうか、自分らしく、やりたいことしていいんだよっていう許しかな。」
りせちゃんはさっと元の体制に戻り、さっきまでの雰囲気が嘘だったかのように普通に話し出した。というか、かのはさん怖すぎるだろ…人殺したくてうずうずしてたのかよ…
「で、それをしたのが星賀ってことか。確かにあいつならやってもおかしくないな…
じゃあ、頃川くんの殺しを命じられたのは…?」
「これも、全部、推測だよ?こんなの、絶対だめだと思うよ?倫理的に。
でも、私的に1番面白い殺され方…
脅された人…それは…母親…」
あ、だめだ。りせちゃん、完全におかしくなってる。
虐待とか、親から子への残虐性は時期的に良くないかなと思ったんですが、元からこのお話はそういうものが一つのテーマなので、自分の考えた暗い部分は改稿せずそのまま書きます。
苦手な方や気分を害した方、申し訳ございません。今後そのようなシーンも出てきますので、苦手な方はお控え下さい。




