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1話

 僕の名前は、ポチ(仮)。

他にも、チビとかシロとかクロとかジョンとか沢山の名前があるけれど、僕が一番好きになった人間が、僕の事をいつもポチって呼ぶから、僕の名前はポチなんだ。


 僕は、雑種の野良犬。

産まれたのは、神社の縁の下の隅っこ。

僕は、3兄弟の末っ子。母さんのお腹の中から、一番最後に出てきたんだ。

今は、母さんとも2匹の兄さん達とも、離ればなれになっちゃって、1匹だけで、今でも産まれた神社の縁の下を棲み家に暮らしてる。

いつか、母さんや兄さん達が戻ってきた時に、誰も居なかったら、淋しいだろ?だから、僕はずっとココに居るって決めたんだ。


 母さんは、僕達のご飯を探してくるって言い残して、まだ帰って来ない。兄さん達は、人間の子供に連れられて、どこかに行っちゃった。僕も一緒に連れていって欲しいって、一生懸命に鳴いて吠えて、人間の子供に訴えたんだけど、連れて行ってはくれなかった。


 僕の足が1本無いからなのかな?

僕の足は、まだ僕達兄弟が、母さんのおっぱいを飲んでいた頃に、イタチって言う名前の動物に襲われて、食べられちゃった。

イタチは、母さんが、やっつけてくれたけど。あの時の母さん、カッコ良かったなぁ。


 痛くてピーピー泣いてたら、母さんが僕の足があったところをペロペロと舐めてくれた。兄さん達にも舐めて貰ったら、少しだけ痛く無くなった。


 今日は、神社のある山の麓から、街に降りて、ご飯を探しに行く日。ちゃんと、ベスおじさんに言われた通りに、夜中になってから、街に出掛けて行く。

ベスおじさんって言うのは、僕がまだ、僕に優しくしてくれて、食べ物なんかをくれる人間しか居ないって思ってた頃に知り合った、人間に飼われている、柴犬のおじさん。


 神社の縁の下から顔を外に、ひょっこりと出して、周囲の匂いを嗅ぐ。大丈夫。いつもと同じ匂いしかしない。僕は、いつもと変わらない匂いしかしない事を確認してから、神社の縁の下から飛び出して、ヒョッコリヒョッコリと歩いて街へと向かうんだ。

イタチに食べられちゃった足のせいで、僕は他の犬達のように、早く駆ける事が出来ない。


 いつもの様に慎重に街に向けて、ヒョッコリヒョッコリと歩く。

向かう先は、ベスおじさんの棲み家だ。


 ベスおじさんの棲み家に着いたら、人間に見つからないように、小さな声で、ベスおじさんを呼ぶんだ。


 「ベスおじさん、ベスおじさん」


 『坊主か、今ならワシの飼い主様は、ぐっすりと寝てるから、入っておいで』


 ベスおじさんは、僕の事を、いつまでも坊主って呼ぶんだ。

もう、小さな頃と違って、僕1匹でも、カラスも猫もイタチも、追い払える男になったのに。


 ベスおじさんの飼い主が住んでいる家の玄関の門のすき間を、潜り抜け、庭の中をヒョッコリヒョッコリと、ベスおじさんの元に歩いていく。


 ベスおじさんは、飼い犬だから、僕と違って、自由に何処でも行く事が出来ない。僕は好きなところに、自由に行けないベスおじさんに、なんで、人間に飼われているの?って聞いてみた事があるんだ。


 ベスおじさんは。


 『いいかい、坊主。ワシ等犬族と人間は、遠い遠い昔から、一緒に暮らし、一緒に狩りをして、一緒の食べ物を食べ、一緒に敵と戦って、そうしてずっとずっと暮らして来たんじゃ、ワシは、坊主のように自由に歩き回る事が出来ないとしても、人間と一緒に暮らせる今が、とっても幸せなんじゃよ』


 ベスおじさんの、お話は、僕には少し難しかった。だけど、ベスおじさんが言っている『人間は犬の友達』って事だけは、何故だがすぐに分かったんだ。だから僕は、大きな声でベスおじさんに言ったんだよ。


 「人間は犬の一番の友達なんだね」


 って。そうしたら、ベスおじさんは、大きな声を出した僕に注意をしてきたけど、たくさん褒めてくれたんだ。


 今日も、僕はベスおじさんの、お話をちゃんと聞いた、ご褒美に、ベスおじさんが、残しておいてくれた、ドッグフードを、ムシャムシャ食べる。


 イタチに足を食べられちゃって、ご飯を上手く探せない僕の大事な大事なご飯。1粒も残さないで、しっかりと食べなきゃ。


 『今日もたくさん食べたな』


 「うん! 僕ドッグフード大好き、お腹いっぱい」


 お腹が脹れた僕は、ベスおじさんの前で、ゴロンとお腹を見せて、寝っころがる。そんな僕を見ながら、ベスおじさんは、僕に大事な事だから、ちゃんと覚えておきなさい。ってまた、お話をしてくれる。


 『人間は犬の一番の友達と坊主に言った事は、本当の事じゃ、だけどな、全ての人間が、ワシ等犬の事を好きでいてくれるとは、限らんのじゃ、中には、ワシ等犬の事が嫌いで、意地悪をしてくる人間も居るんじゃ、特に坊主のように、人間に飼われていない野良犬は、気を付けないといかんぞ』


 「意地悪をする人間かぁ~カラスやイタチみたいだね」


 『そうじゃな、カラスやイタチみたいじゃな』


 ベスおじさんは、そう言って笑ってた。今日も美味しいご飯を、僕に食べさせてくれてありがとう。ベスおじさん大好きだよ。ドッグフードの次にね。

 

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