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 私が前世で一番残念だと思うのは友達がいなかったことだ。学校に行ってない貴族の娘には友達ができにくい。家からあまり出ない生活だったので無理のない話だ。

 私が出かけるのは両親に連れて行ってもらえる場所に限られていた。両親の交友関係の中に同じくらいの子供がいなかったのが不幸だった。もし友達がいれば、あれほどカイルを好きにはならなかったのではないかとさえ思っている。

 両親以外での外出は、婚約者であるカイルと同伴と決まっていた。彼はいつも王都にある国立図書館に連れてきてくれた。私が本が好きだと知っていたからか、それとも少し外出するだけで熱を出す私を気遣ってくれていたのか、いつも図書館だったのだ。デートに図書館? と言う人がいるかもしれないが、私は無類の本好きだったので喜んだ。国立図書館には読んだことのない本がたくさんあって、表紙を眺めているだけでも飽きない。

 私が行きたい場所に連れて行ってくれるカイルが好きだった。彼は本を読んでいる私をそっと見守ってくれるだけで、急かしたり邪魔をすることもない理想の相手だった。きっと退屈だったと思う。時間ギリギリまで本を読むだけなのだから。その間、カイルが何をしていたのか気になって尋ねたことがある。


「気にしないで。私は学校の予習をしてるから」


 父からカイルの成績が常に上位だと言うことを聞いていたので、なるほどと思った。私は本を読むのは好きだけど、計算は苦手で家庭教師によく嘆かれていた。だから常に上位の成績を残しているカイルが陰ながら努力をしていると聞いて自分も頑張らねばと思ったのだ。

 前世の私は本当に健気だった。滅多に会えない婚約者のカイルを慕い夢を見ていた。残念ながらその夢は幻に終わってしまったけど、それでもカイルがいなければ前世の私には思い出すらなかっただろう。そのくらい私の世界は狭かった。

 今回、グレース王女にカイルと二人で会う場所を用意してもらった。これが最後の機会になるかもしれないので、前世の記憶があることを認めることも考えている。そしてその時はカイルにはっきり言うつもりだ。前世と違って今世の私は充実した毎日を送っていると。前世と違って友達もいて健康で、なんでもできるのだと。もう昔のようにカイルの手助けはいらないのだと言う予定だ。もちろん前世を覚えていることを認めたらの話だ。なるべくなら言いたくはない。振られたことを当事者と話すのは気恥ずかしい。振った方だって気不味くはないのだろうか。カイルはあの後私たちが結婚したようなことを言ってたけど、どうも信じられない。父だって婚約は元々解消するつもりだったと言っていたのだから。

 私はそんなことをつらつらと考えながら、グレース王女に指定された部屋へと向かっていた。だから前方にいる人物に気付けなかった。


「リリアナ、貴女とこんな場所で出会うとは思わなかった。いつ見てもリリアナは綺麗だ」


 歯の浮くような言葉はいつものことだ。彼はグレース王女の弟であるヒース・エルーニア。姉と同じ金髪碧眼の美少年だ。姉弟とも王妃にそっくりで美しいのだ。グレース王女は少しばかりぽっちゃりしているけど、弟のヒースはほっそりとした体型で、第二王子の義務として騎士団に入団したと聞いてやっていけてるのか心配している。まあ、騎士団に身分の上下はないと言われているけど、さすがに王子に何かをするような人はいないよね。あまりにも美少年なので貞操の心配までしてしまった。


「ヒース王子はいつも冗談ばかり。そんなことばかり言ってると女ったらしと思われますよ」


「リリアナは酷いなぁ。私はいつだって真剣なのに。それで今から姉上のところに?」


「ええ、呼んで頂いてるの」


 正確に言えば違うけど、カイルと話し合った後に会う予定になっているから嘘にはならないだろう。


「そうですか。私も用がなければご一緒したいのですが残念です」


 用があってよかったと思ったけど顔には出さなかった。


「そうですね。わたくしも残念ですわ」


「またいつか姉上と三人でお茶でもしましょう」


 ヒース王子とお付きの二人が去っていくまで頭を下げていた。彼らがいなくなってホッと息を吐く。これからカイルに会うのにどうしようかと思ったわ。昔のヒースだったら用があっても付いて来ただろうけど、彼も成長したようだ。いつも私とグレース王女の後ばかり付いていた姿を思い出して思わず笑みが浮かぶ。

侍女が私を待っている視線に気付いてハッとする。さてと急がなくては。本当に城の中は広くて困ったものだ。この侍女はグレース王女のお付きの一人なので、余計なことは言わない。私が誰と会うかも知っているけど、ヒース王子にも何も言わなかった。よくできた侍女だ。

 案内されたドアの前で深呼吸する。侍女は用がある時はベルを鳴らしてくださいと言って下がっている。この部屋の中にはカイルがいる。誰の助けもない。私は覚悟を決めてドアをノックした。


 

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