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 外へ出ると風があり、ダンスで火照った身体に心地が良かった。

 勢いで着いてきたことをすでに後悔していた私は、なんとかならないかと考えている。

 馬鹿かもしれない。こんなところで二人っきりなるなんて。自分がうっかり屋さんなことを自覚しているので、うっかり前世のことを覚えていることがバレないようにしなければならないと気を引き締めた。


「この辺りまでくれば人には聞かれないだろう。君とは一度ゆっくり話をしたいと思っていたんだ」


 カイルの銀色の髪は月明かりの下で、美しく輝いている。そう前世の私は彼の銀色に輝く髪が好きだった。私にはないものだ。前世の私はありきたりのブラウンの髪だった。今の私の髪もブラウン、瞳の色も同じで、せっかく生まれ変わったのに残念でならない。できれば銀髪とか金髪が良かった。公爵家に生まれたおかげで、ごく普通のブラウンの髪でも素敵に仕上げてくれる侍女達がいるけど、カイルの銀の髪を見るとやっぱり羨ましい。


「そうですね。わたくしも一度ゆっくり話をしたいと思っておりました」


 覚悟を決めてそう言うとカイルは目を瞬いた。ここまできて私が逃げるとでも思っていたのだろうか。失礼な話だ。私だってこの件は早く片付けたいのだ。だってカイルは危険だって知っているから、できるだけ離れていたい。今世と前世の私は髪の色と瞳の色を除けば全く違う人間なのに、それでもカイルを見ていると惹きつけられてしまう何かがある。それがなんなのかずっと考えているけど答えはまだ出ていない。


「君はまだ全てを思い出していないようだ。どこまで思い出したか聞きたい」

「待ってください。わたくしは前世のことは覚えていませんと何度も言ってます。どうしてわたくしが覚えていると思うのですか?」

「それは知っているからです。出会えば思い出すことになる。私は生まれ変わりではないですが、君と出会った瞬間に君がサーシャの生まれ変わりだとわかった。ああ、本当だったと神を信じていて良かったと心から思ったよ」


 ミスラ教は確かに生まれ変わりがあると言っているけど、どれだけの人間が信じているのだろうか。前世の私は『生まれ変わっても一緒になろう』と言うプロポーズの言葉がロマンティックで憧れてはいたけど、生まれ変わりなど本当のところ信じてなかったように思う。あの頃のカイルだって信じてなかったはずだ。


「信じられないわ」

「そうだね。私たちは珍しい例なんだと思うよ。ミスラ教の信者はこの大陸だけじゃない。すごく広い。君とは私がまた出会えたのは奇跡に近い。でも奇跡は確かにおきた。私は君の真名を知っている。だからわかったんだと思う。君も私の真名を知っている。だから前世を思い出したはずだ」


 カイルは信じられないことを言った。真名は結婚する時にしか教え合わないものだ。それを知っている? あり得ない。だって私は確かに前世を思い出したけれど彼の真名なんて知らない。私の記憶の中にはそんな甘い思い出なんかない。私が忘れている?


「わたくしが貴方の真名を知っている? それではまるでわたくし達がけ、け、……」


 私は聞くのが怖くてためらう。そんなはずはない。あの時、私は死んだのだからそんなはずはないのだ。


「結婚? そうだ、私たちは結婚してたんだよ」


 そう言ってカイルは私にとびっきりの素敵な顔で微笑む。

 カイルは独身で有名だから、結婚歴がある事はあまり知られていない? いくらなんでもそんなことがあるだろうか。父と兄に確認すれば良かった。なるべくカイルのことは聞きたくなくて、耳を塞いでいたのがいけなかった。私は彼のことをあまりにも知らなさすぎる。

 それにしても「私たちは結婚してたんだよ」って、私がサーシャだって本気で信じているようだ。真名の話にしても本当なのだろうか? もちろん彼が言うように結婚していれば知られていてもおかしいことではないけど。

 これは私の手におえる相手ではない。確か、グレース王女が色々と調べてくれているはずだ。王女様に会うまでは迂闊なことを言って墓穴を掘らないほうがいい。この場をどうすれば逃げれるか考えていると、兄が焦ったように迎えにきてくれてことなきを得た。兄はいつの間にこの夜会に来たのだろうか。たまには兄も役に立つものだなと思った。カイルは兄に連れられて行く私をずっと見つめている。あの透き通ったように青い瞳は何を考えているのだろう……。

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