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王宮で開かれる夜会は豪華絢爛で、人も多く華やかだ。ご婦人方のドレスへの力の入れ方が半端ない。デビュタントの令嬢たちは白と決まっているけど、その分レースに力を入れていた。


「素敵なドレスばかりね。色とりどりで、目が回りそう」


 大きな羽扇子で口元を隠しながら隣に立つ、グレース王女に呟く。


「あら、先月の夜会ではリリアナが主役の一人だったけど何も言っていなかったのに、今日の方が目が回るの?」


 私と同じように羽扇子で口元を隠してグレース王女も小声で囁く。誰もが聞き耳を立てているので、二人にしか聞こえないように話すのも大変だ。


「あの日は緊張していたから周りなんて見えなかったもの。それにカイルのせいで途中からは何も目に入らなくなったのよ」


 あの日、カイルに言われるまで、私がサーシャの生まれ変わりだと気づいていることを知らなかったのだ。だからあの日のことはあまり覚えていない。そういう意味ではデビュタントを台無しにされたんだよね。サーシャの時はデビュタントをした覚えがないから、楽しみにしていたのに……。それとも結婚する前にデビュタントの夜会に出席したのかしら。


「あっ、ソールだわ。だいぶ年をとった顔だわ。隣にいるのが奥様かしら。おとなし気な感じの方ね」

「そう見えるけれどやり手らしいわ。娘の結婚相手を探すといって半年も前から王都に居続けてるそうよ」


 グレース王女の情報に驚く。マドリード伯爵家の情報まで知っているなんて、ずっと王宮にいらっしゃるとは思えないほどだ。


「きっと女の幸せは結婚だって考えているのね。マドリード伯爵家には彼女しか子供はいないから婿をとるのかしら。それとも養子をもらうのかしら」

「丁度よい養子になる方がいないから、婿をもらうつもりみたい。それで条件の良い方を探しているのね」


 養子は親戚筋から選ぶから、条件に合う人も探しやすい。けれど婿となると条件がどれだけ良くても、娘の気が乗らなければ続かない。そして婿になる方の覚悟だっている。離婚は滅多なことではできないのだから慎重の上にも慎重に選ばなければならない。


「ねえ、王女様。わたくしまで心配になってきたわ。変な男に引っかかった時には教えてくださいね。なんとか破談にしますから」

「ホッホホホ、マドリード伯爵家のことはやはり気になるのね」


 グレース王女が楽しそうに笑う。その姿を見た周りの人は何事かと私たちに視線を向ける。それに笑顔で応えながら、王女に文句を言う。


「声をたてて笑うなんて。目立つではないですか」

「ふふふ、今日は隣にリリアナがいてくれるから楽しいんですもの」


 いつもは顔色ばかり気にして話す人たちに囲まれて楽しくない夜会だったらしい。


「リリアナ、カイルがこちらに来るわ」

「えっ?」


 確かに目の前からこちらに向けて歩いてくるのはカイルだ。話しかけられないように速足で近づいてくる。

 それを嫌そうな顔でソールが見ているのが目に入った。二人は仲が良くなったと聞いていたのに違うのかしら。

 カイルは先にグレース王女に挨拶をする。そして一緒にいる私にも型通りの挨拶をする。


「それで何か有益な情報でも掴めたの?」


 王女の言葉に私を見て、カイルは首を振る。


「何も、神殿図書館にも真名の本はほとんどありませんでした」

「そうでしょうね。わたくしも知り合いの神殿関係者に尋ねたけれど、思わしくなかったもの」


 グレース王女が神殿関係者に尋ねてくれていたことは初耳だ。ということはまるで私たちがしたことは無駄足だったということだ。


「それなら言ってくださればよかったのに」

「言ったでしょ。無駄になるって」

「それはそうだけど……」

「リリアナは私の言葉だけで納得できなかった。自分が調べてダメなら諦めもつくでしょ」


 確かに無駄だと言われても、諦めることはできなかった。幼いころから知られているグレース王女には全て見通されていたのね。

 カイルは苦々しい表情だが、何も言わない。私の方を見て肩をすくめただけだ。まるで王女には逆らえないよと言ってるようだ。


「父が心配していてよ、カイル」

「は?」

「病気でお休みするなんて初めてのことでしょう?」


 グレース王女の言葉にカイルはハッとした顔をした。どうやらずる休みをして神殿図書館に通っていたようだ。


「陛下には内緒でお願いします」

「ふふふ、仕方ありませんね」



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