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 十歳の誕生日に前世を思い出した。

 前世の私はサーシャ・マドリードという名だった。同じ伯爵家のカイル・オッドウェイと結婚するのだと思って幼少期を過ごした。

 何故、前世を思い出したのかというとそのカイル・オッドウェイに会ってしまったからだ。カイルは私の誕生日を祝うパーティーに呼ばれていた。私の今の名はリリアナ・ミラー。公爵家の長女だ。私を祝うパーティーとは名ばかりで大人しか出席していないパーティーだ。私に「おめでとう」と挨拶に来るけど、本当の目当ては公爵である父だ。この国の宰相である父はとても忙しい。それでもたったひとりの娘の私にはとても優しい。二人息子が続いた後に生まれた私はとても歓迎された。両親からも二人の兄からも可愛がられている。

 そう十歳までの私はとても幸せだった。前世でこっぴどく振られたことを思い出すまでは…。

 なんとカイルと父は同級生だった。私が死んだ時、彼は二十一歳だったから私と彼の間の年齢差は二十一歳。まさか前世で振られた男に会うなんて不幸すぎる。

 私は高熱で発見され、そのまま命を落としたのだと思う。その後彼がどうなったのか知らないから、間違いない。私は自業自得で死んだのだから後悔も何もないけど、カイルにとっては迷惑な話だったと思う。

 カイルの父親は早くに死んで、彼の父親と仲が良かった私の父が、私との婚約を条件に彼を援助した。カイルの家は伯爵家だったけれど借金があり、父の援助がなければ潰れてもおかしくなかったのだ。カイルが学校に通えたのも王宮に就職できたのも父のお陰だった。でも父は本当に彼と私を結婚させるつもりはなかったのだ。

あの頃の私はそれなりに綺麗だったし、カイルに押し付けなくても縁談に困ることはなかったので、父はカイルにお金を援助しやすいように条件をつけただけだったのだ。父は私の誕生日の三日前に私に「お前の誕生日にカイルとの婚約を解消する」と言った。私はやっぱりと思った。カイルに恋人ができたことは噂になっていたし、彼が騙されているのでないのなら身を引かなければって思っていたのだ。

カイルは縁談を押し付けられたことを相当嫌がっていた。それも同い年でもなく五歳も年下の少女だ。カイルが就職してからあんまり帰ってこなくなったのも私と会うのが嫌なのだろうと早くから気付いていた。

 幼い私が気付いていたのだから両親が気づかないわけがない。

 なんか当て付けみたいなことして死んじゃって悪いことしたなって思う。でもそんなつもりはなかったのだ。あの日、私は最後に恋人のように食事をしたかっただけだった。思い出が欲しくてした行動だったけど、カイルに話しておかなかったので失敗してしまった。言おうとしたけど、カイルに遮られ余計なことを言って叩かれてしまった。間が悪かった。あの日カイルの恋人が部屋にいなければ、あそこまでカイルが怒ることもなかったように思う。私もカイルも間の悪さに慌ててしまい最悪の事態を招いてしまった。



 カイルとの再会で前世を思い出した私は、ショックで三日ほど寝込んでしまい家族に心配をかけた。


「カイルを見てのぼせてしまって寝込むだなんて、やっぱりリリアナも女の子ね」


 母が楽しそうに笑い、父は苦々しい表情だ。


「カイルはダメだぞ。あれは昔の女を忘れられないから未だにひとりだ」


 昔の女を忘れられない? あの時の女かしら。顔は見ていないけど綺麗な人に違いない。名前は聞いたような気もするけど、叩かれたことがショックで記憶がとんでいる。

 カイルは大人の男になっていた。昔の面影は少しだけしか残っていなかった。あれから十年も経つのだから無理もない。彼と再会したことはショックだけどもう会うことはあまりないはず。今日は十歳の誕生日で特別だったから幼い私がパーティーに出席したけれど、次に夜会に出席するのは六年後だ。その頃には昔の記憶も色あせてしまうだろう。今は思い出したばかりで辛いけど、もう会うこともないのだから大丈夫……。

 私が思ってた通り、その後私がカイルと会うことはなかった。私は今度こそ普通に恋愛をして相思相愛で結婚することを夢見ている。カイルのことは昔の思い出で、今の私とは全く関係のない男だ。だって彼はオジサンで若い私の恋人としては対象外の存在だから。

 それなのに六年後。何故かカイルが婚約者候補として現れた。彼は私に耳打ちした。


「サーシャ、やっと君を見つけたよ。生まれ変わったら一緒になる約束を忘れてないよね」


 カイルの言葉に驚いた私は持っていたグラスを落としてしまった。カイルはどうして私がサーシャの生まれ変わりだとわかったの? それに「生まれ変わったら一緒になろう」だなんて言ってないし、言われてない。私は何か大切なことを忘れているのだろうか。


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