第8話〜恐怖
8月5日の午前0時頃に俺、犬養島久はラーメン食った帰りに大通りを歩いていたら、ありえない光景があった。目の前にいる俺と同じくらいの背丈をした男性がいる。しかし、彼をよく見ると両腕がないのであった。(こいつ…生きてんのかァ?)僅かに疑問を抱きながら、恐る恐る質問してみた。
「おい、なんでこの通りに腕がない死体がゴロゴロ転がってんだァ?」
「おい、お前」と言わなくたって、この通りには2人しかいないので、お前は省いたらしい。そこで、俺は余計な口を突っ込んでしまったのだ。
「死体とお前の共通点は腕がねェじゃねーか。もしかして、てめーが全部やったのかァ?」
俺は、この光景を作り出したのは目の前にいるアイツだと少し疑っていたのだ。その言葉を発して数秒後に目の前のアイツの顔が急に怖くなり、顔をまっすぐこっちに向けてきた。それとほぼ同時にこっちに大きく口を開けて襲ってきた。
(こいつ、バカなんじゃねーの?俺に勝てると思ったら大間違いだぜ…)
俺は手から炎を出して、それを目の前のアイツに投げつけた。普通の人間あるいはミュータンツなら、それに触れた瞬間に相手の体は炎上する。そして、重症の火傷を負うのだ。だが、目の前のアイツはそれにも関わらず、その炎を大きく広げた口で噛り付いた。そして、その瞬間炎は木っ端微塵に砕け散って何もなくなったのだ。俺はまさかこうなるとは思ってもいなかったので、その場で少し立ち竦んでいた。ふと、気がついたら、アイツと俺の距離はほんの少ししかなかった。「逃げよう」と考えた時はもう遅かった。右肩を少し齧られていたのだ。
「な、な、なんなんだよお前はァ〜!」
自分も負けじと、次は手から手榴弾を出して、紐を抜いてそれをアイツに投げつけた。しかも、アイツとはまた、10メートル程離れていて、おまけに手榴弾も見事にアイツの口に入った。しかし、右手で投げた為、相当肩が痛かった。次でも生き残っていたら、完全敗北すると考えてもいた。とにかくこの時は(アイツはめっちゃ強い)と考えていた。そうこう考えていたら、手榴弾が爆発する時間になった。しかし、爆発はしなかった。それから数秒後にアイツの口から、バラバラになった鉄屑が吐かれた。手榴弾を噛み砕いて鉄屑にしたらしい。俺はまたもや困惑してしまった。(なぜアイツには俺の攻撃で無傷なんだ…今までやりあったやつも大体は3回程攻撃すれば息の根は逝ってた筈…でも、強力な攻撃2つも食らわして、なぜ、なぜ無傷なんだよアイツ…!)気がついたらもう、アイツはこっちに向かって全力疾走してた。またやられまいと、とうとう俺はアイツから逃げようと歩道の方から、車道の方へと跳んだ。アイツは少し遅れて、俺と同じ車道の方へ来た。アイツも走り過ぎて、少しばかし疲れているようだ。
「ふん。俺を殺すまで返そうとしないって訳か…。」
ワザとアイツに聞こえるような大きさで言った。しかし、まるで聞いてないかのように、またもやこっちに全力疾走して口を大きく広げて来た。次の一撃食らったら、周りに転がってる愉快なオブジェになると恐れて、逃げる事を考えた。アイツとの距離が3メートルくらいになった時「お前じゃ俺には届きはしねーよ」と一言呟いて、近くにあった車を殴った。車を殴った瞬間、大爆発を起こした。それと同時に黒煙がもくもくと上がった。俺はアイツの視界が遮られてる間急いで逃げようとしたのだ。とにかく、「死にたくない」とずっとそう思っていたのだ。そう思いながら、とりあえず外堀通りからは抜けようとした。やっと通りを抜けて、白山通りの方へ出た。空に頼まれたお使いを思い出して、コンビニに寄ってから、家に帰った。
「ただいまーっと」
そう言っても誰も返事をしてくれないし、廊下の電気も消えていた。まぁ、0時半なら寝ていてもおかしくないと思っていた。リビングに入って行ったら電気はついていた。萩谷がいたのだ。
「おかえりなさい」
「なんでまだいるんだよ」
萩谷はお手伝いだから、帰ってもいいのだ。
「あなたが帰ってこないからよ」
「俺は昨日もこのくらいまで外に行ってた筈だけど…」
「違う、あの2人が心配してたよ。あなたが帰ってこないのを…」
「………」
ふと気がついたら彼の右肩に少し深めの傷があるのを見つけた。
「どうしたの?それ」
「あー。少しやらかした。」
余計な心配をかけさせたくないため、そう答えたのだ。
「そう…。伝えたいこと、伝えたしあたしは帰るね」
「そうだな。あ、そうだこれだけは絶対に覚えとけよ。絶対に外堀通りには行くなよ。さっき見に行ったら死体がゴロゴロしてたから。」
「えぇー。じゃあどうやって帰ればいいのですか?」
萩谷は総武線の水道橋駅を使ってるから、必ず外堀通りを通らなくてはいけないのだ。
「飯田橋でしょ?家あるの。だったら、タクシー?あるいは、後楽園から南北線。簡単じゃん」
「ありがとう」
そう言って、萩谷は家を出て行った。とりあえず、パジャマに着替え歯を磨いた。それから、寝室を見に行った。2人は健やかに眠っていた。(絶対に俺はお前達だけでも、アイツから守ってやる。だから…少し待ってろよ…俺がアイツを倒すまで、3人でいれなくてごめんよ…)そう思って2人をしばらく見たら、「おやすみ」と呟いて寝室のドアを閉じた。