第7話〜落胆
あの人工衛星『プロテクター』が深く関わってきた『東京破壊計画』の廃止から二週間後の8月4日、未だに俺の兄貴は俺の前に姿を現していないのだ。結局あの日、俺達が『東京破壊計画』を中止した日、15分経っても兄貴は帰って来なかった為、俺は「とりあえず計画は中止されたし…」と思い地表まで戻ってきた。それからしばらく普通の生活をして、今日、そろそろ俺の前に姿を現してもいい、と思った俺は17時頃
「少し、コンビニ行ってくるから、何か買って欲しい物あるか?」
「んじゃぁキシリトールとインスタントスープを買って来て!」
あの事件で俺が無事に帰って来てから、空も早希も元気である。
「分かった。あと、もしかしたら用事が出来て遅くなるかもしんないから、そうだったら、適当に出前か何か好きに食っといてくれるか?多分、金は萩谷が出してくれるから…」
「うん……分かったよ。」
「んじゃ行ってくるから。」
「行ってらっしゃい。」
家のドアはパタンと閉じて静かになった。すると、二人は話し始めた。
「今日も、外出してるね。」
早希が言った。実はここ3日間くらい島久はこのくらいの時間に外出しているのだ。
「大丈夫かな?私達見に行った方がいいのかな?」
「行ってどうなるのよ?島久君はね、今お兄さんが死んだかもしれないという彼自身しか分からない悲しい気持ちに晒されてるのよ?悲しいけど私達には多分何も出来ないんだよ…」
早希は説得させられて、真面目な顔をした。
「あたしね、彼にとても貸しがあるんだよ。私達は彼の家に今でもこうして住まわせてもらってるし、私が無駄に彼を心配して暗部と戦ってるところ見ても、何も出来なくて、結局彼に助けてもらったんだよ。だからいつかは返さなければいけない。でも、今は無理みたいね…」
俺は兄貴のいる可能性のある場所を徹底的に探し回った。例の銭湯に、インターネットカフェに、廃ビルを探した。とにかくひたすら探して、気がついたら、日比谷の方まで来てしまっていた。時計を見たらもうすぐ12時になる所だった。俺は早く家に帰らねばと思いスキルを使って、背中から黒い翼を生やして水道橋の辺りまで戻ってきた。家に帰ろうとしたが、ふと俺のお腹が鳴ってしまった。仕方ないから例のラーメン屋で適当に夜食を食おうとした。それにしても何故か分からないけど、妙に通りが静かであったのだ。とりあえずラーメン屋に真っ直ぐに行って、扉をノックした。
「ラストオーダーはもう過ぎましたよ」
「すまん、俺だ…何にも食べてないから何か与えてくれー」
「何だい島かい…仕方ないから入っていいぞ」
俺はいつもの豚骨ラーメンを急いで食べた。汁を全部飲んだら水を1杯飲んで亀山と話をした。
「俺の兄貴を見たか?」
「お前、まだ探しているのか…まだ見つかってないんか?」
「見つかってないから質問してるんだよ…」
「そうだよな…あのプロテクターの事件からか…」
亀山の顔が急に引き締まった。この顔は何か知ってるけどためらってる時の顔である。長い付き合いだからすぐ分かるのだ。
「何か隠してるよな…俺に」
「あぁ、でも、聞くとショックを受けるぞ、本当に聞くのか?」
「是非とも聞きたい。」
「プロテクターの事件の首謀していたダークマターっていただろ?」
「あぁ…」
「あの事件が終わってから俺は色々調べたんだ。あのダークマター、あの事件の時お前は全員を確かミンチにしてたよな?」
「あぁ、一人残らずなぁ」
「……あれで全部じゃねぇんだよ」
「え?」
俺はもう生きてる雰囲気をしてない顔をした。
「ダークマターは有り得ないくらい大きい暗部なんだ。お前が殺したのはそれのほんの僅かだ。」
俺はありえない、ありえないありえないありえない…とひたすら考えた。
「ダークマターのボスって言うのは存在してるのか?」
亀山は暗い顔をして
「あぁ、残念だけどまだ生きてる…」
俺は話を聞いてすぐに店から出た。
(最悪だ…ここ最近。何でだァ?これ?プロテクターをぶッ壊したッて思ったら兄貴は失踪するし、おまけにあの事件を首謀してるダークマターのクソ野郎共もまだ生きてるだとォ?更にボスも生きてるんだっけかァ?ヘヘヘヘおいおい、何だ?この酷いのは?本当にありえねェよ)
俺は下を向いてトボトボと家に真っ直ぐ帰ろうとした。待て、そういえばお使い頼まれてたんだっけ?コンビニ寄らねェとな…。俺は外堀通りに出た。それにしてもありえないくらい道路が静かである。何でだ?って思いながら歩いていくと足に何かつっかえた。下を向いたら、人が倒れてる。しかもよく見たら、血がついてる。更によく見たら両腕が切り落とされている。このくらいの変質者はよく街で見かけるが、よくよく周りを見渡すと同じようなのが数多もあったのである。
「な、な、何じャこりャアアア⁉︎」
ここの通りで一体何があったのか誰かに聞きたかった。しかし誰もいない…と思ったが、前を向いたら15メートル程向こうに人が立ってるではないか。俺は「ここで何があったか知ってるかァ?」って聞きたかったが、彼をよく見たらもっとヤバかった。
彼の両腕が無いのだ…