Dear Riku 05
その映像には、白い壁と明るいグリーンのふたりがけのソファが映り込んでいる。
置いてあるふたつのクッションは白地に花の模様がプリントされていて、小夜の持っている鞄に少し似ていた。
ソファの前にあるテーブルにはアイスティーが置かれていて、氷が溶けてカランと涼しげな音を立てる。
主役のいない画面の中に一瞬指が映り、角度を調整してから小夜がソファに座る様子を捉えていた。
『すごく悩んだんだけど、ようやく決まったよ』
画面の中の小夜は、政治の声明文でも出すような真剣な顔をしている。
明らかにビデオカメラの向こうにいる誰かに話しかけていた。
『難しいのにしようかなとも思ったんだけど、きみが簡単に思いつけるくらいのものじゃないと意味がないなって気づいて。意地悪して、答えられるはずなのに間違えちゃったら笑えないもんね』
先ほどの真剣な表情とは一転して、小夜がはにかむ。
親しげに。
『じゃあ、準備はいい?』
小夜のほうがよほど準備ができていないような、そわそわした雰囲気が伝わってくる。
案の定、息を吸い込んだところで待ったが入った。
『ちょっとだけ休憩しよう』
置いてあったアイスティーに手を伸ばそうとし、指がグラスを弾く。
倒れはしなかったものの、勢いよくグラスを掴んだものだから、アイスティーが大きく波打ちテーブルを濡らした。
『ああ~……あ! カメラ!』
慌てたように近寄る小夜の身体が映り込んだかと思うと、手のひらのアップを映したままガシャン、と倒れるグラスの音が入った。
『つめた!』
せっかく倒さずに済んでいたグラスを、倒してしまったらしい。
カメラが高い視点に置かれ、まんまるの白いランプシェードを映す。
レース編みになっているのか、電気をつけていなくても透けいて美しかった。
しばらくテーブルを拭く音が続いたあと、ようやくカメラの視点が元に戻る。
小夜は先ほどまで着ていた白いスカートではなく、淡いブルーのスカートに着替えていた。
白いスカートは今頃紅茶の染み抜きをされているのだろう。
『ダメだね、緊張しちゃうと』
言い訳のように呟き、カメラをまっすぐに見つめる。
『……来年の八月二十二日は、何をしてる?』
質問のあと、小夜の視線が右斜め上に向けられた。
何かを待つようにじっとそこを見つめたまま動かない。
一分もしないほどの時間が経ったあと、視線が戻る。
『答えは、言わない。言わなくても、きみはわかってるよね?』
どこかさみしげな微笑みを浮かべたあと、画面が暗くなった。