Dear Riku 03
『ちゃんと言ってあったか忘れちゃったんだけど』
映像はそんな小夜の言葉で始まっていた。
画面が少し暗く、小夜の顔が見えにくい。
背景から大学の教室の中だとわかるが、電気をつけていないのだろう。
『何回も見直すことは想定してないのね? 私も見返したりはしないつもりだし』
何かを思い出しているのか、明らかに表情には失敗したなーという苦いものが浮かんでいた。
その顔を映したくないから、わざと電気をつけていないのかもしれない。
『大丈夫だよね? きみは頭がいいから一回で覚えちゃったでしょ?』
腕組みをし、小さく唸る。
『あれかな。注意書きみたいなの入れたほうがいいのかな。でもそうすると撮り直しになって編集しなきゃだし……うん、諦めよう』
小夜はパッと腕を解くと、画面に向かってビシッと指を突き立てる。
『一回でがんばって覚えて。大丈夫、きみならできる!』
胡散臭い教材の宣伝のようなことを言ってから、ごほんと咳払いをひとつ。
『……もしも本当に忘れちゃったら、見直してもいいよ』
そういうこともあるよね、と目が伏せられる。
大きな瞳を縁取る長い睫毛が、頬に影を落とした。
数秒の静かな時間が過ぎたあと、小夜が再び目を上げる。
『じゃあ、質問です。……【夜空天文台】は、どこにある?』
ささやくような美しい声で言って、小夜は笑った。




