Dear Riku 04
真っ暗な画面の中に、小さく白い点が映っている。
徐々にズームされ、それが月なのだということがかろうじてわかってくるが、ビデオの性能的にはっきりと月の模様が見えるまでには至らない。
『ホームビデオだとこれが限界かー……』
小夜の呟きが聞こえた。
『久しぶりのお天気だからと思って撮ってみたけど、お月さまを撮るにはきみのカメラのほうが向いてたね』
カメラの視点がぐるりと動き、小夜のシルエットを映す。
月明かりはあるものの、背にしているせいで顔はまるで見えなかった。
『暗いかな? 声は入ってると思うんだけど……』
何かを調整するようにまた画面が動く。
しばらくすると画面が明るくなった。
自動販売機が映っている。
『ここならよく見える? あ、ここの炭酸水買う時は気をつけて! これ買うとね、オレンジジュース出てくるからね。とんでもない詐欺だよ!』
以前買ってしまったことがあるのだろう。
自販機のジュースの並びを丁寧に順番に映し、問題の炭酸水のところでズームまでしてみせる。
技術の無駄遣いとはこのことだ。
『オレンジジュースも嫌いじゃないけど、予告くらいしてくれないと』
説教でもするようにじっくり自販機を映してから、小夜の顔が映り込む。
『せっかくだからジュースの話にしようかな。……スキキライゲームで、私が絶賛したジュースがあります。でもそれは、どこにも売っていないもの、だったよね?』
カメラが引きアングルになり、小夜の顔を映した。
自販機の明かりを背にしているからか、小夜自身が光を発しているかのように、ぼんやりと白く見える。
これで背中に羽でも生えていれば、天使のようだ。
『それは、一体何味だったでしょう?』
ヒントのひとつもなしに、小夜は笑う。
思い出を噛み締めるように静かな瞳で、ひとり、笑っていた。




