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シェルターの中は結構要り組んでいるのだけど、何故かタコは真っ直ぐ中央の広場に向かっていた。
大体シェルターは中心が大きな広場になっている事が多い、何だか嫌な予感がするけどもう後には戻れない、今のキャンディにそんな事を言っても聞いてはくれないだろう。
精々俺に出来る事と言ったら不意打ちを受けないよう辺りを警戒する事位だ、今の目の状態はちょっと頼りないけど。
「あ、見つけたよタコ!」
俺達がタコを見つけたのは広場に着いてからだった、タコは小さく跳ねながら進んでいる。あまり速そうでは無いけど、見逃しが無いようにとゆっくり来たせいかもしれない。
キャンディは広場の中央を目指して進むタコを追いかけて行った、俺も追いかけようとしたところ近くに水滴が落ちた事た。広場は中央の辺りの天井が崩れているだけだ、少なくとも外からはそう見えた筈なのに上から水滴が落ちてきた。
「詰まり、上!?」
俺は屋根が残っている筈の天井を見る。てっきり俺の真上、丁度死角になる位置にいるのかと思ったけど、見たところ何かいる気配は無い。
「啓介、どうしたの急に叫び出して」
「いや、何でもない、気にしなくて良い」
キャンディは今度は逃がさないとばかりにタコのラトロケルと鬼ごっこに戻る、まあタコの方は捕まったら調理される死の鬼ごっこだろうけど。
トンボの時は物凄い数が襲ってきたけど、こっちのタコのラトロケルはあの一匹だけだし、たまたま小さいのが群れからはぐれて一匹、シェルターに迷い混んだだけかも知れないな。
「キャンディ、俺見てるから頑張ってなー」
「解った、私が華麗にこのタコを捕まえて見せるから、そこでゆっくり寛いでると良いよ」
「じゃあそうするわー、ん? なんであんな所に警備用の大型パワードスーツが有るんだ?」
キャンディとタコの鬼ごっこに何処からか落ちてきた謎の水滴に気を取られたけど、この広場色々とおかしい。
先ずシェルターの中に大型パワードスーツがある事だ、このシェルターが捨てられる時に一緒に捨てたのかも知れないけど変だ、このシェルターと大型パワードスーツの年代が合わない。
それにシェルターは朽ちて天井が落ちるほど時間が経っているのに、あの大型パワードスーツはまだ動きそうな気配すらある、それに何かを叩きつけれた様に機体の一部が潰れていた。
しかし大型パワードスーツは高さ十メートル程あり、回収が大変と言っても値段はかなり高い、ちょっと壊れた位で捨てるのはありえないと思うのだが。
そんな時、もう一度早急と同じように水滴が垂れてくる、今度の俺は違和感の代わりに冷や汗が垂れてきた。
「そう言えば、タコは擬態能力が合ったよな」
思い出したくない事実、でも本当の事ならあのタコに俺達はおびき寄せられたことになる。
俺の予想がどうか外れてくれと考えながら、改めて天井を見上げる先程は目がはっきりと見えなかったせいで解らなかったけど、今度は注意して見て見ると解った、天井が少しだけ膨らんでいることに。
「ヤバいな」
俺がそう一言漏らした瞬間、天井の色が一気に変わる。ものすごい数の恐らくはタコが巨大な天井にひしめいている、あまりのタコの数に元々天井がそういう模様と言われたら気づかないくらいだ。
天井から一匹のタコが落ちてくる、ヌメヌメしているからかぬれた雑巾を床に落としたような音がする。一匹が落ちたのを皮切りに次々とタコが天井から落ちてくる、そしてその中心にいた一際でかい、二十メートル位ある巨大ダコが天井から落ちてこようとする。
俺もただ黙ってその光景を眺めている訳がない。俺は今だにタコと戯れているキャンディに向かって走っていく、キャンディに十分に近づいたところで走る勢いそのまま仰向けにスライディングをキャンディに向かって放つ。
「スラーイディングッ」
「痛っ」
俺の放ったスライディングはキャンディの足に直撃する、バランスを崩したキャンディは俺の上に乗っかる。キャンディをしっかりとキャッチしたのを確かめてから俺は背中に鱗を出現させる、ただし今回は触った物をずたずたにさせる鋭利な鱗では無くツルツルの滑らかな鱗。
このツルツルの鱗によって勢いを殺す事無く俺はボブスレーのそりのように滑って行く。目指すは大型パワードスーツ、タコと戦うにしてもキャンディを避難させる事は重要だからな。それにあの大型パワードスーツは動きそうだし、あれに乗って此処を脱出するどころかシェルターまで行けるだろう。
「ホウッ」
「もう、今度は何なのよおー」
自分自身でも驚くほどよく滑った俺の体はあっという間に大型パワードスーツまでたどり着く、俺は大型パワードスーツにぶつかる前に踵に鱗を出現させて地面に引っ掛ける、すると俺の体は滑った勢いの力を利用して起き上がる。
「シュワッタ」
「うっ」
俺はコックピットまで一気に跳んで中にキャンディを放りこむ、キャンディはベチャっと音を立てて座席と衝突する、動かなくなったけど怪我は無いようだし大丈夫だろう。こういうのはスピードが命だからな。
コックピットの中は操縦席とレバー各種タッチパネルの付いた、旧式だが一般的に使われるタイプの物だった。コックピットは狭さを感じない位は広さがあって二人位なら入っても全然大丈夫だ。
タコ達は俺の早業に付いてこれず呆気にとられてるように動かなかったが、俺がコックピットの中に入ったところで漸くタコ達は動き出して襲ってくる、数が多すぎて津波みたいに見えるな。
「ざまあみろ、タコどもまだトンボのほうが驚いたぜ」
タコを馬鹿にしてから大型パワードスーツで颯爽と脱出しようと、ハッチを閉めるスイッチを押すが何故か反応しない。
「あれ、おかしいな? ハッチが閉まらない」
何回やっても駄目だった、仕方が無いので俺は開いてるハッチに手を掛け手に力を込める。
「フウゥッン!」
腕に鱗が現れて重いハッチも軽く感じる、閉まらないハッチを無理やり閉めるとどうやら錆びていたようで甲高い音が響く。
ハッチを閉め終えた俺はぐったりとしているキャンディを起こそうと頬を叩く。
「キャンディー、大丈夫か」
「ううん、はっ、此処は」
「おっ、目が覚めたか」
頭を抱えながら起き上がったキャンディの表情がみるみる変わっていく、真っ赤になった怖い顔で俺を睨み付けて。
「む~、ひどいよ啓介! いきなりあんな事して危ないじゃない」
「しかた無いだろ、あの時はあれが一番確実だったんだから」
あの時にゆっくりとしていたら、それこそ危ないじゃすまない事態になってたかも知れないんだから。
今にも飛び付いてきそうなキャンディを手で抑えて落ち着かせる、しかしキャンディは怒ったままだ。
「なにが一番確実なの、いきなりスライディングしてきただけじゃん」
もしかしてキャンディはタコの大群に気づいて無いのか、それならこの反応も頷けるな。なら俺がスライディングした事について納得してもらえば良い。
俺はハッチに手を掛ける、キャンディは頭にハテナマークを浮かべているが直ぐに分かってくれるだろう。
「いいかキャンディ、俺がスライディングしたのは只の嫌がらせじゃない」
ハッチに掛けていた手に力を込めて少しだけハッチを開く、錆が落ちたのか今度は楽に開く事ができた、するとハッチの隙間から大量のタコ足が入ってくる。
「恐らく、この機体は今タコまみれになっている、さっき逃げなければキャンディがタコまみれになっていた筈だ」
ハッチを閉めると千切れたタコ足がコックピットの無いに落ちる、それを見たキャンディの顔色は信号位の真っ赤から真っ青に変化する。口もパクパクさせて言葉を失っている。
「一体何があったの、啓介」
「天井に大量のタコが張り付いてたよキャンディ」
「大量?」
「ああ、もうタコの中に機体が埋まる位は最低でもいたな」
タコの数が想像以上だったのかキャンディは開いた口が塞がらないようだ、俺はそんなキャンディを安心させる様に此処に逃げ込んだ理由を説明する。
「キャンディ、俺は意味も無くこんな所に逃げ込まないよ」
「こんな所?」
今まで此処が何処なのか分かっていなかったのだろうか、キャンディは周りを見回して漸く此処が何処か気づいたらしい。
「もしかして、このパワードスーツで逃げるの?」
「その通り、と言ってもそれだけじゃない、このままシェルターへこれに乗って行けるからでもある」
「なるほど~、頭良いね啓介」
よせよ、照れるだろ。ハッチの前の小さなスペースにいた俺はキャンディに退いてもらい、操縦席に座りパワードスーツを動かそうとする。
「ちょっと退いてくれよなキャンディ」
「啓介、パワードスーツの操縦も出来るんだね。今更聞くのもあれだけど何で啓介はそんな事出来るの? トンボの時も常人とは思えない動きしてたけど」
操縦席の後ろに有るスペース退いたキャンディが頭だけ前に出してそんな事を聞いてくる。