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空は気分が下がる曇り、回りは崩れたビル、崩れかけたビルで埋め尽くされた中の、ひび割れが酷いアスファルトで出来た道路を俺は歩いていた。
俺は気がついたら此処に居た、けど此処が何処か分からない訳じゃない。
問題は俺が此処にいる理由と今いる場所だ、此処にいる理由は皆目見当がつかないけど。
何でだ? 俺が今いるのは人類がとっくの昔に捨てた街だ、これは学校の授業で嫌と言うほど聞かされた事だからまちがいない。
何故人類がこの街を捨てたかと言うと、理由は簡単だ単純に住めなくなったからだ。そして住めなくなった理由と今の状況は思いっきり矛盾していると言える。
それは何故かと言えば住めなくなった理由が汚染だから、汚染がどれ程の物かと言えば専用のスーツを着なければ生きられないほど。
汚染は空気が汚れたせいで起きていると言われている、そのため視界が悪くなる筈なのに今の俺には遠くの景色がはっきり見えている。
この時点でおかしいと言うか、そもそも俺が生きているのがおかしい。
「すー……はー」
試しに深呼吸してみる、しかし苦しく感じる訳でもなければ肺がチクチクする感覚も無い。
此処で俺に何が起きたのか考える訳だ、思い付く可能性は幾つかある。
一つ目は、実は汚染何か起きて無くてシェルターの外でも普通に生活出来る。俺はこれが一番可能性としては高いと思う。二つ目、今いる場所がたまたま汚染が及んでいない場所と言うだけ。これも何で俺が此処にいるのかと言う疑問が残る、まあそれは全ての可能性に言える事だけど。三つ目は、気づかない内に汚染を物ともしない超パワーを手に入れた、これは幾らなんでも夢を見すぎだと思う気もするが。
「結局、ただ考えてるだけじゃ答えは出ないんだけどね」
俺はそう言って思考を切り上げる、兎に角ここから移動して見ない事には何も始まらない。でも二つ目の可能性が当たっていたら此処でゲームオーバーだけど、此処で来るかも分からない助けを一人で待つよりはマシだしね。
「願う事なら一つ目か三つ目の可能性であって欲しいよ」
幸いな事に小中高の授業でシェルターのある場所は教えられているから、今いる場所の住所が解れば自力でシェルターに帰るのも不可能じゃ無い。
暫く歩いて見た結果、今いる地点から近くにシェルターがある事が分かった。
「やっぱり、勉強って大事だな。いつ役に立つか分からないもん」
それでも、近くとは言っても結構な距離があるし何より一番心配なのはラトロケルの存在だ、授業で聞いただけだけど元々外に住んでいた生き物が凶悪に進化した生き物らしい。
このタイミングでラトロケルに襲われたら即刻あの世行き何でこんな所に居たのか、とかの疑問が残って杭を残しまくったままになって、成仏出来る気がしない。
「でも、誰もいないし、ラトロケルも影も形も無いから大丈夫だろ」
フラグを建てちゃったと思ったけど、突然影から襲われる様なイベントは特に起きず。
順調にシェルターへの道を進んで居た所、少し休憩でもしようかと瓦礫の山に腰を下ろそうとしたときだ。
胴体が俺の腕程の大きさがあろうかと言う一匹の大きなトンボが、俺に向かって飛んでくるでは無いか。
「ブブブブーーーン」
只のトンボなら絶対に出せないような羽音出しながら、トンボは俺を狙って上空から急降下してくる。
「うわあああああ」
俺は盛大に取り乱して瓦礫の山から滑り落ちる。しかし落ちる途中で逃げなければと言う思いから、体勢を建て直し落ちる勢いを殺す事無くスタートダッシュを切る。
「ハハハ、たかが虫っころが俺を捕まえる事など不可能なのさ」
「ブーーーン」
俺が煽った所で切れる訳でも無く、虫は本能に従って俺を追いかける。
だが俺も本能の逃げろ、その声に従って非常に綺麗なフォーム、詰まりマラソン走りでトンボを寄せ付けない。
その上俺は闇雲に只逃げている訳じゃない、シェルターただ一つの目的地を目指しているのだ。
「ククク、ハーハッハッハハー」
このペースならば俺がシェルターに先につく、バカなトンボよ自分の努力が全て無駄になるとも知らずに、笑いが込み上げてくるよ。
「しかし頭が重いなあ……な、何!?」
「ブンッ」
俺が頭の上の違和感に気づいて上を見たとき、俺の目に写ったのは、羽も入れたらラジコン飛行機位の大きさのトンボが俺の頭に張り付いてる光景だった。
トンボは俺の頭をかじろうとしてやがる、それに俺がトンボの存在に気づくまで待ってやがった。
「人様をおちょくりやがって、このトンボごときが」
人様を舐めるとどうなるか教えて殺る! 俺は先ずトンボが頭をかじるのを妨害するため激しく頭を左右に振る、これで飛びたって逃げるのも防ぐことが出来る。
トンボが足を離さない内に俺は更に速度を上げ、すかさずジャンプ! 俺は空中で一回転して頭の上のトンボを地面に叩きつける。
「ハアッ!」
「ギュッビィ」
流石にバラバラにはならなかったけど、ひっくり返ったままブルブル痙攣してるし危機は脱したと言えるだろう。
その時俺の目に早急のトンボがよってたかって一人の女の子を襲っているのを見つける、俺は何故女の子が此処に、なんて言うどうでも良い考案は最初からせず、女の子を助けに向かう。
「今、助けるからな、ウォオオポオッ」
トンボの数は面倒臭いから数えていないけど沢山、このままでは女の子はトンボの餌になってしまうだろう、けどこのままいけば余裕で間に合うから大丈夫だ。
俺は最初に目についたトンボに向かってジャンプ、空中で体を捻り地面と平行になりながら横回転しそのまま蹴りを放つ。
「ホゥワッチャァア」
「ギョペイ」
トンボは俺の放った高速の蹴りを避けることも出来ずにもろに食らう、俺のジャンプと横回転のエネルギーがこもった蹴りを受けたトンボは、他のトンボを何匹か巻き込みながら吹っ飛んでいく。
「フ、所詮はトンボ。でかくなったところで俺に勝てる道理はーー」
そこまで言った所で俺は言葉に詰まる、何故なら目の前に俺の知ってるヘリコプターよりも、二回り程大きいトンボがやってきたからだ。
「ボボボボボ、キシュアアアアア」
あまりの風圧に飛んでいたトンボ達は何処かに吹き飛ばされてしまっている。まあ俺も吹き飛ばされそうになったが。トンボが来た瞬間に素早く地面に気をつけの格好で張り付き、極限まで空気抵抗を減らす事で事無きを得ようとしたけども、女の子が吹き飛ばされてしまった。
「しまったっ!」
このままでは女の子は地面に叩きつけられて大怪我をしてしまう、だが俺は焦る事無く風圧と女の子の距離を計算して女の子に向かって跳ねる。
「ポウッ」
女の子に向かって跳ねた俺の体勢は、膝を抱えた状態で横回転していた。膝を抱えて体を丸める事により風圧によって体を吹き飛ばされるのを防ぎ、さらに横回転する事により進行方向が風によってぶれるのを防ぐ効果もあるのだ!
「完璧だ」
俺は女の子に向かって一直線に回転しながら向かっていく。そして女の子とぶつかるその瞬間、俺は体を大の字に勢い良く開く。これにより空気抵抗を受けやすい形となった俺はトンボの放つ凄まじい風を受けて一気に減速する。
華麗に女の子との衝突を防いだ俺は空中で女の子をキャッチそのまま縦に一回転して建物の陰に着地する、一連の動作は五秒以内に終わらせた。
先程の巨大トンボは地面に降りた後、俺と女の子を捜しているようだった。見つかればただじゃすまないが、俺は巨大トンボに見つかる前に女の子を抱えてビルの中に滑り込む事で事なきを得る。ビルの中は正面入り口がガラス張りでホールが吹き抜けになっていた、しかしこのままホールに居ては巨大トンボに見つかってしまう。
俺は巨大トンボに見つからない様にホールの奥詰まり階段階段を目指して走っていくと、何時までも見つからない俺達を炙り出す為にトンボは羽を羽ばたかせ突風を起こす。当然ビルの中にも凄まじい風が吹き荒れて、俺達を吹き飛ばすが。
「ヘアッ!」
俺は空中で体勢を建て直して壁を蹴り、突風の力を利用して二階を飛ばして三階に着地した。ここまで来れば流石に見つかる事は無いだろうが、小さいトンボに見つかる可能性はある。だから俺は手近な部屋を見つけてドアを蹴り破った。結構な大きさがあったけど時間が経って脆くなっていたのか、蹴り飛ばしたドアは反対側の窓ガラスを突き破り下に落ちていった。
ガラスの砕ける音と扉が落下して壊れる音が響いたが、トンボには見つからなかったから良しとしよう。
「でも、少しやり過ぎちゃったかな」
それは一旦置いておいて今気にするべき事は女の子の安否だ、どうやら気絶している様で何の反応も無い。
目立つ外傷は特に無いから尚更心配なのだ、兎に角、起きて貰わなければ逃げるに逃げられない。俺はこのまま女の子を運んだ状態でも、あの小さいトンボからは逃げられる、けどあの巨大なトンボからとなると一気に厳しくなる。
「おい、起きてくれ、このままだとトンボの餌になっちゃうぞ」
女の子を床に寝かせて起こそうとしたこのタイミングで俺は女の子の顔をはっきりと見た、ただただ真っ白で綺麗な白髪していて、髪型はロングで腰くらいまであるでも何でか髪が濡れていてベチャッっとしている、肌も髪に勝るとも劣らないほど白かった。そして何よりビックリするほど顔が整ってる、もう道行く十人聞いたら全員が美少女と言うんじゃ無いかと思うほどだ。
でも何故か服を着ていないで代わりに布一枚を纏っていた、年は俺より一つか二つ位下の十三から十四位だろうか。
「ふむ」
暫く寝かせていると、女の子はゆっくりと目を開いた、目はルビーの様に真っ赤。髪と肌で何となく予想していたけど女の子はアルビノだった様だ。