表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/25

2-4

 簾舞ナタオの供述によると、彼と盤尻キトシの二人は米の非正規取引――いわゆる闇米に手を出していたらしい。

 ここ数年、米は豊作が続いている。

 米価の値崩れを防ぐため〈グノーシス〉は米の流通を厳しく制限。余剰米の廃棄を生産者農家に命じた。

 しかし、農家の皆さんにしてみれば丹精込めた米を簡単に捨てることはできない。

 倉庫には行き場を失った米が眠っている。その大量の備蓄米を二人は横流ししていたというわけだ。 


 取引相手は主に海外からの密輸業者。

 海外では多くの国が政情不安な状態にあり、食糧不足の状態にある。

 米の代金として受け取るのは、国内では販売が禁じられている銃火器である。

 殺害に使った武器も密輸業者から買ったものだそうだ。

 余った米を売りつける一方、中古の銃火器を大量に買い付け国内のブラックマーケットで売りさばく。

 需要と供給が見事に合致したこの密貿易は面白いほどよく儲かる。

 本業である米の先物取引よりも儲かった、と簾舞ナタオは自慢げに語った。

 鎖国体制を敷いているが、海外との行き来は不可能と言うわけではないらしい。

 海洋国家であるこの国では、国境は全て海で覆われている。

 広大な大海原の全てを監視することは〈グノーシス〉を以てしても不可能だ。

 監視網を突破し、密輸品を持ち込む密輸業者は後を絶たない。

 今日も丁度、取引が行われているらしい。

 その取引に便乗して、盤尻キトシは国外逃亡を図るつもりなのだろう。


 簾舞ナタオから情報を聞き出したぼくたちは、密輸取引が行われているという沿岸部に向かった。

 供述通り、砂浜には密輸業者と思しき一団がいた。

 砂浜に乗り上げた小型ボートから荷物を運び出す戦闘服姿の男たちが見える。簾舞の供述から察するに、四角いコンテナの中にはぎっしりと武器が詰まっているのだろう。

 ひとまとめに置かれたコンテナの横には盤尻キトシの乗っていた赤いスポーツカーが停車していた。

 姿は確認できないが、盤尻キトシもこの砂浜に居るに違いない。


 沖合には一隻の船が停泊していた。

 密輸品を運んできた母船なのだろう。

 外洋航海に耐えうるだけの船体の甲板には監視網から身を隠すための電子装置と、機関砲が備え付けられていた。

 

「ガンボートじゃねぇか」

 

 衛星から送られて来た映像を見て、手稲マルトが悲鳴のような声をあげる。

 彼の言う通り、停泊している船は小型艇ではあるが、れっきとした軍用船だった。


「冗談じゃねぇ! あんなのとやり合おうって言うのか? 近づいただけでハチの巣にされちまうよ」

「落ち着け、音標」


 慌てふためくマルトとは対照的に、比羅夫オシノは至って冷静だった。

 モニターに映る映像を見つめ、密輸組織の戦力を分析する。


「どこかの国の軍隊から買い取った払下げ品だろう。とっくに耐用年数を超えている、かなり古いタイプだ。弾もまともに発射できるかどうかも怪しいポンコツだ。こいつは大した戦力にはならんだろう。問題は乗組員だ。ポンコツ船に乗って海を越えてやって来るだけのガッツと、監視網を潜り抜ける技を持っている。正式の訓練を受けた元軍人、それも特殊部隊出身だろう。長留内、あの船の所属はわかるか?」

「〈グノーシス〉の照会によると、コムソモール共和国所属の小型艦艇だそうよ」

「聞いたことのない国ね」

「去年勃発したハバロフスク動乱のドサクサに紛れて沿海州連合から独立した国の一つだ」


 眉をしかめる馬主来アミコに、オシノが答える。

 武器担当は国際情勢にも詳しいらしい。


「指導者はソビエトの復活を唱えている大馬鹿野郎で、何処の国とも国交を結ばず独裁体制を築いているそうだ。ここら辺は毎年のように国が出来ては消えてゆく。この共産主義国家も、何年持つのやら……」

「で、どうするのかしら。相手は軍人よ。下手に手を出したら、国際問題になるわ」

「かといってこのまま見過ごすわけにも行かん。長留内、〈グノーシス〉に増援の要請をしてくれ。大至急だ」

「〈グノーシス〉から返信。増援は送れない、ですって」

「なんだと?」

「農業試験場の方で事件があったみたい。他の班は全部、そっちの方に行っているみたい。研修班は独力で犯人逮捕、及び密輸組織の摘発を行え、と〈グノーシス〉は言っているわ」

「了解した。音標! 《レイブン》に対地ロケットを。《ブルドッグ》には迫撃弾を装備してくれ。準備にどれくらいかかる?」

「五分もあれば。……本当にやるのか?」

「やるしかないだろう。〈グノーシス〉が指示したということは、現有戦力で対応できると判断したからだ」


 そう言うと、オシノは銃を取って立ち上がる。


「俺と苫務で突入する。苫務、行けるか?」

「うん、いつでもどうぞ」

「音標はここで《レイブン》と《ブルドッグ》の操作を、長留内は〈グノーシス〉と交信しつつ監視と索敵を頼む」

「あたしは何を?」


 てきぱきと指示を出すオシノにアミコが訊ねる。


「何もするな。ここでじっとしていろ」

「冗談でしょう、私も行くわ!」

「言ったはずだぞ。現場では俺の指揮に従え。」

「あたしだって銃ぐらい撃てる。援護ぐらいできるわ! いくらなんでも二人だけってのは無茶よ!」


 アミコに詰め寄られ、オシノは考え直したようだ。

 戦力不足は彼も実感していたのだろう。


「……わかった。馬主来は俺達の援護を頼む。それでは、作戦に取り掛かる」


 §


 ぼくと比羅夫オシノ、馬主来アミコの三人は、密輸業者たちが居る砂浜へと向かった。

 砂浜をのぞむ高台には、身を隠すのにちょうどよいススキの群生地があった。

 そこに身をひそめながら、密輸組織の様子を窺がっていると、衛星を使って索敵を行っているルチエから報告が入る。

 

『こちらには気づいて無いみたいよ。あいつら油断しているみたい』

「だといいんだがな。音標、《レイブン》はどうだ?」

『今離陸した』


 音標の返事と同時、上空に飛行物体が姿を現した。

 無人航空機レイブンだ。

 両翼に対地ロケットランチャーを取り付けた偵察型ドローンは、一直線に沖合に停泊するガンボートに向かって飛んでゆく。


『目標を補足した。これより攻撃に入る』


《レイブン》は射程内に哨戒艦を納めると同時に、対地ロケット弾を発射した。

 艦橋脇にあるレーダードームに命中。爆発柄炎上する。

 

 上空からの奇襲攻撃に、遅ればせながらもガンボートは応戦を始めた。

 弾もまともに発射できるかどうかも怪しい、という比羅夫オシノの予想に反して、機関砲弾は正常に作動していた。

 船体後方にある機関砲を上空に向け発砲。

 伸びる火線が《レイブン》を追う。

 大口径の機関砲弾は命中すれば戦闘機すら叩き落とす威力がある。

 しかしそれはあくまでも、命中率すれば、の話だ。

 先制攻撃で火器管制システムを損傷したガンボートでは、旋回する無人偵察機を撃墜することはできなかった。

 

 旋回を終えた《レイブン》は再び哨戒艦に挑みかかる。

 再び対地ロケット弾を発射。

 炎を上げ機関砲は沈黙した。


《レイブン》に取り付けられたロケット弾は二発。

 弾薬を打ち尽くした偵察ドローンは反転し帰還してゆく。


「よし、俺達もいくぞ! 《ブルドッグ》起動!」

 

 オシノの合図と同時に、傍らに待機していた歩兵支援機動兵器が動き出す。

 歩行型ドローン《ブルドッグ》は、四足歩行の戦闘ロボットだ。

 ずんぐりとした胴体にミニガン、迫撃砲、その他電子装備を乗せたその姿は、まさに闘犬といった出で立ちであった。


「座標2-1に向けて迫撃弾を発射!」


 オシノが命じると《ブルドッグ》に取り付けられた迫撃砲が動き出す。

 狙いをつけて、発射。

 打ち上げ花火のような音と共に、迫撃弾は砂浜に命中。

 母船をやられあわてふためく密輸業者たちは、迫撃弾に吹き飛ばされた。

 

「続けて2-3、2-4にも発射!」


 オシノの命令に《ブルドッグ》は忠実に従った。

 爆炎と共に砂浜に密輸品と密輸業者たちの死体が四散する。


 合計三発の迫撃弾を打ち込まれても、砂浜にはまだ人影が残っていた。

 残った密輸業者を掃討すべく、ぼくとオシノ。そして《ブルドッグ》は砂浜に向かって進撃を始めた


「俺と苫務で突入する。馬主来、お前はここで援護だ」

「了解!」


 アミコが答えるとオシノとぼくは、ススキが生い茂る高台から身を起こす。

 すでに《ブルドッグ》は密輸業者に向かって突入を開始していた。

 密輸業者たちは回転式機関砲を撃ちながら突進してくる《ブルドッグ》に浮足立っていた。

 機動兵器が作った突破口を、ぼくとオシノが追いかける。

 その手にはライフルが握られているが、使う機会は無かった。

《ブルドッグ》はミニガンでもって次々と密輸業者を薙ぎ払ってゆく。


 このまま制圧できるかと思ったが、それは甘い考えだった。

 連中もプロの軍人だ。すぐに体制を立て直し反撃に移った。


 ミニガンを乱射する《ブルドッグ》の向こう側に、密輸業者の一人が携帯式ミサイルランチャーを構える姿が見えた。


「オシノ、伏せろ!」


 ぼくの警告に、オシノは素早く反応した。

 砂浜に倒れ込んだと同時、対戦車ミサイルが《ブルドッグ》に命中。

 機動兵器は炎を上げて爆発した。


「大丈夫!?」

「ああ。……しかし、これはヤバイな」


《ブルドッグ》を失ったぼくたちは、一気に戦力が低下した。

 砂浜のど真ん中で立ち往生するぼくたちにむけて、銃弾を浴びせかける。


「突入する。援護して!」


 返事を待たずにぼくは駆け出した。

 砂に足を取られながら、敵の中に突入する。


 見通しの良い砂浜での戦いならば、シミュレーターで経験済みだ。

 

 敵の数と位置を補足する。

 残った敵は全部で四人。

 粗方ブルドッグが片付けてしまっているのでそれほど多くは無い。

 このくらいの敵ならばぼく一人で簡単に片づけられる。


 銃弾の雨をかいくぐりながら、ぼくはアサルトライフルの引き金を引いた。

 まず、一人。

 ぼくの撃った銃弾を胸に喰らい倒れ伏すのを確認してから、次に取り掛かる。

 二人目。

 コンピューターで自動的に弾道補正されるアサルトライフルは、実によく当たる。

 走りながら打っても敵の顔面を綺麗に打ち抜いてくれた。

 三人目はオシノが片付けてくれた。

 背後からぼくの横を通り過ぎた銃弾は密輸業者のどてっぱらを撃ち抜いた


 瞬く間に三人片付けたが、四人目は手こずりそうだ。

 他の奴らと違いこいつは慎重な奴だ。

 密輸品のつまったコンテナの影。

 ぼくの位置からでは狙えない位置に身を隠し、アサルトライフルをつきだし乱射してくる。

 その内の一発が、ぼくの背後で援護しているオシノに命中した。


「……がっ!」


 銃弾を胸に受けたオシノは、悲鳴と共に仰向けに倒れる。

 倒れた仲間に意識を取られたのはほんのわずか。

 ぼくは一気に駆け出し、コンテナの影に回り込む

 敵の姿を捕えると同時に発砲。敵は血の泡を吹いて絶命した。


 全ての敵を片付けると、ぼくはオシノの元へと戻った。

 オシノの傍らには馬主来アミコがいた。

 待機命令を無視して駆けつけて来たらしい。


「……来るなと言っただろう!?」

「あんたが撃たれたから助けに来たんでしょうが!」

「この程度、どうと言うことは無い!」


 胸に銃弾を受けたオシノだったが、防弾スーツのおかげで大した怪我はしていないようだった。

 ほっとしたのもつかの間、アミコの後ろに忍び寄る人影に僕は気が付いた。


「馬主来、後ろ!」

「え?」


 叫ぶと同時に、ぼくは腰から拳銃を引き抜いた

 棒立ちになる馬主来アミコの後方に向けて銃弾を叩きこむ。

 ぼくの放った三発の銃弾は、馬主来アミコの後方、約十メートルの所にいた男に命中した。


「ひっ!」


 男の死体と砂浜に転がる銃を見てようやく自分が殺されかえたことを悟ったらしい。

 馬主来は小さく悲鳴を上げる。


 どうやらまだ敵が残っていたらしい。

 銃を構えぼくは周囲を警戒する。 

 すると、静まり返った砂浜に耳をつんざくモーター音が響き渡る。


 振り向くと、海岸に停泊していた上陸用ボートが動き出すのが見えた。

 ボートの上には人影があった。

 軍装姿の男たちに混じって、明らかに民間人と思しき男の姿を見つけた。

 盤尻キトシだ。


 ゆっくりと海岸線を離れるボートを見つめ、オシノは舌打ちする。


「くそ、逃げられたか」

「いや、逃がさないさ」


 そう答えるとぼくは、その場にしゃがみ込んだ。

 ぼくの足元には丁度良い具合に、対戦車ミサイルが転がっていた。

 密輸業者の持ち込んだ携帯式のミサイルランチャーを拾い上げると、上陸用ボートに向けた。

 ミサイルランチャーを構え、発射する。

 白煙を上げて進むミサイルは、狙い過たず上陸用ボートに見事に命中した。

 結局、上陸用ボートは沖に出ることは叶わず、砂浜から十メートルほど離れた場所で炎上した。


「いい腕だ」

「どうも」


 オシノの褒め言葉に軽く答えてから、ぼくは海岸へ向かって歩いて行った。


 海から一人の男がこちらに向かって泳いでくる。

 盤尻キトシだ。

 何てしぶとい奴なんだ。

 命中する直前、ボートから飛び降りここまで泳いで来たらしい。

 濡れた殺人犯は、潮水にせき込みながら砂浜に這い上がって来た。


 バイザー型ゴーグルに投影される彼の姿に、個人情報は表示されない。

 そう、彼はもう市民ではない。

 骨伝導スピーカーを通して〈グノーシス〉の声が鳴り響く。


『非登録市民を発見しました。苫務ネイト司法官に提案します。対象を速やかに処分してください』


〈グノーシス〉の指示に従い僕は銃を構える。


「……ま、待ってくれ! 撃たないでくれ! その、これには理由があるんだ」


 銃を突きつけられ盤尻キトシは命乞いを始めやがった。

 つくづく往生際の悪い男だ。

 ふてぶてしい態度の簾舞とは大違いだ。


「俺は、ニートなんだ。……そう、ニートなんだよ!」

「……何だって?」

「俺は病気なんだよ! その、ADHDとかPTSDとか、そういう心の病なんだ! ホントは殺人なんてするつもりは無かったんだ。病気で仕方が無かったんだ。精神鑑定をすればわかるよ!」


 呆れたね。

 こいつは精神異常を装って罪を逃れるつもりらしい。


「頼むよ。俺を待機労働者センターに入れてくれよ。俺はニート……ぎゃん!」


 喚き散らすに向けてぼくは問答無用で引き金を引いた。

〈グノーシス〉の精神鑑定なんて必要ない。

 罪のない一般市民を虐殺した挙句、国外逃亡まで図ろうとする――そんな勤勉な奴がニートであるはずがないだろう?


§


 とりあえず、これで事件は一件落着ということとなった。

 沖合に停泊していたガンボートは逃走した。

 電子機器と武装をやられた軍用船が〈グノーシス〉の追跡を逃げ切れるわけが無い。

 その後の報告によると国境近くで海上警備隊にやられてあえなく轟沈したそうだ。


 管理局に帰還すべくぼくたちは撤収準備を始めた。

 砂浜に転がる密輸品とか死体とかは、回収班が行ってくれるそうだ。

 ぼく達の仕事は擱座した機動兵器と負傷者の回収だけでよいそうだ。

 後片付けに取り掛かろうとするぼくの元へ、馬主来アミコがやってきた。


「ねえ」

「うん? 何か用?」

「……一応、礼を言っておくわ」


 ありがとう、と言って彼女は立ち去った。

 素っ気ない態度だったが、感謝されて悪い気分はしない。


 負傷した比羅夫オシノの所には、救急セットを抱えて駆けつけた長留内ルチエがいた。


「大丈夫なの? 怪我の方は」

「ああ、何ともない。くそっ、負傷手当貰い損ねた」

 

 オシノは怪我が無かったことを喜ぶよりも、ボーナスがもらえなかったことを悔やんでいるようだった。

 メンバーの中では比較的常識人だと思っていたが、こういう所はやっぱり公務員だ。


「あーあ! どうすんだよ、これ?」


 半壊した《ブルドッグ》の前では、音標マルトが頭を抱えていた。

 初仕事で支給されたばかりの装備をぶっ壊したんだ。

 処分されるのは装備担当のマルトなんだからぼくには関係ないけどね。


 そんなこんなで、ぼくたちは州道に停めてあった装甲トラックの元へと戻った。

 ぶっこわれた機動兵器の回収作業を手伝っていると、猛スピードで車が通り過ぎて行った。

 州道を駆け抜けるその車は、あらゆる意味で異常だった。

 スピード違反は勿論、どこかにぶつけたらしくバンパーはへこみ、車体のあちこちに弾痕と思しき穴が開いていた。

 そして、すれ違うわずかな瞬間に見た車の中には、銃を持った人影が見えた。


「ねえ、今すれ違ったのってもしかして農業試験場を襲った襲撃犯なんじゃ?」

「みたいだな」

「みたいだなって。追わなくていいの?」

「ほっとけ。もう終業時刻だ」


 比羅夫オシノは素っ気なく言い放つ。


「残業しないのも労働者の権利だからな」

「下手に残業なんてしたら、能力査定に響くでしょう」


 音標マルトが、馬主来アミコが同意する。

 終業時刻だの、残業だの、査定だの――揃ってお役所仕事みたいなことを言いやがる。

 ……そういや、役人だったっけ。


「本当にこのまま帰っちゃうの? 帰っちゃっていいの!?」

「何言っているのよ、ニート君!」


 ぼくの不安をよそに、長留内ルチエは妙に陽気だった。


「今日は新しく任官した局員の歓迎パーティーがあるのよ。」

「いや、そんなパーティーなんかどうでもいいから。それと、ニートって言うのやめてくれ。ぼくもう働いてるから。司法官だから。公務員だから!」


 妙な仇名に抗議するが、誰も聞いてはくれなかった。


「急いで帰らないと間に合わないわ。スピード違反で捕まって良いから、飛ばしてくれないかしら」

「そういや俺達、昼飯食ってないよな? 」

「その歓迎パーティーってのは残業手当つくのか?」


 それぞれ手前勝手な事を口にする役人どもに、ぼくは言いようもない不安を感じていた。


 本当に大丈夫なのか、この国?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ