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7-3

 それからまた、数か月。

 ぼくはまだ、管理局で働いている。

 今更、待機労働者センターに帰ることもできないし、他に出来る仕事なんて無い。

 

 蝗害事件後、管理局は大幅に人員が削減された。

 おかげで司法官の仕事は増える一方。シフトは五人一組の班から、二人一組のペアに変更されてしまった。

 仕事が増えたって言うのに、予算まで削られてしまったんだからたまらない。

 あのでっかい装甲トラックも取り上げられて、代わりにあてがわれたのがオートクルーズ機能なしの中古のセダン。

 おかげでぼくは狭苦しい車内で不愛想な相棒と一緒にパトロールをしなくちゃならない。まったく気が滅入るよ。


 そんなある日、ぼくの元に一通の手紙が届いた。

 消印から推測するに、投函先は海外だ。

 観光客向けの絵葉書には差出人も、文章も書かれていなかった。

 それでも南国の海を映した写真を見れば、誰が送って来たものかぼくにはすぐにわかった。

 白い砂浜と透き通るような海、輝く太陽とヤシの木陰――それは、ぼくと長留内ルチエだけにしかわからない暗号だ。

 

 思えば、手紙を貰うなんて初めての体験だ。

 待機労働者センターを出てから数か月。社会を知り尽くしたような気になっていたが、まだまだ体験したことが無いことが世の中には沢山あるんだ。


 早速ぼくは絵葉書をダッシュボードの上に飾った。

 南国の海の写真のおかげで、殺風景な車内が一気に華やいだ。

 

「それ、何?」


 写真を見つめ運転席の相棒が訊ねて来た。

 よそ見運転する相棒に、ぼくは言ってやる。


「手紙だよ。友達からの」

「友達、居たんだ?」

「いいから、前見て運転しろ。事故でも起こしたらどうすんだ?」


 まったく、相変わらずつまんねぇ女だ。

 元ニートで、元テロリストで、元メイドのこの女は、今ではぼくの相棒として働いている。

 あの事件以後、〈オーバーサイト〉の方でも人員整理が行われたらしい。

 敵対組織である管理局が弱体したので、〈オーバーサイト〉は活動休止状態になったそうだ。

 テロリストが失業するのは良い事だが、何も管理局に就職することは無いだろうに。

 そんな事を考えていると突如、車内に〈グノーシス〉の声が響いた。


『事件発生。地区で強盗事件発生。巡回中のパトカーは、現場に急行してください』


 どうやら仕事の時間のようだ。

〈グノーシス〉の指示する現場に向かい、相棒は車を走らせる。

 商売繁盛だ、くそったれ! 最近、州内の治安が乱れているんでぼく達、司法官は大忙しだ。

 立て続けに発生する事件に、さすがのぼくも疲れていた。〈グノーシス〉に不満の一つも言いたくなるってもんさ。


「なあ、〈グノーシス〉? たまにはぼくも休暇が欲しいんだけど?」

『却下します』

「だってさ、ほら。ぼく司法官になってから一度も休暇とか貰ってないんだけど? あ」

『あなたに休暇は必要ありません。待機労働者センターの訓練により、職務中に受けるストレスに対応できるだけの体力と精神力があなたには備わっているはずです』

「あーっ! 頭が痛い! 割れそうに痛い! とっても辛くて死にそうだ。早く家に帰って休まないと……」

『仮病を使っても無駄です。職務に対する意欲がかけているならば、アンフェタミン、またはメタンフェタミンを処方……』

「……わかったよ! おとなしく仕事します」


 まったく、〈グノーシス〉にはかなわない。

 世界最高の人工知能の命令に、ぼくたち人間は逆らう事はできやしないんだ。

 余計なことは考えず、ただ黙って仕事をこなすだけ。そう考えると幾分、気が楽になるってもんさ。うん。




 これでぼくの物語は終わりだ。

 まあ、いろいろあったけど、最後には必ずオチがつく。

 物語にせよ、人生にせよそれは変わらないんだ。

 それが自分の意志だろうが、世界最高の人工知能の意志だろうが関係ない。

 この結末にぼくは満足している。それだけで十分さ。


 最後に、引きこもりニート生活から社会復帰した先輩として、これだけは言わせてくれ。


 働いたら、負けだぞ。


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