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5-3

 戦闘で疲れ切った体に鞭打って、ぼく達は現場の後片付けに取り掛かった。

 例によって鑑識ドローンを操り、村の中にある遺体を集めて回る。

 ただし、比羅夫オシノと馬主来アミコの遺体だけは自分たちの手で行う事にした。

 それが死者に対する最低限の礼儀だと思ったからだ。

 仲間達の亡骸を死体袋に詰め込むのは、精神的に堪えるものがあった。チェーンガンでミンチにされた比羅夫オシノの遺体は死体袋に詰め込むことすらできなかった。仕方が無いので、ビニール袋に肉片を詰め込んで冷蔵庫に保存することにした。

 彼らと出会って日も浅く、碌に話もしたことはない。特に馬主来とは衝突してばかりだった。嫌っても居た。

 それでも、共に戦った仲間だ。せめて死体となった今ぐらい、優しく扱ってやりたかった。


 一通り遺体の後始末を終えた所で、ぼく達の元へ長留内ルチエがやって来た。


「ちょっといいですか?」


 遺体処理作業に長留内ルチエは参加していなかった。

 血を見るのが苦手な性格の彼女に遺体処理作業は無理だ。

 その代わりに彼女は装甲トラックの中で〈グノーシス〉と連絡をとりつつ、周囲の探索を行っていた。


「上空を飛行中の《レイブン》が、この近くに建物があるのを発見しました。中に生体反応があります」


 そう言うと、ルチエは幌美内捜査官に携帯端末を差し出した。


「場所は村のはずれの森の中。赤い大きな門がある……これは、集会場でしょうか?」

「いや、神社だよ」


 モニターに映った建物を見つめ、幌美内が答える。

 神社って言うのは、この国で広く信仰されている『神道』言う名の宗教施設だ。

〈グノーシス〉の管理下において宗教の位置づけは非常に曖昧なものになっている。

 一応、信仰の自由を保障されてはいる。でもコンピューターに管理されている世界で神様に祈るやつなんてめったにいない。

 もともと日本人は信仰に対して無頓着だから、規制されても生活に大して影響は無いんだけれどもね。


「生体反応があるって言う事は、中に人がいるって言う事だ。農村ゲリラの生き残りが潜んでいるのかもしれんから一応、調査しておく必要があるな。苫務司法官と長留内司法官は俺についてこい。音標司法官はここに残って後片付けを続けろ」


 うげぇ、とうめく音標マルトをその場に残し、ぼくたちは神社へと向かった。


 村から神社まではそれほど遠くは無かった。

 森へと向かう道を進んでゆくと、すぐに赤い鳥居が見えてきた。

 鳥居をくぐり、低い姿勢で参道を駆け抜ける。

 石畳が敷き詰められた参道を進むと、すぐに賽銭箱が置いてある社殿を見つけた。

 ぼく達は銃を構え、社殿の中に突入する。

 格子戸を蹴破り中に入る。


「……誰もいないぞ?」


 銃を構えた姿勢で、幌美内がつぶやいた。

 村人たちはこの神社を倉庫として使っていたようだ。

 社殿の中にあったのは農機具や肥料、そして銃火器類が置いてあった。

 ここに生体反応があると言う話だったが、幌美内の言った通り人影はない。


「その下です」


 床板を指さし長留内ルチエが言った。

 見ると、一部分だけ埃がきれいに払われていた。どうやら床下に隠れているらしい。

 幌美内捜査官は窪みに手をかけ、一気に床板を引っぺがす。

 開いた床板の四角い空洞に向けてぼくは銃を突きつける。

 

「管理局の司法官だ! 全員、武装を解いて出てこい!」


 警告と共に、幌美内は空洞に向けてマグライトを突っ込んだ。

 マグライトの眩い輝きが床下に潜む人影を照らしだす。

 後ろからのぞき込んでいたルチエがつぶやいた。

 

「子供?」


 そう、床下に潜んでいたのは子供だった。


 §


 床下から子供たちを引きずり出すのは意外と骨の折れる作業だった。

 怯えきった子供たちを銃口で脅しつけながら、なんとかして神社の前に並ばせる。


 子供たちの数は総勢四十二名。

 年齢は五歳児ぐらいから十歳前後まで。義務教育の初等科ぐらいだろう。

 どうやら、全員外国人らしい。

 金髪碧眼の一目見て白人とわかる子供や、東南アジア系と思しき褐色の肌の子供もいる。

 東洋系の顔立ちの子供もいるが、話している言葉は日本語では無かった。

 彼らは酷く薄汚れていた。着ている物は粗末だし、栄養のある物を食べていないのか体つきは痩せていて顔色も悪い。

 どう見ても、まともな生活を送っているようには見えない。この村の住人でないことは明らかだ。


「……何なんだ、この子供たちは?」

「買われたんだろうな」


 奇妙な子供たちの集団に戸惑っていると、横に居た幌美内捜査官が口を開く。


「早い話が奴隷さ。この辺の連中は金持ちだ。闇米で儲けた金で外国から子供を買い取って来るのさ。使用目的はユーザーのアイディア次第さ」

「何のために、奴隷を?」

「主な使用目的は労働力だ。農作業や家事を手伝わせたりする。見た目がいい子は愛玩品として慰みものにするし、体力のある奴は戦闘訓練を施してゲリラにすることもある。何の取り柄も無い奴は殺してバラ売りすればいい」

「バラ売り? ってもしかして、臓器移植ですか? そんな。今時、臓器移植なんて……」


 蒼ざめる長留内ルチエに、幌美内捜査官は首を振って否定する。


「違う違う。臓器移植なんてするわけないだろう。食べるんだよ」

「は?」

「だから食用肉として売るのさ。ハイソな商人や豪農の中には人食が静かなブームらしい」

「…………」


 ルチエは完全に言葉を失っていた。

 それはぼくも同様だった。

 まったく、狂っているとしか言いようがない。


「酷い話だが、これでもこいつらは幸せなほうさ。外の世界じゃまともに政治が機能していないからな。ほとんどの子供は乳幼児の段階で死亡しちまう。この歳まで生きていられたのも奴隷として丁重に扱われていたからさ」


 この有様が幸せだと言える世界が、この世にはあるのだ。

 それは待機労働者センターで何不自由なく暮らしていたぼくには想像もつかない世界だ。


「どうなるんですか? 彼らは」

「処分する」

「処分って、殺すんですか!?」

「殺すんじゃない。処分だ。こいつらには非登録市民だ。人権なんてものは存在しない。野良犬や野良猫と同じ、ただの動物だ」


 それこそ犬猫を殺処分するように、幌美内捜査官は事も無げに言い捨てる。


「他に方法は無いんですか? 施設で保護するとか、故郷に強制送還するとか……」

「無いんだよ。この国の資源は限られている。際限なく増え続ける難民を抱えるゆとりなんてどこにも無い。それに、還る故郷があるのならわざわざ密入国してまで日本に来るわけが無いだろうが」

「でも、でも!」


 声を詰まらせながらもルチエは抗議する。

 しかし、幌美内は取り合うことは無かった。


「俺達が司法官として彼らに出来るのは、苦しまないように殺してやることだけなんだ。別にお前にやれとは言っていない。こういう時の為にドローンがあるんだ。音標に頼んで《ブルドック》を連れて来てくれ」

「…………」


 幌美内捜査官の命令に、長留内ルチエは従わなかった。

 下唇をギュッとかみしめ、幌美内を睨み付けたまま動こうとしない。

 二人の間に緊迫した空気が漂う。


「……ぼくが呼んできます」


 そう言うと逃げ出す様に、ぼくは村へと駆け出した。


 村の中では、音標マルトが村人たちの遺体を運んでいた。


「……まだやってたの?」

「見りゃわかんだろうが! ったく何やってんだよお前ら。俺一人に死体の後片付け押し付けやがってよ。ちったぁお前らも手伝えよ」

「死体なら、まだ増えるよ」

「あん?」

「幌美内捜査官が……」

 

 神社で起きた事を説明しようとしたその時、

 一発の銃声が響き渡った。

 

「何だ? 敵襲か!?」


 慌てふためく音標マルトを捨て置いて、ぼくは駆け出した。

 嫌な予感を必死に抑えつつ、ぼくは神社に向かってひた走る。


 予感は、的中した。

 神社には、幌美内捜査官の死体が転がっていた。

 頭をライフルで撃ち抜かれたのだろう。死体の傍らには、神社の中に置いてあったライフルが転がっていた。

 長留内ルチエと子供たちの姿は無い。


 状況を見れば、何が起きたのかは明らかだ。


『緊急連絡。長留内ルチエ司法官が幌美内捜査官を殺害し逃走を図りました』


 見れば判る事を〈グノーシス〉は親切に説明してくれた。


『殺人、及び反逆行為により、RPがマイナスを下回りました。これにより、長留内ルチエ司法官の市民権は剥奪されました。苫務ネイト司法官に命じます。長留内ルチエを追跡した後、速やかに処分してください』


〈グノーシス〉からの指令に、ぼくは駆け出した。

 鳥居をくぐり石段から水田を見渡す。

 ルチエは子供たちと一緒に逃げているはずだ。だとしたら、まだ遠くまでは逃げていないはず。

 バイザーに内蔵されているセンサーで、水田をサーチする。


「逃げて! Run way! Убегать !  躲避!」


 ぼくの読み通り、ルチエと子供たちはすぐに見つかった。

 距離約三百メートル。

 三か国語を駆使して、子供たちを追い立てる長留内ルチエの姿を捕える。

 金色の稲穂をかき分け走る長留内ルチエに向かって、ぼくはライフルを構えた。

 大きく息を吸い引き金に指をかける。

 ぼくの射撃技術と〈グノーシス〉の補助があれば、彼女の頭を吹きとばすことぐらいは簡単なことだ。


 しかし、ぼくは引き金を引くことを躊躇った。

 

 これは任務で、ぼくは司法官だ。

 何度も自分に言い聞かせるが、それでも引き金にかかった指は動くことは無かった。

 射程外へと走り去る長留内ルチエの姿を焦燥と共に見送ると、

 彼女たちの行く先に突如、黒い影が現れた。


「なんだ?」


 ぼくは銃を下ろすと、黒い影を見つめた。

 バイザーを望遠モードに切り替える。

 影の正体は、イナゴだった。

 暗雲のように空を覆い尽くす無数のイナゴの群れは、津波のように水田を呑み込みこちらに向かって押し寄せて来た。



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