一日目終了とチートの効果
……前回のあらすじ。
神様に色々聞いて、先に行ったハーレム連中を追って扉を潜ったら、そこでは何故かヒロインが王子様から求婚を受けていました。
現実逃避のあと、諦めて現実を見る。
騎士やら魔法使いやらは戸惑っているし、こっちの逆ハー要員は軽く殺気立っているし。
「なんだこりゃ」
呟いたら、全員の視線がこっちを向いた。なんで全員が俺に助けを求める目してくんだよ!
「あ、ロディ!ちゃんと来て良かった!」
この毒花、王子様の手をスルーして俺の前に来た。王子様まで殺気立ってきた。とりあえず、抱き着こうとしてくる女は避ける。
「なぁ、ワーズ。状況教えて」
「この西の王国の第二王子エドゥアルト・ウェンス殿下が、ナタリア・フィンに一目惚れした」
生徒会長ことワーズ・ディッフィントリー(元の世界では、公爵家嫡男)は忌々しげに説明してくれた。
毒花ことナタリア・フィンは俺が避けたせいで床とキス寸前だったのを風紀委員長が助けていた。
そちらは極力視界にいれないようにスルーした。
「この国の王子らしいが、我らが花に手を出すとは、許せない……」
「ロディ、受け止めてくれてもいいじゃん、ひどいなあ」
風紀委員長ことエインズ・アーカーズが低く王子に呪詛吐いてる。それを間近にいるくせに完璧にスルーして、ナタリアは俺に笑顔で触れようとしてくる。それをやっぱり避ける。
………勘違いじゃなければ、このナタリア・フィンはやっぱりゲームの知識があって、俺ルートを選択しようとして、うっかり逆ハーレムルートに入っちゃった感じらしい。だから、俺にすっごい構ってくる。
迷惑してるけど。
「ナタリア嬢、そちらは?」
「ロディオン・ティーリス。勇者として召喚された」
王子様の殺気立った問いに、ナタリアが余計なことを言い出す前に最小限の自己紹介をしておく。
毒花がふて腐れた顔をしているが、無視だ。
「それより王子様、貴方がこのど…ナタリア嬢と結婚するのはいいが、それは魔王討伐の後だろう?」
そう言ってやると、王子様のいきなりの求婚に唖然としてた人達がその言葉にハッとなって、あれこれとエドゥアルト王子を説得して、ようやく話が進んだ。なんというか、色んな説明とか無視して最初に求婚したらしく、今テンプレートな説明が始まった。
「勇者様方、どうか我らを助けてください。今、魔界より来た魔王が、魔物を使って我が国を含む人間の国々を侵略してきています。我らも戦っていますが奴らは数が多く、このままでは埒が明かないと魔王討伐に乗り出すことにしました。ですが、魔王も強く。討伐に乗り出した者は帰ってきませんでした」
悲痛な表情で、犠牲者を悼むように目線を伏せる。
つられたのか、場のテンションに乗っかったのか、ナタリアが胸元で手を組み、ひどい、と呟いている。それに対して会長、風紀委員長、書記が寄り添って慰めている。
「そこで、我が国は神に祈りを捧げて、勇者を召喚していただいたのです」
エドゥアルト王子は、再びナタリアの前に膝をついた。その表情は、さっきまでの悲痛の表情はなんだったんだと言いたいぐらい満面の笑顔だ。
「麗しき勇者ナタリア・フィン様。この命、貴女に捧げます。どうか、我らをお救いください」
求婚よりやばいこと言い出した王子様に周囲がざわめくが、俺は二番目の王子様だからいいのかな、と彼が脳みそを使って会話してない可能性を無視した。
…うん、いいんじゃないか。テンションで喋る王子様には、特技が男を侍らすことの毒花がぴったりだ。
「…エドゥアルト王子様。私たちは勇者。必ずや魔王を倒し、全ての人々に平和を捧げましょう」
ナタリアは王子の手を取った。彼女と王子の手に重ねるようにワーズが手を置き、左の肩に書記のクロイツ・ファーシーが、右の肩にエインズが、それぞれ手を置く。
魔王討伐を誓う勇者とそれに感動する王子の図に周囲が胸を打たれている。
…俺は、一歩引いて見ながら、心情は彼方までダッシュしたいほどドン引きしていた。
逃げてぇ。
その夜はどうかゆっくりしてくれと、それぞれ部屋を与えられた。部屋に夕食が運ばれ、風呂にも入ってベッドに倒れこんだ俺は、大きく溜息をついた。
この世界の生活水準は前の世界のそれと同じぐらいだ。それに少し安堵する。ハイテク過ぎや思い切りち中世よりマシだ。
今日、王子様から聞いた話は、神様に聞いた話とだいぶ違う。しかし、どうせこの世界の人間たちにこの異常事態の説明をしたのはあの神様なのだ。自分が面白いように黙ったり適当なことを言ったりしたに違いない。
深く、深く、溜息を吐いた。城内では、俺たちが勇者であることが広まったのか、色々な視線が向けられた。だいぶ、好意的な視線だったのはまぁいいが、それにも訳はある。
ナタリアの主人公補正は強力な『魅了』に変わり、男女問わずに熱い視線を向けられて、悦に浸っていた。その他の男たちの、乙女ゲームの攻略対象者らしく種類は違えど見目麗しい姿は、女たちに熱のこもった溜息を吐かせた。
…俺もだけどね。乙女ゲームの攻略対象だもん。この世界でも、美醜の判断基準はそう変わらなかった。
閑話休題。
さて。俺たち勇者は、明日から軽い戦闘訓練に入る。というのも、乙女ゲーム世界に戦闘なんかないんで、魔法は使えても戦いはしたことがなかったからだ。この世界に来た時にもらったチート能力も確認してないし。暫くは王城を拠点に冒険者(魔王が来る前から、ある程度魔物がいてダンジョンみたいなのもあるらしい。基本は戦闘力のある何でも屋、又は傭兵扱いらしい)の真似事をしながら経験を積んでいくそうだ。
とりあえず、色々なことがあり過ぎて疲れた。用意してもらった寝間着に着替えて、とっとと寝た。
……よほど後悔してるのか、夢に婚約者が出てきた。
朝の光を浴びながら、爽やかな朝に似つかわしくない暗く重い溜息を吐いた。そこそこ早めに目が覚めてしまったが、二度寝する気にはなれず、テラスでぼぉっと夢の残滓を振り払っていると、メイドが朝食の用意が出来たと扉の向こうから告げてきた。
「どこ?」
「殿下のご要望で食堂にて準備をさせていただきました」
「……あー。俺、部屋で食べるわ。テラスに準備してくれる?」
朝っぱらからナタリアに絡まれたり、嫉妬と闘争心丸出しなイケメンの相手をするなんて御免こうむる。
王族の要望だが、こっちは勇者だ。多少のワガママはお許し願おう。
俺は朝から精神的に疲れたくないという軽い理由からの拒否だが、メイドは少し焦ったような感じを声に滲ませた。
「どこか体調が優れませんか?よろしければ侍医をお呼びしましょうか?」
「いや、単に朝食は一人でゆっくり食べたいだけ。お願いできる?」
別に体調は悪くないと告げると、明らかにホッと声から焦りが消えた。
「かしこまりました。では少々お待ち下さい」
扉前からメイドの気配が去ると、俺は予め用意された服に着替えた。文化の程度があまり前の世界と差がないので戸惑わなくていい。
着替えて顔を洗って軽くストレッチしたところで、メイドが食事を持ってきたとドアをノックした。
入室を許可して、要望通り、テラスに食卓が準備されていく。
「終わったら一人にしてくれるか。給仕は別にいいから」
「かしこまりました」
この部屋付きになったメイドは、他とは違い淡々と仕事をこなす。一礼して去っていくメイドにちょっと好感を持ちつつ、俺は一人静かに朝食を食べ始めた。
さてと。朝食の後から現在まで色々と戦闘訓練を、騎士団長、軍団長、魔術師団長により施されたが。
結論として、チートまじパネェ。
だってさ、もとより魔法は使えたし、魔力が底無しなんじゃないかってぐらい魔力が出てくるし。剣を振れば何回かやればあっさりとやり方が分かった。しかも、剣以外にも多種多様な武器に数回で馴染んだ。
まぁ、それが発覚した過程は……うん、色んな人の心に結構なトラウマ刻んだだけだった。
ホント、ゴメンナサイ……調子乗ってる奴らの分まで謝っとくわ、内心。
戦闘力に関して問題なくなったので、今度は知識の収集をすることにした。