第六話 お願い聞いてくれない?
暑い。宇宙からの侵略者なんて居なくても、人間は地球温暖化に負けて近い将来滅亡するんじゃないだろうか。
「うー…、あつー…、ひざしがささるぅー…」
滴り落ちる汗を拭いつつ、唸るようにぼやく。溶ける。何がって、申し訳程度の化粧が。
くそぅ、送迎付き生活なんて送ってる所為で、暑さと日差しに耐性が出来てない…。自転車が、せめて自転車が在れば…!
照りつける日差しに辟易しながら、まだ遠い目的地を睨み付けた。
今時!何で!駅近じゃないの!!
寮か!寮が完備だからいけないのか!!其とも何か!エリート共は皆自家用車持ちか!!
エリート爆破しろっ!!
あー…、駄目だ…。暑さで思考が馬鹿になってるわー…。
つか、何でわたしこんな事やってるんだっけ…。
遠い目になりながら、わたしはこんな事になった経緯を思い返した。
ててれてれてれててれてー♪ててれてれてれててれてー♪てってれてれてっ、
プツ
「…ごめん」
実験室で流れた某洗脳ソングの着メロに、止めてから視線を逸らす。
携帯の電源切り忘れたどころかマナーモードにすらしてなかった。
真剣に言おう。歌詞付きじゃなくて、良かった…。メロディだけなら其処迄ドン引きはされないって信じてる…!と言うか、ドン引きするって事はネタが割れて居ると言う事で、逆に何の曲かわかる知識を持ってる事に衝撃を覚えるから!!かなり昔のラノベ発の深夜アニメだよ!?あ、メロディだけでも漂う、サブカル臭でバレるか!?
「電話だろ?出なくて良いのか?」
カバーを掛けて偽装したアレな小説読んでたら何読んでるのって聞かれた時位動揺したわたしに対し、怒らず気遣う好青年朝日奈…!イケメンか!?惚れるぞ!?嘘だけど!!
気付いてない?ねぇ、気付いてないんだよね…!?あぁ、マナーにし忘れるならもっと無難な着メロにしておけば良かった…。
誰だか知らないけど、電話掛けて来た奴、恨む。メールなら某有名RPGの戦闘勝利音だったのに。
「重要な電話ならまた来るでしょ。電話嫌いだし」
「急ぎの用事かも知れないだろ」
「急ぎなら寧ろメールにして欲しい」
電話じゃ取るまで緊急かそうじゃないかわからないじゃないか。
電源を切って黙らせた携帯を白衣のポケットに突っ込む。
「でも白波瀬、良くメールも無視するじゃん」
「返信してないだけで確認はしてるよ、大体」
「大体って…。お前もっとコミュニケーションを大事にしろよ」
「基本嫌いだもん、人付き合い。面倒」
わたしの返答に朝日奈は乾いた笑いを漏らした。
只今、実験室に二人きりだ。トイレ迄は許せても、流石に実験室には立ち入られたくない。高価な実験器具も在るし、繊細な実験をする事も在る。素人の介入は迷惑だ。プライバシーの侵害よりも、仕事の邪魔の方が遥かに許せない。
と、言っても、今は実験途中の待ち時間だけれど。ただ待って居るのも暇だし、論文やら学会誌やら読んだりしてた所だ。
「毒舌だよなぁ、お前。つか、腹黒。相手によって態度変え過ぎ」
「処世術じゃん。八方美人上等。害の無い嘘で自分を偽って何が悪い」
「別に悪か無い。俺には素に近い態度みたいだし。嫌われては、無いよな?」
面と向かって嫌いじゃないよななんて訊ける朝日奈は、凄いと思う。
わたしには出来ない事をやる。其処に痺れる憧れるぅ!
ま、自信過剰や厚顔無恥と紙一重と思うし、なりたいとは思わないけど。
そんな言動を厭味に感じさせない朝日奈は、其のどちらでも無いのだろう。
「…打ち解けては、居るかな。朝日奈、怒らないし」
「何だソレ」
「怒られんの、嫌いだもん。甘やかしてくれる人が良い。精神年齢低いから」
簡単に人を傷付けてしまうわたしに、呆れたり怒ったりせず付き合ってくれる心の広さを持つ相手でないと、素で対応するなんて無理だ。
大らかが行き過ぎて鈍感だと、逆に苛っとするから敬遠するけど。
「…我が儘」
「まあね」
「褒めてねぇよ」
わしわしと頭を掻いた朝日奈が、其の手でぐいとわたしの頭を掴んだ。
「怒らねぇから、頼れ。折角の同期だろ?」
「何か今日はやたら優しいね?どした?」
「其の内死にたいって言い出すんじゃないかってさ」
死ねば良いのにと言って居る間はまだ大丈夫。死にたいと言い出すとやばい。
わたしの病み度ゲージを的確に理解して居るらしい朝日奈に、苦笑が浮かんだ。
多分死にたいとは言わない。死を望まれて居る今は。わたしは、天邪鬼だから。
誰かがわたしの死を望むなら、意地でも、死んでやらない。
ああ、そうか。
だからストレスが溜まって居るんだ。
「そうだね」
頷いて、浮かべた笑いは多分人が悪い笑みだ。
「じゃあさ、朝日奈。一個、お願い聞いてくれない?」
春田さんに諾々と従って居る現状がストレスで。加えて嫌いな人付き合いを二十四時間続けさせられて居るのもストレスで。
ほんの数時間でも良いから、自由に過ごしたい。
折角だから、春田さんに目にもの見せてやりたい。
其には多分、後藤さんが休業日だと言う今日がチャンスだ。
「…嫌な予感しかしないんだが」
「大丈夫。わたしの代わりにタイムカード押してくれるだけで良いんだ」
わたしの頭から手を離し、朝日奈が顔を引き攣らせた。
悪い笑顔の儘あっけらかんと曰う。
今日やらなきゃならない仕事は済ませて有る。実験も、後一手順済ませたら結果は明日を待てだ。一時間も待たず、おやつ時前には開放されるだろう。
護衛の方々は知らないが此の実験室はダストシュートから外に出られる。
携帯電話と所員証を机に置く。
春田さんから押し付けられたICカードを電磁波遮断機能の有るカードケースにしまった。
此で多少は、GPSで捕捉される危険性を減らせるはず。
「こっから逃げるからさ、少し時間稼いでよ。ずっと護衛とか、息が詰まるんだよ」
面と向かって、死ねとは言われない。
でも彼等は、わたしが何か知って居る他人なんだ。
そつ無く仕事をこなす其の裏で、何を思ってるかなんて知れた事じゃない。
明日には掌を反し、わたしを犠に突き出すかも知れない人達だ。
「ちょっと、ほんのちょっとだけ、息抜きしたいだけなんだよ」
お願いっと手を合わせると、朝日奈は深々と溜め息を吐いた。
「…実験は最後迄付き合えよな」
「もっちろん!流石朝日奈っイッケメーン!惚れるわぁ!!」
「言ってろ。ったっく。此で不利益被ったら、お前に慰謝料請求するからな」
ごちんとわたしに拳骨を落とすと、朝日奈は何事も無かったかの様に論文へ目を戻した。
脱出計画は驚く程あっさり成功し、どうせならとことん嫌がらせをと向かった先は、
「やっと着いたぁ…」
ICカードを取り出し、首から下げるタイプのホルダーに入れて首に掛ける。
止められるかと思ったが、あっさり重厚な門を抜けられた。
地球防衛軍日本支部第八基地。
職場から最も近い位置に在る地球防衛軍基地だ。
相変わらずだらだら流れる汗を拭いつつ、疲れきった足を引き擦って歩く。
行く当ては無いが、立ち止まって居ても目立つから何食わぬ顔をして歩くしか無い。
移動にICカードを使ったから調べれば直ぐ行き先はバレるだろうけれど、其の前に少し位見て回ってみたい。
春田さんだって護衛の人達だって地球防衛軍の人間だし、春田さんに連れられて関係者に会ったり施設を見たりはしたけれど、普通の地球防衛軍隊員に会った事は無いのだ。はっきり言って彼等が何をして居るのか、全くわかってない。
そもそも軍隊集めて地球防衛が可能なのかも正直疑問だし、個々人が軍人として努力する意味なんて皆無だと思うのだが、地球防衛軍とは一体何の為に存在するのか。
太平洋戦争の竹槍高女生じゃないのか。
「一先ず、人が居る所を探す、かな」
暑さに辟易して溜め息を吐きながら、わたしはひとり地球防衛軍基地見学ツアーを開始した。
拙いお話をお読み頂き有難うございます
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