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吁、無情  作者: 調彩雨
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第四話 只今特典多めでご紹介して居ります

主人公と春田二佐の会話が延々と続いてましたが

此の章で終わりますのでお許し下さい




 では、と愛想良く笑って立ち去ろうとしたら、手首を掴んで留められました。


 あ、握力、強いっすよ…?


「話、終わってないから」


 にこり。


 …はい。座りますから。其の笑顔、ヤメテ、コワイ。

 て言うか、うん、片手懐にって、ソコニアルノハナンデスカ?


 ヤメテウタナイデ…っ!


 大人しく座ったわたしに、コワイヒトは満足げに頷いて手を離した。

 …ちゃんと手は膝に置いてね?ワタシ、サカライマセンカラ。


 ガクブル。


「大丈夫。大事な生贄をみすみす殺したりしないよ?」


 頭を撫でようとした手を、思いっ切り避ける。


 殺さなくたって、無力化する方法なんて幾らでも在るじゃないか。

 ほら、昔の中国の拷問的なアレとか、ね。ダルマサン的な、ね。


 唯でさえ在った警戒を増幅させたわたしの様子を見て、コワイヒトは手を戻して苦笑を浮かべた。


「大丈夫だって。言っただろう?彼方あちらさんの要求を、僕等は理解出来てない。君の何が琴線に触れたかわからない以上、今の君を出来る限り保存して、彼方さんに受け渡すつもりだよ。傷一つ、付ける気は無い」


 …つまり、‘わたしの命’は、わたしにとっても目の前の男にとっても切っちゃならない切り札って事か。

 死にたくないわたしに、死をちらつかせる事は脅しにもなるが、同時にわたしが逃亡手段に自殺でも選ぼうものなら困る、と言う。


 恐らくだが、誰かとヤるとか人を殺すとかも、此の場合はやられたら困る事柄に該当するのだろう。


 まあ、ヤる相手が居たら未だに処女とか無いけど。

 …買うかな。自衛手段で。


「取り敢えず、申し訳無いけどいけにえの話、受けるにしろ受けないにしろ、監視を兼ねた護衛は付けさせて貰うから。僕の人選で常時二人以上は行動を共にして貰う。悪いけど、此に関しては拒否権を認められない」


 あー…、潰されたわ。くそ。


 まあね。エリートサンですもんね。其位思い付くか。


 エリートサンは表情を引き締めてわたしを見た。


「君の為でも在るんだ」


 ほう。わたしの為、とな?


「残念ながら、世界単位は愚か国単位でも、方針は纏まって無い。現時点君については一部を除いて完全極秘事項になって居るものの、何処から、何時、ばれるかわからないんだ。強行的な考えの人間に君の事が知れた場合、危険が及ばない保証が出来ない」

「人権無視での強制拉致?其とも、開戦の狼煙のろしで血祭りでしょうか?」

「そう言う事」


 くしゃりと整った前髪を掻き乱して、見知らぬ男は、…春田地球防衛軍二佐は溜め息を吐いた。


「勝てる手段も無いのに、煽って如何するんだ馬鹿共が。第二大戦の二の舞を踏む気かよ。小学生じゃ在るまいし、何の為の歴史の授業だ。彼方さんにすら、此方の無様な現状は見透かされて居る。くれぐれも、君を守れと、言い含められたよ」


 愚痴は、つい漏れたって、所かな。苦労してるんだね。関係無いけど。


 にしても、うーん。敵さん、他人なんだけどな。なんでだ?


「だから、少なくとも、僕が、君を傷付ける事は無いと思って。犠には、するつもりだけどね」


 容赦無いな、おい。


 ちょっと同情したけど、やっぱり知らない人で十分だわ、此の男。


「で、其処は置いとくとして、此処からが本題」


 引き締めた顔を緩めて、知らない人が言った。


「君には犠になって貰いたいんだけれど、勿論、只でとは言わないよ」

「はい?」

「萩沙ちゃん限定!世界の救世主プラン一名様コース、只今特典多めでご紹介して居ります!!」


 …テレフォンショッピングばりのテンションで言いやがったよ、此奴。背後の青空が嘘臭く爽やかさを演出して、とーてーも、うざったい。


 白い目を向けたのは、わたしが狭量だからではないと主張したい。


 何度も言う様で悪いが、此方は、命が、掛かってるんだ。


 うっさん臭い男は自分が滑ったと気付いて表情を改めた。

 疲れた表情で肩を落として俯く。


「はぁ…。まあ正直な話ね、僕だって犠とかに頼りたくない訳。でも、今行き詰まっちゃっててね。現状、君に頼るしか無い体たらくに、自己嫌悪で冗談でも言わないとやってらんないんだよ」

「冗談言えば許されると思う辺り、他人事ですよね」


 うん。残念ながらちっとも同情する気にならない。


「…せめて地球防衛軍なり国会議員か内閣府なり天皇家なりから選んでくれたら、僕も遠慮無く強制犠牲者に出来たんだけどね。君、国立研究開発法人所属とは言え、民間人だからね」


 ほう、一応は気遣ったと言うか。見えないが。


「取り敢えず、監視なんか付けちゃうからね。此はせめてものお詫び。此の件断るにしろ監視が外れる迄は、此、使って良いから」


 ローテーブルに置かれたのは、一枚のICカード。


 …イヤダナー。コワイナー。


「…此は?」


 手は伸ばさない儘に問い掛ける。嫌な予感しかしない。


「特殊な身分証とでも思って。国内の公共施設と独立行政法人の施設には自由に出入りできる様になってる。有料施設も無料で利用可能。ついでに病院も無料タダ。処方箋が在れば薬も無料タダ。加えて国内に限りだけど、飛行機船舶含む公共交通機関も、無料むりょうで使用出来るから」

「いやいやいやいや!?ナニソレ!?恐!?いらないいらないいらないっ。そんな怖いモノりませんって」


 そんなもん使ったら、退路が塞がれるじゃないか。

 確かにわたしは自己中だが、其処迄面の皮厚くないぞ!?性格の悪さには自信が有っても、大々的な悪事には手を伸ばせない小心な小悪党だぞ!?


「迷惑料だと思って、持って置いて。無いと入れない所にも、来て貰うつもりだしね」


 ほら!!前半は良いけど、後半!?コワイコト言ってるじゃないか!?


「因みに、今受け取らなくても、郵送なり何なり、方法は幾らでも有るから、ね?」

「…ツツシンデウケトラセテイタダキマス…」


 笑顔だけど。とても素敵な笑顔だけどっ。


 …先刻から、怖いよ、コノヒト。良く晴れた五月晴れが、何故か余計に恐怖を助長する。


 窓、開けてくれないかな。何だか息苦しい。

 何時迄耐えられるかな、わたし。


「扨、こんなしょーもない特典は置いといてね」


 本当にしょーもないと思っているで在ろう口調で言いやがった。


 …此使って日本列島諸国行脚(あんぎゃ)の旅でもしてやろうかな。カシオペアと北斗星の最上級個室使ったるわ。

 乗り鉄舐めんな!?

 つか、此の代金どーせ税金なんだろ!?無駄使いしやがって納税者の敵めっ。


「此処からは君が人身御供ひとみごくうになった場合の話ね」


 …人身御供と犠って、どっちが婉曲な表現かな?


「まず、慰謝料として、遺族、君にとってはご両親かな、には六億支払われる」

「…ドンで?」

「否、円で。何でベトナム通貨なの…」


 桁がちょっと想像と違ったから。

 凄い!宝くじ二回当選分だね!


 微妙な顔でわたしを見た知らない人は、気を取り直した様子で続けた。


「勿論此の他に、此方は、日本が存続する限りと言う但し書きが付くけれど、三親等迄の君の親族については、今後の生活を保証しよう。万一、怪我や病気等で仕事が出来なくなった場合や、失業した場合等には、月二十万の手当てを支給する。君のご両親に対しては、君が退職年齢になる年迄、今君が貰って居る給料分を、税金無しで支払う。退職年齢以降は、君に支給されるはずだった年金を、ご両親の年金に上乗せする。加えて、君のご両親とご兄弟については、納税・兵役義務及び、医療費の支払いを免除する。国民健康保険の適用範囲外の治療・処置についても医療費に含む。特別養護老人ホーム等の介護施設や、保育所等の育児補助施設の優先・特待利用権利も付与」


 用意して居た台詞なのだろう。立て板に水で畳み掛けられた。


 …至れり尽くせりですね。てか、普通の人なら六億の時点で遊んで暮らせるからね。


「君が望むなら、親族以外でも数人なら、同じ待遇を適用する。恋人とか、親友とか、恩師とか、居たらね」


 残念。居ないなぁ。恋人居たら未だに処j(以下略)。


 にっこりとセールスマンばりの爽やか笑顔を浮かべて、知らない人はわたしに右手を差し出した。


「そんな特典たっぷりの世界の救世主プラン一名様コース、ご利用して見ませんk」

「お断りします」


 一瞬の迷いも無く、寧ろ食い気味で即答した。


 わたしに得、ひとつも無いじゃないか。

 まあ、死んでるから、だけどね。


「命在っての物種でしょうよ。自分が死ぬなら世界とか其の後とか、知りません。他人ヒトの為に死ぬ位なら自殺するわー…」


 …おぉ、我ながら性格悪い台詞だな。親弟妹すら顧みないか。外道だな。


 きっぱり宣言して目の前の爽やか男をしかと見据える。

 爽やか男は出した手を持ち上げて自分の髪を掻き混ぜると頷いた。


「そっか。うん。了解了解」


 あれ、あっさり引き下がりました?


 きょとんとして見せると苦笑を返された。


「一度で受け入れられるとは思ってないよ、流石にね。頭の片隅にでも、置いといて」


 即ち、また次回が在ると言う事、か。


 目の前の男は微笑んで、携帯を取り出した。


「うん。うん。来れるかい?うん。頼むね。そうそう。ん、よろしく、待ってるから」


 電話を終えた知らない人は改めて此方を向いた。


「今から、君の護衛役が来るから、顔合わせしてくれる?取り敢えず、暫くは此から来る六人でローテになるから」

「…遠慮しm」

「護衛を付けなさい。此は命令だよ。先刻も言ったけど拒否権は認められない。情け無いけど現状君に頼る以外の策が無いんだ。いいね?」


 発言すら許されねぇ…。


「まあ、地球防衛軍官舎で軟禁生活がお好みなら、其でも僕は構わないんだけど?何なら僕と同居する?秘書扱いで、四六時中一緒に居てあげるよ?」


 ひっ…!?


「うん?如何したの?小鹿の様に震えてるよ?」


 ワァ、サワヤカスマイルデスネ。

 スマイルゼロエンデスカ?


「ゴ多忙ナハルタニサノオ手ヲ煩ワセタリスル訳ニハ行キマセンカラ、ワタシ如キニ護衛ナンテ申シ訳在リマセンガソチラニオ願イシマスヨ」


 コノヒト、マジデ、イヤ。


 顔に笑みを貼り付けて、わたしは護衛を受け入れた。






拙いお話をお読み頂き有難うございます


人身御供をきっぱり拒否した主人公が此からどうなるのか

見届けて頂けると嬉しいです

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