第一話 其を脅しと人は言う
主人公、性格、悪いです。
※主人公の所属を独立行政法人→国立研究開発法人に変更しました(2015.04.28)
白波瀬萩沙、今日、五月朔日時点で満29歳、女、独身。
某国立研究開発法人の研究所で、博士研究員を勤めている。所謂、ポスドクってやつだ。そう、あの、夢も希望も無いと噂の、ポスドク。自殺率が高いと噂の、ポスドク。
因みに、恋人居ない歴=年齢。身長は中の下なのに、体重は…。うん、平均より大分…とだけ言って置こうかな。顔は…、あー、良く、髪を褒められる。
そうね、つまりね、永久就職の当ても無い、お先真っ暗街道爆進中。資産家のじいさまの後添いでも良いから落ちてないかなって感じ。
安定しない親不孝人生に、両親は兎も角祖父母の目が痛い。まあ、女で四年制大学って時点で良い顔しなかった、今時古過ぎな思考の持ち主さん達だから、黙殺だけどね。
上場企業に就職した二つ年下の弟が去年結婚してしまったから、余計視線が厳しくなった。あ?妹?四つ年下だけど、専門学校卒でとうの昔に結婚してますよ。ふん。
今、世界の危機とからしいけど、そんな大それたもの心配してる場合じゃない、崖っぷち人生満喫中。
正直に言おうか?
別にオセアニアに其処迄親しい知り合い居なかったし、大戦勃発に向けてあらゆる資源を自給自足にシフトしてたのが幸いして、日本に関しては燃料不足や食料難に陥る事も無かったしで、結局わたしに打撃は無かったんだ。
ちょっと、周囲が煩いな、位な?
人死んでんのに何言ってんのって思われるかも知れないけど、だって別に、隣の部屋で老人が孤独死してても、うわ気持ち悪、縁起悪、やばいな幽霊とか出たら嫌だな、位しか思わなくない?喩え其が、未来の自分の姿だったとしてもね。
と言うか、未来の自分の姿だからこそ、同情はしない。
今、わたしが、生きて居るなら、良いじゃない。誰が如何で在ろうとね。
自己中?鬼畜?そりゃどーも。褒め言葉だ。性格悪いのは自覚してる。何が一番悪いかって、性格悪いって理解してても直そうとか此っぽっちも思ってない所、かな。
だからね、リメンバーパールハーバー的な意見とか聞くと、他国でやってくれよって思うね。
良いじゃん、とっとと誇りも何もかなぐり捨てて、隷属すればさ。
生きてれば、何か良い事有るよ。わたしみたいな、お先真っ暗人生でも、多分ね。
そんな、自分良ければ何でも良しな自己中女だと言うのに、世界の救い手と言うお鉢は、空気も読まずわたしの許へ飛び込んで来たのだ。
仕事中、なんか、突然呼び出された。しかも、研究所の所長直々のお迎えで。一体何だ。
わたしは首を傾げながら、連れられる儘研究所の何処かに向かう。
何処かはわからないから。わたしみたいな末端は、偉い人の居る所なんか全く行かないし。
もしやクビか。まだ、契約期間切れてないけど。
否でも、クビにする奴をわざわざ所長が迎えに来ないだろ。
着いたのは、応接室?
無駄にお金使ってそうな部屋に入れられた。
其処に居たのは、ん?誰だ?
うん。多分だけど、知らない人だ。性別は男で、年齢はわたしと同じ位かな。他人の歳は良くわからん。偉い人とか興味無いから、知ってるはずの人の可能性も在るけど、少なくとも、ウチの研究所の偉い人ではないと思う。自信無いけど、こんな所で偉い人やるしにては若く見えるから。
知らない人は、座って待ってたけど、立ち上がってわたしに歩み寄って来た。
所長がへこへこしてる。やっぱ何か、偉い人、なのかな。
て言うかイケメンだなおい。ちょっとチャラそうだけど。
「初めまして。取り敢えず、座ってくれるかな」
おー…、良い声だ。まあ、わたしの好みからは、ずれてるけどね。
逆らわず大人しく座ると、知らない人は満足そうに頷いた。
お茶が出て、知らない人と二人だけ部屋に残された。
え、所長居なくなんの?放置?良くわからん人と二人で放置ですか?
思わず振り向いてポカーンと扉を見詰めて居たら、後ろから笑い声が聞こえた。
む。
振り返れば、知らない人が笑って居る。
「ごめんね、内緒の話だから、君にしか話せないんだ」
「…人違いでは?」
何だか聞いちゃいけないフラグを感じて、折ろうとしてみた。笑われた。失礼な。
「君は、白波瀬萩沙ちゃんで、間違い無いかな」
「人違いです」
知らない人の目線が、首に掛かった所員証を見て居るのは気付いて居たけど、しれっと断言した。
因みに所員証の記名はローマ字表記だ。Dr. Shirahase。わかるのは、苗字だけ。個人情報保護的な意味で、こうなって居るらしい。
つーかね、三十路直前の女捕まえて初対面でちゃん付けってどーよ?無礼じゃないのか。
重ね重ね失礼な事に、知らない人は、お腹を抱えて笑い出した。
「良いしらばっくれ振りだなぁ。もう」
涙迄浮かべて笑ってるよ。本当に失礼だな。
「人違いと言う事で、帰って良いですか?」
「だーめ」
ウインク。
イケメンがやると様になるけど、なんか苛っとするな。
キザな男は二次元に限る。三次元しかも目の前でやられると、うざい。うん。画面か紙面の向こうでお願いします。
「残念ながら人違いじゃないからね。ほら、此、君の事でしょう?」
取り出したるは情報端末。表示された情報に目を通…、
「個人情報保護法って知ってます?」
視線が胡乱になるのも、仕方無しと思って欲しい。記されて居たのは、過ぎる程に綿密な、わたしのパーソナルデータだ。事細かな出身経歴は勿論、健康診断の結果やスリーサイズ迄網羅されて居る。学生時代の成績表や体力テストの結果なんか迄在る辺り、ちょっと狂気を感じる。
わたしのドン引きに気付いたか、知らない人はばたばたと手を振って弁明し始める。
「調べたの僕じゃない、って言うか日本人じゃないから。兎に角、ちょっと話を聞いて貰えないかな」
「嫌です。知らない人と仲良くしちゃ駄目って、母から教育されて居ますのd、」
「春田章彦、32歳、地球防衛軍日本支部本部総務部所属、階級は二佐、役職は渉外。現在与えられている仕事は地球外との交渉及び、示された条件の履行。此、名刺ね。何か質問は?」
言い切る前に遮って自己紹介されちまったよ…。名刺を渡す流れで手を握る…って、捕獲か!?捕獲じゃないか!?
「…わたしに拒否権は」
「喩え常任理事国でも、説明を聞かずに拒否するのはマナー違反だよね?」
にっこり。
マア、ハルタサン。ナンテステキナエガオデセウ。
笑ってない。オーラが笑ってないよ!?つーか、手!離してくれ!!
「因みに僕、萩沙ちゃんの職を奪う位の権限なら、余裕で持ってるよ?わかってるよね?君が勤めて居るのは、国立研究開発法人だ」
にこにこ。
春田さんが見せたわたしの情報には、最近の状況に関して過去以上に異細かく記されて居た。
もし、春田さんが此の情報を読み込めば、わたしが此の職を失えば貞操の危機に陥るとバレる。無職になった瞬間、間違い無くお見合い→結婚ルートだ。勿論相手は良くて中年。酷けりゃ爺。
わたしは職を失う訳に行かないんですよ。春田さん。
…わかってて言ってるよね、絶対。
「お話、聞いてくれるよね?」
其を脅しと人は言う。
わたしは捕獲されて居ない方の手で顔を覆って、呻く様に答えた。
「聞かせて頂きます…」
拙いお話をお読み頂きありがとうございます
文中ポスドクについて書いて居ますが作者の勝手な偏見です
ポスドクを否定する意図は有りませんが
万一不快に思われた方がいらっしゃいましたら済みませんでした
主人公の性格がとても悪いですが
こんな主人公でも受け入れて読み進めて頂けると
とても嬉しいです