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吁、無情  作者: 調彩雨
11/43

第十話 お金の為に、命を懸ける

捕獲後の帰り道

 

 

 

 今迄お綺麗な顔の人達に、散々聞かされた世界の危機が、身近そうな人達が武器を手にする姿を見た事で、急に現実味を持って感じられた。

 イケメンなんて違う人種の関わる絵空事じゃなくて、確かにわたしに差し迫った危機なのだと。平々凡々な一般ぴーぷるを脅かす事態なのだと。


 だからと言って彼等に代わって命を散らそうなんて、思えないけれど。


 わたしの命は、わたしのものだ。




「地球防衛軍の階級って、自衛隊の時のものを持ち越しですよね?」


 基地見学を終え、夕闇の中車に揺られながら、春田さんに問い掛ける。

 行きとは真逆の、快適な移動だ。


 首に枷が無くて、左右に護衛兼監視が座って居なければの話、だけれど。


 五人乗りの乗用車。

 只今の布陣は後部座席中央にわたしで右手に佐原さん左手に椎垣さん、運転席に後藤さんで、助手席に春田さんだ。

 わたしと言う監視対象に逃げられた今日の護衛ふたりは、わたしの左右でお葬式の様な空気を発して居る。会話は難しいだろう。


「ん?ああそうだね。と言っても、外部から入って来たひとも居るし、色々配置換えとか階級変更とかもされてるけど」


 わたしの視線が自分に向いて居ると気付いたらしい春田さんが頷く。

 バックミラー越しに、目が合った。


「春田さんは、元々自衛官?」

「うん。僕も護衛も、君に関わってる人間は全員自衛官由来の隊員だよ。其の方が身元も経歴もはっきりしてるし、人柄もわかるからね」

「地球防衛軍所属と自衛隊所属って、どうやって分けられたんですか?」


 平隊員なら所属して居た基地とかで分けたのかも知れないけれど、上位の人間迄そうやって決めた訳では無いだろう。


 思って問うた問いに、春田さんはわたしの想像とは異なる答えを返した。


「任意だよ。志願式。まあ、上官の勧めとかも在るけど、全員に何方へ所属したいか決めさせたんだ」

「…全員に?」

「全員に。先ず上を決めて、地球防衛軍所属になる基地を決めて、士官の配置を決定して、士官以下の隊員の所属決定。上位の士官なんかは上や国の意向で決められた人間が多いけど、平の隊員ならほぼ自分の判断だね」


 …まさかの想像と逆?

 否、平なら如何でも良いけど上は重要って言うんだから、或意味想像通り?


「じゃあ、あんな馬鹿な事やらされてる人達は、自分で望んで?」


 馬鹿じゃないのか。


「馬鹿な事って…否定は出来ないけど」


 春田さんが片眉を上げて、溜め息と共に下げた。


「地球を守りたくて志願した奴も居るだろうけど、大半は所属基地か、給料の所為だと思うよ」

「給料?」

「地球防衛軍は自衛隊より金払いが良い。退職金や年金、殉職時の遺族年金含めてね。逆に、地球防衛軍が出来た事により自衛官の給料は下がる事になった」


 うわぁ…汚い。流石政治家汚い。


「お金の為に、命を懸けると?」

「大卒の士官候補生なら兎も角、中卒高卒の自衛官は経済的理由で自衛官を選んだ人も多いからね。中卒で正規雇用なんて、なかなか無いから」


 わたしは院卒で非正規雇用ですけどね。世知辛い。

 少し考える素振りを見せてから、春田さんが口を開いた。


「今日萩沙ちゃんを保護した夏川二曹も、金銭的な理由で地球防衛軍を志願したはずだよ?」

「え?」


 突然何を。


「彼、ああ見えてまあまあ優秀なんだ。若いけど自衛官歴長いし。萩沙ちゃんの護衛にしようかと思った位で」

「聞きました」

「そう?でね、護衛にしようと考えた人間は一応来歴とか調べるんだけど、其処、敵さんがやってくれてね」

「…は?」


 敵さんって、わたしをご所望の侵略者さん、だよね?


「君の護衛候補全員のパーソナルデータを詳細に纏めて寄越して来た。萩沙ちゃん自身のは見せたでしょ?アレ」

「…頭おかしいんじゃないの」


 異星人だし常識の違いか?

 わたしに其処迄する価値が、どうして見出せたんだ。わからん。


 …狂ってる、だろう。

 益々犠の話を受ける気がしなくなった。元々無いけど。


「其処は、ノーコメントで。兎に角、僕は夏川二曹のパーソナルデータも知って居る訳だ」

「見たんですか」

「きちんと見て決めろって言う、彼方あちらさんの要求」


 ほんっと変態だな!!怖いよ!!


 どん引くわたしに春田さんが頬を引き攣らせる。

 …春田さんとしても乗り気では無かったのだろう、と言う事にして置いてあげよう。


「…其で?」

「夏川二曹は中卒入隊の自衛官なんだけど、出身が児童養護施設なんだ」

「児童養護施設って、高卒迄面倒見てくれるんじゃ?」

「…良く知ってるね」


 常識無い自覚は有るけど其の顔は失礼じゃ在るまいか。

 たまたま知ってたたけだ。


「見てはくれるけど社会的に自立したと判断されれば出られる。夏川二曹は早く収入を手にしたかったんだろうね」

「…どうして?」


 何と無く、上手く春田さんに乗せられてる気がするが、乗せられた儘尋ねる。

 思惑通りだったのだろう。春田さんが微かに笑みを浮かべた。


「夏川二曹の家は母子家庭で頼れる親戚も無く、十歳の時に施設に引き取られてる。其の理由が、六つ年下の妹が入院して経済的に厳しくなったからなんだよ。難病で、高額な薬を飲み続けなければ直ぐにでも死んでしまうらしい。彼の母親もかなり頑張ったらしいんだけどね、無理が祟って夏川二曹が自衛官になって直ぐ亡くなられて居る」


 …昼ドラか。

 日々の生活に疲れた奥様に同情相手を与えてストレス発散させる為の、お涙頂戴物語か!


 そりゃ、軽々しく死にたいなんて言うわたしを怒る訳だよ!!


「妹さんはまだ入院中、と言うか病状は悪化の一途だ。完治の薬は現状開発されて居なくて、病気の進行を抑える薬でどうにか持ち堪えて居るが、今生きて居るのが奇跡位の話らしい。お金は、幾ら有っても足りないみたいだ」

「其、自衛官なんかやって死んだら寧ろ拙いんじゃ…」


 大戦勃発間際だったんだぞ?未だ国軍でなく自衛隊を名乗って居る事からわかる様に、日本に関しては防衛主体で積極的な開戦は避けようとしてたけど。


「死んだら、多額の遺族年金が出るから。幼馴染み、と言うか彼女さんが、看護師としてサポートしてくれてるらしいしね。かなり信頼してるらしくて、自分に何か有ったら妹を頼むとお願い出来る位の仲だ」

「…妹を恋人に託して、お金の為に戦う、と?」

「端的に言うとそうなるね。給料が上がる地球防衛軍への転属は、彼にとってみれば願ったり叶ったりじゃないかな」


 …そうですか。


 何とも言えない気持ちになって、口を閉じる。


 病気の妹の為に愛する恋人を置いて戦場へ、なんて、ベタな恋愛小説みたいな男が未だ存在したのか。

 今は何時代だ?昭和か?戦国か?其とも何か、彼は絶滅危惧種か保護対象か。


「…其で?」


 そんな、ベタな恋愛小説みたいな話を聞かせて、其で?


「其を聞かせてわたしに如何しろと?」


 同情して、彼等を守る為に犠になれと?

 お断りだ。


 すっかり暗くなった車外は何時の間にか、わたしの良く知る場所になって居た。

 あの場所と、わたしの現実は、繋がって居る。

 わたしの行動が、彼等の今後を動かすかも知れない。


 其が、何だ。


「生きてるだけで無駄なわたしより、夏川晴史の方が生きる価値が在ると?ああ其の通りですねそうですね。わたしは死んだ方が良いですね。そうすれば春田さんはこんな面倒臭い女の面倒見る必要無いですもんね」


 わたしは、恵まれてる。

 恵まれた環境で育ったくせに、ロクな人間じゃない。

 生きて居ても、社会の役に立たない屑だ。


 だから、何だ。


「そんなに殺したいなら御託を並べてないでさっさと殺せば良いじゃないですか。わたしの事を大々的に公表して、彼奴が死ねば世界が助かるんだって。そうすればきっと皆春田さんの味方ですよ。多数決であなたが勝ちます。わたしと言う人間の意思と権利を、丸きり踏み潰して」


 わたしを殺したいなら、わたしが死ぬに足る理由を用意して来い。


 何時だか忘れたが、わたしはそう春田さんに宣言したはずだ。

 わたしは死ぬ気が無いと。


 なのに此の人は、わたしの意見を変えようと必死だ。

 彼には、わたしの言葉は届いて居ないのだろうか?


 苛々する。

 元々心は狭い方だけど、今日は何時もより狭いかも知れない。

 苛立って勢いで言葉を発して、後悔するのが常なのに、止まらない。


「わたしは死ぬつもりが有りません。何度も言いましたよね?其でもあなたがわたしを殺したいなら、権力でも数の暴力でも使って、わたしの意思を叩き潰せば良い。何でそんな、わたしが自分の意思で死にたがった状況造り上げて、罪悪感減らそうとしてるんですか?何であなたは、自分が殺そうとしてる相手から、免罪符貰おうとしてるんですか?」


 家に、着いた。


 車が停まっても、左右何方かの人間が退いてくれないと降りられない。


 薄暗い車の車内で、わたしは鏡越しの春田さんを見据えた。

 外の光を反射して、わたしの目が光って見える。


「あなたの行動が正しいと思うなら、胸張って堂々とわたしを殺せば良いじゃないですか。わたしだけは絶対に、世界の為にわたしが死ぬべきなんて意見、受け入れません。わたしだけは、わたしの価値を信じ抜いて見せます。だからあなたは、わたしの信念ごとわたしを殺せば良い」


 格好好い事言って見せても、平たく言えば死にたくないって事だ。

 春田さんが必死に認めさせようとしてる、わたしの存在の無価値さを、証拠も無く否定して居るだけだ。


 生きる意味が無くても、死んだ方が世界の為でも、わたしは此の世界で生きたいのだから。

 喩え其が世界を壊すとしても、其がわたしの責任だなんて認めない。

 わたしは唯の、一般人なのだから。


「ほら、椎垣さん着きましたよ、降ろして下さい」


 言いたい事は以上とばかりに椎垣さんの肩を叩く。


 はっとして春田さんに目を向ける椎垣さんを見て、思う。

 護衛兼監視対象に逃げられたって、もしかして減俸モノなのかな?


「もしかして椎垣さん、今日の事で怒られたりお給料減らされたりします?」

「え?ああ、まぁ、はい」


 其は悪い事をした。

 八つ当たり気味に春田さんを責めた事もこっそり含めて、謝罪を口にする。


「済みません。佐原さんも。他人にずかずか生活脅かされて、ストレス溜まって春田さんに嫌がらせしたくなっただけなんですけど、迷惑掛けちゃって。後藤さんも、折角の非番に出動させちゃって済みませんでした。軽率でした」


 ストレスが溜まると考えが浅くなって駄目だ。

 此で春田さんの評価が落ちて、わたしの担当を変えられでもしたら、今より待遇が悪くなるかも知れないのに。


 春田さんは甘い人間だからわたしに選択権を与えてくれて居るけれど。

 自分で言った様に力尽くでわたしの権利を握り潰す事なんて、容易なんだから。

 わたしに選ばせようとしてくれて居るのは、春田さんの好意なんだ。

 喩え其が、どんなに残酷に思えても。


「…きつい事言いましたけど、春田さんが無理矢理わたしを殺さない事で助かって居るのはわたしです。出来れば頑張って、犠以外の方法で世界を救って下さい」

「…善処するよ」


 其、意味はイイエじゃなかったか?

 まあ、良い。

 救世主はわたしみたいな見栄え悪い奴じゃなく、春田さんみたいなイケメンの方が皆も嬉しいと思うよ。


 だから、わたしになんか構ってないで、早く交渉を転がしてくれ。

 わたしが死なない方向で。


 限り無く自分中心な考えを残して、わたしは車を後にした。






拙いお話をお読み頂き有難うございました


主人公ほっぽって純愛展開して居る夏川晴史と

何処と無くヤンデレ臭のする侵略者さん

侵略者さんが主人公に恋してて…と言う展開に

なりません


ちゃんと地球人との恋愛になる予定なので

続きも見届けて頂けると嬉しいです

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