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Infiorarsi  作者: 影都 千虎
青年
66/76

17

 少し落ち着いてから(スフォリアテッレを食べてから)、クリムは急に何かを思い出したように立ち上がった。それから困ったような顔でロレーナとネロ、それから出入り口を交互に見つめる。

「急にぃ、どうしたんですかー?」

「えっと……あの……魔力、どうにかしてきた方がいいかなって……」

 ロレーナが尋ねると、クリムはそう答えた。先程のロレーナの言葉を思い出したのだ。それに気付くとロレーナは「ああ、そのことですかー」と手を叩いた。

「あれは嘘ですからぁ、気にしなくても大丈夫ですよー」

「う……そ……?」

 キョトンとした顔のクリムにロレーナは笑顔で「はい」と答える。

「おもーい空気はぁ、クリムちゃんが引きこもってたからですしぃ、魔力はぁ、よく分かりません。ねぇ、ネロ君?」

 いきなり話をふられたネロはあわてて「あ、ああ」と返す。それから一拍置いて「クリムの雰囲気が少し違うかなって思うくらいで、他は何も」と答えた。ブランテなら他に何か感じたかもしれないが、ネロはブランテのように魔力を感じるなんて芸当は持ち合わせていないのだ。

 それを聞いてクリムは安堵のため息をついた。ずっと心配していたのだ。

「とりあえずぅ、今日はどこにもいないでぇ、家でゆっくりしませんかー? 私ネロ君が起きるまでぇ、一人で寂しかったんですよー。スメールチさんが起きるまではぁ、私この家にお邪魔してますからー」

 ね? とロレーナはクリムにウインクをした。拒否権は無さそうだ。断る気もなかったのだけれど。


 その後、三人は談笑を続け、日付が変わる前に就寝した。「生活リズムが……」と嘆くネロに、クリムとロレーナは「健康的でいいじゃない」と笑った。



 翌朝。クリムは一番に起きて、鼻歌混じりに花の水やりをしていた。

 出入口の外にあるプランターに水をやり終わると、鼻歌は急に途絶える。代わりに「何の用なの?」と、低い声を放った。

「聞かなくても分かるであろう。どうして山から下りたのだ、花畑の魔女?」

 ならばあのとき私たちについてくれば良かっただろう、とクリムの背後に立った男が固い口調で言った。男の後ろには甲冑を纏った集団が整列している。集団の甲冑は全て同じものだが、クリムに話しかけた男だけは違うものを着ていた。それは、男が特別な存在であるということを示す。

「私は、貴方たちには協力するつもりはないの」

「……そうか。まあいいであろう。もうその話は終った。ついてきてもらうぞ、クリム・ブルジェオン。貴様に拒否権はない」

 強制連行である。と男は冷たく言い放った。

 この男の名前はフィーニス・アルビトリオ。フィネティア王国の最上位騎士団の騎士団長。つまり、フィネティア騎士団の全権を握る男である。

「もし拒否をすれば、この家の主であるネロ・アフィニティーが無事ではないと思え。まず魔女を匿った時点で問題であるが……貴様が大人しくついてくれば、それを黙許してやろう」

 ネロを引き合いに出されてしまっては頷かないわけにはいかない。クリムは持っていた如雨露を定位置に片付けると、初めてフィーニスの方を向いた。

「それでいい」

 フィーニスは満足そうに頷いた。


「……ねえ、訊いてもいい?」

 少し歩いたところでクリムはそう切り出した。柔和な笑みを浮かべるフィーニスの隣をクリムは歩いており、その後ろに、常にクリムを警戒するフィーニスの部下たちがついてきている。部下の数は約三十。一人の少女を相手に随分な人数を連れているといえる。クリムが魔女であるから、そうなったのだろうが。

 フィーニスはクリムの呼び掛けに「なんだ」と答えた。

「二回、トリパエーゼをモンスターが襲ったけど……理由を知ってるの?」

「理由も何も、あれは私の指示だ。まあ……貴様の質問に答えるなら、一つは、国民に『本当にシャンテシャルムと戦争をしている』と思わせるため。一つは貴様を誘き寄せるため、だな。二回目は邪魔が入ったようであるが、一回目は貴様を追った筈である」

 フィーニスがあまりにもアッサリと、すらすらと答えるものだから、クリムは目を見開くことさえ出来なかった。

 フィーニスの言葉が終わってから、モンスターが襲ってきた日のことを思い出してみる。確かに一回目はモンスターの大群がクリムを追いかけてきていた。全てブランテが倒してくれたから、クリムは魔術を使わずに済んだのだが、ブランテが来ていなかったら確実に魔術を使っていただろう。

「よく考えてみれば、その時点で私の作ったシナリオはエントゥージア君に邪魔されてたのであるな。全く……あれは無駄なことばかりしてくれる」

 フィーニスはそう愚痴を溢した。その愚痴はクリムにあることを伝え、クリムの目を見開かせる。

「まさか、ブランテを殺したのは……」

「ああ、私の命令である」

 あれ以上は危険であるからな。と、フィーニスはこれもまたあっさりと認めたのだった。

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