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Infiorarsi  作者: 影都 千虎
青年
57/76

08

 やがてスメールチは諦めたように「分かったよ……」と呟いた。それから立ち上がって銃を構えた。

「僕が動きをある程度止めるからお兄さんは止めを頼むよ。お願いだから躊躇わないでくれよ?」

「……善処するよ」

 そう言いながらネロはスメールチに笑いかけたのだったが、スメールチの姿を見て愕然とした。

 スメールチがボロボロなのは服だけではなかった。露になった右腕は、どこか出血しているのか血が伝っているのが見えるし、左目の上ら辺も切れて血が滲んでいる。燃えてしまったのはローブだけでは無かったらしく、中の服も右の脇腹の辺りが無くなって肌が露出していた。一番酷いのは足で、左足はもう引き摺ってしまっている。

 こんな状況で、もしネロがあのまま逃げてしまっていたらスメールチは一体どうするつもりだったのだろうか。呆れを通り越したそんな疑問がネロの頭に浮かんだ。しかし考えていても仕方あるまい。動きを鈍くするだけだ。

 もうほとんど動けないであろうスメールチのために、モンスター達の攻撃は自分が何とかしようと心のなかで誓ってから、ネロは前を向き、戦闘に集中した。


 スメールチの言っていた通り、色が鮮やかな方のモンスターは知能があり魔法なども使ってきた。ネロはそれを、自分を標的にさせつつスメールチがいない方向に撃たせることでやり過ごす。危なくなりそうになると、すかさずスメールチが撃ってモンスターの動きを止めてくれるため、攻撃を受けずにモンスターの数を減らしていくことが出来た。その代わり、止めを全てナイフで刺すため、ナイフの切れ味はみるみるうちに悪くなっていった。

「ナイフがダメになってきたみたいだね。申し訳ないけど今替えは無いんだ」

「使えない訳じゃないからギリギリまで頑張るよ。数も減ってきたことだし」

「そうだね、もう増えていないみたいだ」

 スメールチはリロードをしながら、ネロはゴーレムに突き刺したナイフを抜きながら言った。ついでに、モンスターが着実に減っていくのを見て、ネロからは少し笑顔がこぼれた。しかし、気を抜いたわけではない。しっかりと集中はしていた。

 それでも、ネロは自分に接近していた植物型モンスターのツタに気付くことが出来なかった。ツタは器用にもネロの死角を移動していたのだ。

「ッ!?」

 ネロは咄嗟によけようとする。が、すぐに自分の後ろにスメールチがいることに気付いて動けなくなった。ナイフで切ろうとするが、ボロボロになったナイフでは当然無理だった。そもそも、反応が遅れていたため、ナイフが無事だったとしても無理だったのだろうが。

「何やってるんだよお兄さんッ!!」

 次の瞬間、そんな声が聞こえてネロは地面に転がった。何が起きたのか確認しようと体を起こすと、さっきまでネロがいたところにスメールチがいた。そこで、スメールチが自分を庇うために突き飛ばしたのだと気付いた。

「……くッ……」

 ネロを庇ったスメールチには、左腕、左の脇腹、それから右の太ももにツタが刺さっていた。スメールチは歯をくいしばってそれらの痛みを耐えていたが、ツタが引き抜かれると一気に脱力してその場に倒れこんだ。

「スメールチ……? スメールチッ!!」

「う……ぐ、あぁ……ッ……」

 ネロは慌ててスメールチの側へ行きツタが刺された部分の出血を抑えようとしたのだが、スメールチが苦痛にもがくように動くため思うようにいかなかった。素人目で見ても、スメールチが毒におかされていることが分かる苦しみ方で、スメールチの体は驚くほど熱い。

「この……ッ」

 自分では対処できないと冷静に判断したネロは、なんとかしてこの場をやり過ごそうと考えた。そしてモンスター達をキッと睨む。モンスターは残り三体。ゴーレムと、それに寄生した植物型モンスター、そしてフェアリーだ。

 ネロは立ち上がると素早い動きでナイフを構え、ゴーレムに突進した。攻撃をしつつも、スメールチに攻撃がいってしまわぬよう細心の注意を払う。

 が、そんな努力も虚しく、アッサリと植物型モンスターのツタが一本、ネロの右肩を捉えた。非常に残念なことに、ネロは戦闘に長けた能力を持っているわけではないのだ。

 ツタが引き抜かれると、スメールチと同じように全身の力が抜けていった。それでも完全に倒れてしまわないよう、膝立ちに踏みとどまる。そこにあるのは根性だけだった。

「うぁ……あ……ッ」

 スメールチと同じように、ネロにも苦痛と熱が襲い掛かる。必死で耐えていると言うのに、それを嘲笑うかのように両腕を振り上げたゴーレムの姿がネロの視界の端に映った。


「『クロユリ』――花言葉は『呪い』」


 万事休す。そう諦めて目をつぶると、聞き覚えのある声が響き渡った。同時に、モンスター達の動きも止まる。顔をあげると、そこには花を纏った銀髪の少女がそこに立っていた。

「ごめんね、ネロ。待ってられなかったの」

 寂しげな笑顔で、そう言いながら。

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