06
二人が黙って再び戦闘に集中しようとすると、激しい爆発音が二人の耳を攻撃した。あまりの音に、二人は動きを止め耳を押さえる。耳鳴りが激しいが、聴こえなくなってはいないようだ。
なんて安堵したのも束の間。再び爆発音がした。今度は一定のリズムで、聴力が回復する時間を与えない。
完全に動きが止まってしまった二人がその間モンスター達に攻撃されなかったのは、爆発音に合わせてモンスターが倒れていったからだ。ネロの目の前にいたモンスターが全て倒れると、その向こう側にゴーグルと耳当てを装着したスメールチの姿が見えた。手に細いは煙を吐く銃。銃を見るのが初めてだったネロにはそれが銃だということは分かっても、大まかな種類は分からなかった。
「……イズマッシュ・サイガ12。俗にいう散弾銃って奴だけど、お兄さんにはよくわからないかな。この国には銃がないみたいだしね。弾丸は麻痺させる効果を持つ特製のものを使わせてもらったよ。これでしばらくこいつらは寝たまんまさ。
……と、僕が言いたいのは銃の説明なんかじゃなくてね。こいつをつけておけば銃の音だけ緩和されるってことさ。はい、あげる。そこのおじさんにも」
倒れたモンスターを踏んで歩きながらスメールチはそんなことを言った。それからスメールチがしているのと同じ耳当てを二人に渡す。
「あ、ありがとう」
「うん。それからお兄さん、僕のこの散弾銃は改造を施してあるから、貫通する可能性があるんだ。僕も気を付けるけど、お兄さんも僕の直線距離上にいないように気を付けてね。下手したら僕に撃たれて死ぬことになるから」
ヒヒ、と笑ってからスメールチはネロに背を向けて走り出した。途中、目の前に立ち塞がるモンスターに飛び蹴りを喰らわせたり、銃で殴ったりする。案外身軽なやつだ。何処からかナイフや銃を取り出しているのだから、ローブの中は様々な武器が隠されている筈なのだけれど。
「ネロ、あのにーちゃんのお陰でこの辺のモンスターは一先ずはけたから移動するぞ。こいつら、この辺一帯にうじゃうじゃいるらしい。お前んとこは平気だったか?」
「うん。悲鳴が聞こえてこっちに来たんだ」
「あの嬢ちゃんは?」
「危ないと思って置いてきた」
「そりゃ懸命な判断だ――なッ! おいネロ、固まると余計モンスターが寄ってくるから別れるぞ。お前はあのにーちゃんの近くにいろ。そっちの方がやり易いはずだ」
軽やかな動きでミニドラゴンに踵落としを決めると、ロドルフォは親指でスメールチのいる方を指した。そこではスメールチが銃を乱射している。
「俺一人だけだったら出来そうもなかったんだがな、お前らがいるんだ。ちと、本気出してくる」
そう言うロドルフォの姿が、いつか見ていた姿と被った。そこから感じるのは重いプレッシャーとほんの少しの狂気。ロドルフォは笑っていた。
(……ああ、俺はこの人が怖かったんだっけ)
そんな余裕があるわけではないのに、ネロは昔を懐かしんでいた。ただ、昔はあんなにも怖かった背中が、今はとても頼もしいものに見えた。安心感がある。
そんなロドルフォの背中に背を向けると、ネロは仲間たちを踏んで近付いてきていたモンスターと向かい合った。
「……今だけは、俺もああなりたいな」
そう呟くと、再びナイフを逆手に構えて、モンスターに向かって突進した。




