05
悲鳴のした方向へ二人は走る。走りながら、スメールチはネロにサバイバルナイフとファインティングナイフを渡した。そして「流石に丸腰じゃ戦えないと思うよ」なんて言う。
「……やっぱりモンスターがいるのか?」
「ああ。さっきから魔力を感じるんだよ。お兄さんはわからないのかい?」
「全く」
ネロはスメールチに渡されたナイフを持ち直しつつ、気を引き締めた。前は町の人を助けることを優先して、空き瓶をもって突進をしたら痛い目を見た。同じ失敗は繰り返したくない。痛い思いだってごめんだった。だから策を練る。しかしモンスターに関する知識を持たないネロが考えたところで、それが通用するとは思えない。
「……お兄さん、何か策でも練っちゃったりしちゃってるのかな? それは無意味ってものじゃないかな?
まあ、モンスターも生物だから死角に入って体の中心……心臓を狙うのが手っ取り早いよ。ただしゴーレムは関節だね。
でもお兄さんはモンスターを倒すことよりも、攻撃を喰らわないことを考えた方がいいかもしれないね。躊躇するだろう?」
図星だった。そして的確なアドバイスだった。スメールチの優しさに感謝しつつ、ネロは走る速度をあげた。すると商店街が見えてくる。
商店街では、どのくらいいるかわからない数のモンスターが町の人を襲っていた。ゴーレムやミニドラゴン、フェアリー、スライムなど前の時よりも種類が増えている。そして何よりも、色が真っ黒ではなかった。微かに色がある。
モンスターたちの一部は何かを囲って攻撃をしていた。が、その何かに反撃され中心に近いモンスターは次々と倒れていっていた。どうやら誰か戦っているらしい。
(モンスターと戦えるってことは、ロドルフォ?)
ロドルフォ以外にこの町でモンスターと戦える人なんて今はいない。騎士団も、ブランテもいないのだから。
しかしいくら元騎士団でも、一人で戦うには限度がある。騎士団が揃っていて、やっと倒せる数かもしれないのだ。一人だけでは無理に決まっている。自分がどれだけ力になれるのかは分からないが、育ての親であるロドルフォの助けに入ろうと、ネロはモンスターの群れの中心へ突っ込んでいった。
自分に向けて伸ばされる手や足、尾などを体勢を低くしたり、身体を捻ったり、ときにはスメールチに渡された二振りのナイフを使って避けていく。
ネロにはナイフで戦う技術などない。しかし、ナイフを逆手に持って、拳を振るうようにすれば案外戦えた。思わぬところで喧嘩の日々が役に立った。経験とは、いつ必要になるか分からないものである。
「ネロ!?」
「やあ、ロドルフォ」
やっとの思いでロドルフォのもとへ辿り着くと、ロドルフォが驚いたように目を見開いた。が、動きは止まらない。あくまでも右手に持ったブロードソードでモンスターと戦いながらネロと会話をする。騎士団をやめてからずっと引きこもりをしているとは思えない動きだ。
「何しに来たんだこのバカ」
「うーん、ロドルフォの毛根を救助しに」
「ふざけてる場合かよ。俺の毛根はとっくに尽きてる」
「うん、知ってる」
会話だけ聞けば、二人とも余裕たっぷりのようだが、実際はそうではない。こんなアホな会話でもしてないとモンスターのタフさや数に心がおれてしまいそうなのだ。まあ、会話ができる時点で少しは余裕なのかもしれないが。




