03
スメールチは怒っているまたは何かを隠そうとしている。そんな答えに行き着くのにそう時間はかからなかった。
クリムは片想いの相手の重大なことを隠された怒りで考えようともしなかったが、スメールチの行動に理由があるのではないか。ねろはそこに着目したのだった。
……もし、スメールチがブランテに頼まれてブランテの行動を隠したのだったら……いや、これはない。もしこうだったらブランテはスメールチと会ったことを仄めかすようなことを書かないはずだ。ネロにはブランテがそんなミスをするはずがないという自信があった。自分のことではないのに。
では何故スメールチはブランテの行動を隠したのか。ネロには考えても考えても分からなかった。読心術でも使えない限り、行動の理由を知るなんて不可能だ。
「……ねえ、君は一体何を隠している?」
ネロは単刀直入に訊いた。スメールチがすかさず「僕が隠し事なんてするわけないじゃないか」なんて返すけれど、ネロは揺るがない。スメールチが白状するのをじっと待った。
やがてスメールチは諦めたようにため息をついた。そこには、呆れの表情があるような気がした。
「……オーケー、今回は僕の敗けだよ。珍しく正直に答えてあげよう。どうせ僕が白状したところで、ブランテ君がどうこうなるわけじゃない。
ブランテ君はね、シャンテシャルムの状況を知って国を裏切ったんだよ。女王と仲良くなって、なんとか戦争を終わらせる方法を考えて動いていたんだ。フィネティアは魔法を使わないからね。武器をダメにしたり食料を没収したり……は、ちっちゃい嫌がらせだね」
はは、と無表情でスメールチは乾いた笑い声を吐き出す。重大すぎるカミングアウトに、クリムとネロは全く笑えなかった。口を開けて呆然とする。これが話を聴いた者の正しい反応だろう。
「まあ、当然そんなことを続けてたらバレるよね。あるいは誰かに裏切られてバラされたんだろうね。戦場ではよくある話さ。それから、裏切り者には死をっていうのもね。
その手紙を書いてるとき、ブランテ君はどんな気持ちだっただろうね。少なくとも死を意識していたのは間違いないよ。だから、『なんで死にそうなときに、悠長に手紙なんか書いてるんだい』って、僕は訊いたんだ。普通逃げるべきだと思うんだよね、あの状況は」
スメールチは淡々と語っているつもりなのだろう。しかし、その口調には段々怒りが込められはじめていた。いつもの無表情も心なしか怒っているように見える。
「でもね、そんな状況になってもブランテ君はこう言ったんだ。『あの二人に心配かけたくねえんだよ』って。
自分がいつ殺されてもおかしくない状況でブランテ君は、あのバカは、君たちの心配をしていたんだ! 想像できるかい? その状況が、心境が!」
堪えきれなかったのか、スメールチは感情を露にしていた。無表情もすっかり崩れてしまっている。二人はそんなスメールチに何も言うことが出来なかった。その代わりに、自分達の勝手な勘違いと、スメールチ・ザガートカ・アジヴィーニエという男の素顔を知ったのだった。




