01
ジェラルドに目を覚まされてから、ネロは葬儀を行い、墓を建てた。ひとしきり泣いて、ようやく現実を受け入れることができたのだろう。残念ながらそこにブランテの身体は無かったのだが。
葬儀から一週間が過ぎた。
葬儀の日からネロと離れロレーナの家に居候していたクリムは、小走りでネロの店へ向かっていた。その手には一枚の紙が握られており、顔は怒っていた。
ノックもしないでクリムは店の中へ入っていく。昼間なので営業時間ではない。普段であれば買い出しに行っていてネロがいない可能性もあったのだが、今はそうではないという自信があった。なんせ、この一週間誰もネロに会っていないのだから。どうやら引きこもっているらしい。
「……やあ、クリム。一週間ぶり」
勝手に入ってきたクリムにゆっくりと体を起こしながらネロは言った。ソファーで仰向けになって本を読んでいたらしく、体の上には開いたままの本が置かれている。ネロの顔は少し顔色が悪く、やつれたように見えた。それだけでなんとなくこの一週間をどう過ごしていたかがわかってしまう。
「どうしたの、クリム。随分と怖い顔をしてるけど」
「もう、立ち直れそうなの?」
ネロの質問を無視してクリムは質問を返した。苛立ちながらも自分を気遣ってくれることに嬉しさを覚えて、微笑しながらネロは「少しは」と答える。実際はそんなに上手に出来ていないのだけれど。
「……これを、見て欲しいの」
それから質問の答えを待ってネロが黙ったのを見て、クリムは渋々話し始めた。同時に手に持っていた、握ってグシャグシャになった紙を渡す。
「……『戦争で失った尊い命に追悼』? 『憎むべきは命を奪った敵国』? 『シャンテシャルムに制裁を』? ……なにこれ」
最初は特になにも感じていなかったが、何度か読み替えすうちに記憶が甦ってきた。完全に今までのことを思い出したところでもう一度紙の中身を読むと、怒りがわいてきた。ネロの表情が一気に険しくなる。
「シャンテシャルムは、戦争をするつもりなんてこれっぽっちも無いんじゃなかったの?」
「明らかに国が嘘を言っているようにしか見えないの」
二人の中に、『ブランテを疑う』なんて選択肢は無い。シャンテシャルムは戦争をしていないという事実と、国が隠蔽を図ろうとしているという推測を二人は組み合わせて一つの仮説にしていく。すると、すぐにある最悪の答えが思い浮かんだ。
「……ブランテはまさか、フィネティアの騎士団に殺された?」
それを口にしたのはネロだった。どう考えてもそれ以外の答えは出てこない。ゾンビの群れを一人で対処できる男がそう簡単にモンスターに倒されることは無いだろう。もし襲われたとしても、死に至ることは無いはずだ。そもそも、シャンテシャルムにはそんな凶暴なモンスターなんていない可能性がある。するとブランテを殺すには不意討ちが必要になる。戦争をするつもりのないシャンテシャルムがそんなことをする必要があるのか。答えは否だ。ならば残ったのはフィネティアしかない。
「……ブランテが、向こうで何をしていたか知る必要があるの」
「どうやって?」
クリムは苛立ちを隠せない声色で、ネロの問いかけにすぐに答えた。
「決まってるの。スメールチなの」
「あの男は嘘をついているの」そう言いながらクリムは床にてをあて、魔方陣を発動し、モンスターを生成し始めた。




