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『よう。久しぶりだな。俺は元気だ。
前々から手紙を送るつもりではいたんだが、なにかと忙しくて書いてる暇がなかったんだ。悪いな。心配しちまったか? ネロは俺のことが大好きだからな。
さて、冗談はこの辺で終わりにして、近況報告と、こっちに来て分かったことをお前らに教えたいと思う。
まず、戦争のことだが、シャンテシャルムは戦争をする気がこれっぽっちもない。皆無なんだ。だから、襲い来るフィネティア軍は傷つけないよう戦闘不能にして帰ってもらうという戦法をとっている。この戦争は、フィネティアの一方的なものなんだ。
それから、こっちの女王にトリパエーゼに来たモンスターについて聞いてみたが、案の定知らなかったよ。そもそもシャンテシャルムでは黒魔術はこの世に存在していないことにされていてな。資料も何も無いんだ、それに関することはな。
だから、あのモンスターはやっぱりフィネティアのものと考えて良さそうだ。狙いは分からないけどな。
さて、物騒な話はこの辺にしておいて、近況報告でもしようと思う。
俺は今、フィネティア軍からは離れて暮らしてる。もっと細かく言うと、ドワーフのおっさんに世話になってる。なんか知らないが意気投合しちまったんだ。
女王とも仲良くしてもらってる。いや、噂通り本当に美人だぜ。ナンパのノリで話し掛けたら仲良くしてもらえたから、俺のナンパ技術も捨てたもんじゃないと思ってる。なんでフィネティアだとうまくいかないのか謎だぜ。
なかなかシャンテシャルムも美人揃いで、たまにナンパを特攻してる。まあ、判断ミスで、この前コブ付きにどつかれちまったけどな。ははは、笑えるぜ。
シャンテシャルムに行ってまで何してんだよって? まあそう言うなよ。美人を見つけたら声をかける。それがマナーだろ?
そういえば、スメールチに会ったらしいな。どうだ? 仲良くできてるか?
あいつは地味に性格が悪くて無表情だけど、嫌なやつではないぜ。まあ、気を付けてくれ。あいつは男なんだ。俺は騙された……。
だって仕方ないだろ? あいつ結構整った顔立ちしてるんだからよ。あの性格さえどうにかなってもう少し表情豊かだったらっていつも思うぜ。
ま、常に無表情でいることがあいつのポリシーらしいから、口出せることじゃないけどな。
さて……手紙って、案外何を書けばいいのか分からないもんだな。しょっちゅう顔を会わせて話してた相手ともなると尚更だ。もっと言いたいことがあったような気がするんだけどな。案外俺も不器用ってことだ。
残念ながら、俺はまだ帰れそうにない。ま、当たり前か。まだ俺任務に手を付けて無いしな。だから、もう少しだけ待っててくれ。
俺が帰ってくるまで、仲良くやれよ?
ブランテ』
◆
ブランテからの手紙を読み終えると、ネロは自然と微笑みを漏らしていた。そこには安堵や呆れなど、様々な感情が複雑に織り混ぜられている。
「ブランテ君、相変わらずみたいだね」
「……元気そうで良かったの」
ナディアとクリムも微笑を漏らした。
少し沈黙が流れてから、ネロは深いため息をついた。それからぼやく。
「……つーかあいつ男だったのか……無表情がポリシーってなんだよ……」
勿論スメールチのことである。どうして無表情にこだわりを見せるのかは当然わかるはずもない。本人に訊いてみたところで答えてもらえる見込みは無さそうだ。
「あはは……ブランテ君も引っ掛かっちゃったんだね……。でもまあ、ルッチーさん綺麗だもんねー……」
「私はあの男あんまり好きじゃないの」
「えー? なんで? ルッチーさん面白いよ?」
「どうしても好きになれないの。嘘つきは嫌い」
いつも通りの笑顔をみせるナディアとは対照的に、クリムは仏頂面で言う。その理由には初対面時のインパクトも含まれているのだろう。
それから三人はすぐに別れた。ナディアは家へ、クリムは自室のベッドへ、ネロは片付けと帳簿の記入をするためその場に残った。
そして、夜が明ける。




